SSI(手術部位感染)の看護|ガイドラインや原因、2つの看護計画(2020/05/30)
SSIとは手術部位に起こる感染のことで、手術全体の5.4%に起こっています。SSIは手術中の対策で低下させることができますが、術前・術後の病棟での看護でも発生率を下げ、予防することができます。SSIの基礎知識やガイドライン、原因、症状、看護計画をまとめました。術前・術後の看護をする時の参考にしてください。
1、手術部位感染(SSI)とは
手術部位感染(SSI=Surgical Site Infection)とは、術後30日以内に発生する手術操作が直接及ぶ部位に発生する感染症と定義されています。手術の切開創の感染だけでなく、腹腔内感染など臓器・体腔の感染も含まれます。手術が原因で起こる感染には、創部の感染(SSI)以外にも尿路感染や肺炎などがありますが、手術が間接的な原因であっても術野外で起こった感染症はSSIではなく、「遠隔臓器感染症」と定義されます。
SSIは感染部位によって3つに分けることができます。
・表層切開創SSI=皮膚、皮下組織
・深部切開創SSI=軟部組織、筋膜、筋 ・臓器/体腔SSI=臓器/体腔 |
出典:阪大病院感染制御部 感染管理マニュアル F.侵襲処置・医療器具関連感染防止対策 Ⅳ.手術部位感染予防策
厚生労働省の院内感染対策サーベイランス事業SSI部門JANIS2017年年報によると、2017年の全体のSSI発生率1)は5.4%となっていますが、手術部位によって発生率は大きく異なります。
代表的な手術手技別のSSI発生率は以下のようになっています。1)
手術手技 | SSI発生率 |
BILI-PD(膵頭十二指腸切除) | 24.9% |
COLO(大腸手術) | 11.2% |
GAST-T(胃全摘) | 11.5% |
TAA(胸部大動脈手術) | 3.5% |
HPRO(人工股関節) | 0.7% |
THOR(胸部手術) | 1.5% |
VSHN(脳室シャント) | 2.4% |
消化器外科の手術は、脳外科や胸部外科、整形外科などの手術に比べると、創汚染のリスクが高いため、SSIの発生率が高くなります。
2、手術部位感染(SSI)のガイドライン
日本でのSSIの予防対策は、アメリカのCDC(Centers for Disease Control and Prevention=アメリカ疾病予防管理センター)の「手術部位感染の予防のためのガイドライン2017」に基づいて行われていることが多いです。CDCのSSI予防のガイドラインでは、エビデンスレベルに応じて、次の5つのカテゴリーに分類して、予防の勧告をしています。
ここではカテゴリーⅠAやⅠBの代表的な勧告をご紹介します。
・カテゴリーⅠA=高いエビデンスがある強い勧告
・カテゴリーⅠB=低いエビデンスや常識がある強い勧告 ・カテゴリーⅠC=州や連邦規制によって必要とされる強い勧告 ・カテゴリーⅡ=弱い勧告 ・勧告なし/未解決問題=不確かなエビデンスがある未解決問題、又はエビデンスなし |
■非経口の予防抗菌薬
・手術前の抗菌薬は臨床実践ガイドラインに基づいた適用の時のみに投与し、手術時に抗菌薬の濃度が確保されるタイミングで投与する。
・帝王切開前は予防抗菌薬を投与する。
・SSI予防のために、手術切開部に抗菌薬を塗布しない。
■血糖コントロール
・周手術期は200mg/dl未満に血糖値を管理する。
■正常体温
・周手術期は正常体温を維持する。
■酸素化
・挿管中の患者は術中と抜管後はFiO2を増加させる。酸素輸送を最適にするために、周手術期の正常体温と十分な体液補充を維持する。
■消毒薬予防
・手術前日には石鹸や消毒薬を用いたシャワー浴や入浴をさせる。
・アルコールによる皮膚消毒を行う(禁忌を除く)
このCDCのSSI予防ガイドラインのほかに、WHO(世界保健機関)も「手術部位感染予防のためのグローバルガイドライン,2016」を出しています。
3、手術部位感染(SSI)の原因
SSIの原因は、皮膚の常在菌など患者自身の内因性の細菌叢であることが多いですが、医療従事者や手術室の環境など外部からの細菌が原因となってSSIが発生することもあります。SSIの主な原因菌は次の通りです。2)
・黄色ブドウ球菌(20%)
・コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(14%) ・腸球菌(12%) ・緑膿菌(8%) |
そして、SSIが発生するリスクを上げる要因や危険因子には、次のようなものがあります
患者側の要因 | 医療側の要因 |
・年齢
・性別 ・栄養状態 ・喫煙 ・肥満 ・既にある感染巣 ・保菌者 ・糖尿病 |
・カミソリによる剃毛
・皮膚に対する不適切な処置 ・手術室の換気不良 ・手術手技(止血・組織損傷・死腔) ・不適切な抗菌薬の予防投与 ・デバイスの挿入 ・手術室の出入り ・ドレーンの留置 ・不適切な滅菌 ・手術時間 ・再手術 ・ステロイドの大量投与 |
これらの要因によって原因菌が創部を汚染し増殖して、SSIを発生させるのです。
4、手術部位感染(SSI)の症状
SSIの主な初期症状は次のようなものになります。
・創部の発赤、腫脹、疼痛(表層切開創SSI)
・創部からの膿性排液(深部切開創SSI) ・ドレーンからの膿性排液(臓器/体腔SSI) |
SSIの症状は、一般的な感染の症状と同じですので、これらの症状に加えて発熱も出てきます。初期症状を放っておくと、再手術をしなければいけないこともあります。さらに、全身感染に移行して、敗血症から敗血症性ショックを起こし、死に至ることもあります。だから、看護師はSSIを正しく理解し、術前から予防のための看護計画を立案して、看護ケアを行っていかなければいけないのです。
5、手術部位感染(SSI)の看護計画
SSIの看護計画は、術前の感染予防と術後の感染予防の2つがあります。看護問題を「感染リスク状態」として、予防するためのケアを行うために、感染予防のための看護計画を立案していく必要があります。
■術前の看護計画
術前は、SSIが発生するリスクをできるだけ低下させることを目標にして、看護計画を立案し、ケアをしていかなければいけません。
看護目標 | 手術に向けて、SSI発生リスクを排除することができる |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・血液データ ・胸部レントゲン・喫煙歴の有無・既往歴 |
TP(ケア項目) | ・前日に入浴、シャワー浴をしてもらう
・剃毛が必要なら電気クリッパーを用いる ・医師の指示に基づき血糖コントロールを行う ・術直前に抗菌薬投与の指示がある場合は、指示を守り確実に投与する |
EP(教育項目) | ・SSIについて説明する
・術前30日間は禁煙してもらうように指導する |
術前にSSIを予防するために看護師ができることは、まずは皮膚の清潔の保持です。オペ前日にはシャワー浴、又は入浴してもらうようにします。もし、シャワー浴ができないのであれば、全身清拭をするようにしてください。
また、剃毛が必要であれば、電気クリッパー(サージカルクリッパー)を用いて剃毛をするようにしてください。剃刀を用いると、皮膚に小さな傷ができて、そこから感染を起こすリスクが高くなります。術前の抗菌薬の投与は、オペ室で麻酔導入直後に行われることが多いですが、病棟で投与する指示が出ることもあります。その場合は、投与時間を守り、確実に投与するようにしてください。
最後は、禁煙についてです。喫煙者は創部の治癒が遅延することがわかっていますので、手術の30日前からは禁煙してもらうように、家族を巻き込んで禁煙指導をするようにしましょう。
■術後の看護計画
オペ後は、全身管理をしながらも、SSI予防のためのケアを行っていかなくてはいけません。
看護目標 | SSIを発生させない |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・血液データ(WBC、CRP) ・胸部レントゲン・創部の状態(腫脹、発赤、疼痛)・ドレーンからの排液量、性状 |
TP(ケア項目) | ・医師の指示に基づく抗菌薬の投与
・血糖値の測定と管理 ・創部処置は清潔操作を徹底する ・ドレーンは排液が停滞しないように屈曲や固定位置などに気を付ける ・ドレーンパックが床につかないように固定する ・手指衛生を徹底する |
EP(教育項目) | ・創部に痛みや異常を感じたら報告するように指導する
・創部の清潔保持の重要性を説明する ・ドレーンにはできるだけ触れないように指導する |
オペ後は創部の清潔保持とドレーン管理が、予防のキーポイントになります。創部処置をする時には、創部を観察しながら、清潔を保持しなければいけません。
また、ドレーンが屈曲するなど排液が妨げられると、排液が創部に戻り、感染を起こす原因となりますので、スムーズに排液できるように、ドレーン管理には注意してください。
また、ドレーンバックが床につくと、逆行性感染を起こすリスクがありますので、床につかないようにベッド柵などにしっかり固定しておくようにしましょう。
まとめ
手術部位感染(SSI)の基礎知識とガイドライン、原因、症状、看護計画をまとめましたが、いかがでしたか?SSIはすべてを予防することはできませんが、術前・術後の看護師のケアによって、リスクを低下させることは可能です。術前・術後の感染予防のための看護計画を立案して、しっかり予防するようにしましょう。
参考文献
1)院内感染対策サーベイランス事業SSI部門JANIS2017年年報(厚生労働省)
2)北大病院感染対策マニュアル 3-4(手術部位感染予防策|2016年)
愛知県名古屋市在住、看護師歴5年。愛知県内の総合病院(消化器外科)で日勤常勤として勤務する傍ら、ライター・ブロガーとしても活動中。写真を撮ることが趣味で、その腕前からアマチュア写真家としても活躍している。
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