人工膝関節置換術(TKA)の看護|手術後感染の看護問題・目標とリハビリ(2017/03/10)
人工膝関節置換術は、損傷した膝関節の代わりに金属やプラスチック製の人工関節を入れることで、膝関節の痛みを取り除き、患者のQOLを上げる手術です。
人工膝関節置換術の基礎知識や術後の感染リスク、看護問題や看護診断、看護目標・看護計画をまとめました。人工膝関節置換術の患者の看護の参考にしてください。
目次
1、人工膝関節置換術(TKA)とは
人工膝関節置換術(TKA)とは、損傷した膝関節の代わりに金属やプラスチック製の人工膝関節を入れる手術のことです。
関節リウマチや変形性膝関節症、外傷の後遺症などで膝関節を損傷した場合、保存的な治療法では全く効果がないケースがあります。
そのようなケースでは、症状が回復する可能性は非常に低く、強い痛みを伴います。痛みが強いと日常生活が制限され、QOLが低下する原因となります。
人工膝関節置換術は、膝を切開して、損傷した軟骨部を切除し、大腿骨側には金属の部品を、脛骨側には金属+プラスチック(高分子ポリエチレン)でできた部品を設置して、その2つの部品をはめ込みます。
出典:人工膝関節置換手術|社会福祉法人恩賜財団済生会富山県済生会富山病院
人工膝関節置換術を行うと、膝関節は120~130度までしか曲がらないので正座をすることはできませんが、手術を行うことで膝関節の痛みを取ることができ、QOLが大幅にアップするのです。
人工関節の耐久年数は個人差はあるものの、15~20年とされていますので、長期間の使用が可能ですが、農作業や重いものを運ぶような重労働は人工関節に負荷をかけることになりますので、避けなければいけません。
2、人工膝関節置換術の手術後の感染リスク
人工膝関節置換術は、患者のQOLを大幅にアップさせる治療法ですが、手術後には感染が起こるリスクがあります。
いくら滅菌されているとはいえ、人工関節は異物です。その異物を体内に入れるのですから、細菌感染を起こす可能性があるのです。人工関節周囲に感染が起こると、まずは抗生剤を投与しますが、人工関節は血流がありませんので、抗生剤を投与しても感染を完全に治癒させるのは難しいことがあります。
その場合は、膝関節を洗浄したり、関節鏡を使用して滑膜を切除したり、人工関節を除去しなければいけません。
また、人工膝関節を入れると、手術後に感染するリスクがあるだけでなく、手術後に何年も経ってから中耳炎や膀胱炎、虫歯などが原因で感染を起こす可能性もあります。
3、人工膝関節置換術の手術後の看護問題と看護診断
人工膝関節置換術の手術後の看護問題と看護診断を考えていきましょう。
■手術後の疼痛→急性疼痛
人工膝関節置換術の手術後の看護問題の1つ目は、手術後の疼痛です。手術後に疼痛が出るのは当たり前のことですが、疼痛があると食欲の低下や不眠などの影響が出てきますし、術後のリハビリが進まないリスクがあります。
そのため、看護師は術後の疼痛をアセスメントし、適切な疼痛緩和のためのケアを行わなくてはいけません。
この術後の疼痛の看護問題は、NANDAの看護診断に当てはめると、領域12安楽の「急性疼痛」になります。
■手術後の感染→感染リスク状態
手術後には感染のリスクもあります。先ほども説明しましたが、人工膝関節置換術の術後に感染が起こると、膝関節洗浄や滑膜切除、人工関節除去などを行わなければいけないこともあります。
そのため、人工膝関節置換術の術後は、感染が起こらないように看護師は援助していかなければいけません。
手術後の感染の看護問題は、NANDAの看護診断に当てはめると、領域11安全/防御の「感染リスク状態」になります。
■手術後に活動が制限されること→不使用性シンドロームリスク状態
人工膝関節置換術の術後は、基本的に術後当日は床上安静、翌日はベッドから起き上がれるものの離床不可、または車いすOK、術後2日目から松葉づえや歩行器でのリハビリが始まります。
手術当日と翌日は基本的にベッド上にいますし、人工膝関節置換術を受ける患者は高齢の人が多いので、廃用症候群のリスクが高くなります。特に、深部静脈血栓症のリスクがあるため、看護師は深部静脈血栓ができないように援助しなくてはいけません。
手術後に活動が制限されることで、廃用症候群、特に深部静脈血栓症のリスクが上がるという看護問題は、看護診断では領域4活動/睡眠の不使用性シンドロームリスク状態に当てはまります。
ただ、この深部静脈血栓症のリスクは、不使用性シンドロームリスク状態ではなく、共同問題として深部静脈血栓症の問題で看護計画を立てることもあります。
■手術をしたことで膝関節の動きに制限があること→身体可動性障害
人工膝関節置換術は術後すぐに膝関節を自由に動かせるわけではありません。リハビリで少しずつ可動域を広げていく必要があります。そのため、看護師は患者が積極的にリハビリに参加し、可動域を広げられるように援助していかなければけません。
膝関節の動きに制限があるという看護問題の看護診断は、領域4活動/睡眠の身体可動性障害に当たります。
4、人工膝関節置換術の手術後の看護目標・看護計画
人工膣関節置換術の手術後の看護目標と看護計画を、先ほどの看護問題・看護診断ごとに説明していきます。
■急性疼痛
看護目標 | ・苦痛が緩和し、良眠できる
・苦痛が緩和して、リハビリに積極的に参加できる |
OP(観察項目) | ・疼痛の有無
・疼痛スケールを用いての程度、持続時間 ・バイタルサイン ・疼痛の訴え ・苦痛表情 ・床上での活動状況 ・食事量 ・睡眠状況 |
TP(ケア項目) | ・医師の指示に基づいた鎮痛剤の使用
・レスキュー薬を用いても疼痛緩和が見られない時は、早めに医師に報告する ・冷罨法 ・安楽な体位の調整 ・気分転換を図る ・訴えを傾聴する ・不眠時は指示に基づいて眠剤を投与する |
EP(教育項目) | ・痛みが強い時はレスキュー薬を使えることを説明する
・安楽な体位を指導する ・痛みは我慢する必要がないことを説明する |
■感染リスク状態
看護目標 | 感染を起こさない |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・血液データ(炎症所見) ・創部の熱感、疼痛、発赤、腫脹 |
TP(ケア項目) | ・処置は清潔操作で行う
・保清のケアを行う ・抗生剤を確実に投与する |
EP(教育項目) | ・創部を不用意に触らないように指導する
・創部の痛みや異常に気付いたら、すぐに報告するように説明する |
■不使用性シンドロームリスク状態
看護目標 | 深部静脈血栓が発生しない |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・血液データ(Dダイマー) ・足背動脈の触知 ・下腿の疼痛、熱感の有無 |
TP(ケア項目) | ・弾性ストッキングの使用
・フットポンプの適切な使用 ・下肢の挙上 ・早期離床を促す |
EP(教育項目) | ・安静度の範囲内で下肢を動かすように説明する
・水分補給を促す ・下肢の熱感や疼痛があったら、すぐに報告するように説明する ・早期離床の重要性を説明する |
■身体可動性障害
看護目標 | ・膝関節の関節可動域が広がる
・車いすへの移動や歩行器での移動が安全に行える |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・疼痛の有無や程度 ・リハビリへの意欲の有無 ・疲労感の有無 ・リハビリ参加の有無 |
TP(ケア項目) | ・医師の指示に基づいたCPMの実施
・セルフケアのための援助を行う ・危険防止のための環境整備 ・不安の訴えを傾聴する ・医師の指示に基づいて鎮痛薬を用いる |
EP(教育項目) | ・リハビリの必要性を説明する
・安静度・制限に応じたリハビリ方法を説明する ・車いすや松葉づえ、歩行器の安全な使い方を説明する |
5、人工膝関節置換術のリハビリ
人工膝関節置換術は、リハビリがとても重要になります。早期からリハビリを開始することで、術後にできるだけ早く日常生活に戻り、社会復帰をすることができるのです。
人工膝関節置換術のリハビリは、術前から始まります。手術が決まったら、外来で筋力トレーニングや術後リハビリの準備などを行います。
術後翌日からは、床上で理学療法士(PT)によるリハビリやCPM(Continuous Passive Motion)という機械を用いたリハビリが始まります。
術後1週間でリハビリ室で本格的な歩行訓練が始まり、術後2週間で階段の昇り降りや全荷重歩行などのリハビリを行い、術後3~4週で退院となります。退院後も、外来通院をしてリハビリを続けていきます。
看護師は医師やPTと連携しながら、入院中のリハビリを支援し、リハビリに積極的に取り組めるように援助していかなくてはいけません。
まとめ
人工膝関節置換術の基礎知識や術後の感染、看護問題と看護診断、看護目標と計画、リハビリについてまとめました。
人工膝関節置換術は患者のQOLを上げるための有効な治療法ですが、患者によっては術後のリハビリに積極的に参加しないことがありますので、疼痛緩和や日常生活援助、精神的な援助などを通じて、進んでリハビリに参加できるように援助しましょう。
埼玉県在住。埼玉県内の大学病院(整形外科)で正看護師として5年勤務した後、結婚・出産を機に離職。現在は2児のママとして、育児をしながらライターとして活動している。趣味はヨガ。産後の体型維持のために始めたものの、今では体幹トレーニングなど、スポーツとしての楽しみを感じている。
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