DNRの看護|Do Not Resuscitateのガイドライン・同意書と看護研究(2017/08/16)
DNR(Do Not Resucitate)とは、心停止時に心肺蘇生をしないことを指します。近年ではDNRではなく、DNAR(Do Not Attempt Resucitation)という言葉を使うことが多くなっているかもしれません。
DNRの基礎知識やガイドライン・勧告、同意書、看護のポイント、看護研究をまとめました。看護師はDNRを正しく理解しておかなくてはいけません。DNRについてもう一度、学んでおきましょう。
1、DNR(DNAR)とは
DNRとはDo Not Resucitateの略で、患者が心停止になった時に心肺蘇生法(CPR)を行わないことです。
1995年には日本救急医学会救命救急法検討委員会から「DNRとは尊厳死の概念に相通じるもので、癌の末期、老衰、救命の可能性がない患者などで、本人または家族の希望で心肺蘇生法(CPR)をおこなわないこと」という定義が示されています。
DNRはあくまで心停止時に心肺蘇生を行わないという指示であり、通常の医療を行わないという指示ではありません。
そのため、「DNRの指示があっても、通常の医療や看護には影響はない」ことは、看護師として誤解のないようにしておかなくてはいけません。
DNRであっても、昇圧剤や抗生剤の投与は中止されません。ただ、心停止になった時に胸骨圧迫などの心肺蘇生を行わないというだけになります。
DNRと同じような意味でDNARという言葉もあります。DNRは「Do Not Resucitate=心肺蘇生を行うな」という意味になります。このDNRという言葉だと、「心肺蘇生を行うと蘇生が成功するので、心肺蘇生を行うな」と間違った解釈をされることがあります。
それを受けて、AHA Guideline 2000ではDNRではなく、DNAR(Do Not Attempt Resucitation)という言葉を用いることが推奨されました。
DNARという言葉は、「成功しない蘇生をあえて試みるな」という意味合いになりますので、曲解されることがなく、妥当な言葉であるとして、全世界で多用されるようになっています。
さらに、Guideline 2010ではDNARではなくAND(Allow Natural Death)という言葉が使われる機会が増えるだろう説明しています。
2、DNRのガイドラインや勧告
現在の日本においては、公的な機関によるDNRや終末期医療の明確なガイドラインは示されていません。法整備についても不十分であるとされています。
ただ、2016年12月に日本集中治療学会は「Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告」を発表しました。
<Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告>
1、DNAR指示は心停止時のみに有効である。心肺蘇生不開始以外は集中治療室入室を含めて通常の医療・看護については別に議論すべきである。
2、DNAR指示と終末期医療は同義ではない。DNAR指示に関わる合意形成と終末期医療実践の合意形成はそれぞれ別個に行うべきである。 3、DNAR指示にかかわる合意形成は終末期医療ガイドラインに準じて行うべきである。 4、DNAR指示の妥当性を患者と医療・ケアチームが繰り返して話合い評価すべきである。 5、Partial DNAR指示は行うべきではない。 6、DNAR指示は日本版POLST-Physician Orders for Life Sustaining Treatment-(DNAR指示を含む)「生命を脅かす疾患に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書」に準拠して行うべきではない。 7、DNAR指示の実践を行う施設は、臨床倫理を扱う独立した病院倫理委員会を設置するよう推奨する。 |
「DNAR指示にかかわる合意形成は終末期医療ガイドラインに準じて行うべきである。」の終末期医療ガイドラインとは、厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」、あるいは日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」のことで、この2つのガイドラインの内容を忠実に踏襲すべきであるとしています。
Partial DNARとは、直訳すると「部分的なDNAR」になります。心肺蘇生内容をリストとして提示し、「胸骨圧迫は行うが気管挿管は施行しない」のように心肺蘇生の一部のみを実施する指示のことです。
心肺蘇生の目的は救命です。一部だけの心肺蘇生をしても、救命をすることはできないので、Partial DNARは行うべきではないとしています。
POLSTとは、アメリカで使用されている生命維持治療に関する医師による携帯用衣料指示書のことです。日本版POLSTは日本臨床倫理学会が作成して公表しています。
ただ、日本版POLSTは急性期医療領域で合意形成がないため、十分な検証をせずに導入することに危惧があるため、日本でのDNAR指示に用いるべきではないと日本集中治療学会は勧告の中で述べています。
3、DNRの同意書
DNRは患者本人、もしくは家族の希望・同意があって行うものであり、医療者の意向で行うものではありません。
患者本人や家族の同意を得られていない状態で心停止時に心肺蘇生を行わないと、訴訟問題に発展するリスクがあります。
そのため医師が、DNRが妥当であると判断した場合、もしくは本人や家族がDNRを希望した場合は、看護師は医師と患者本人、家族との話し合いの場を設けなければいけません。
そして、医師から本人と家族にDNRについて詳細な説明が行われ、本人や家族がそれに同意した場合は、同意書に署名をしてもらう必要があります。
同意書に署名してもらう場合には、看護師は本人や家族に医師からの説明をしっかり理解できたかを確認し、さらにいつでもこの決定を撤回できることを伝えておかなくてはいけません。
また、最後に記入漏れ等がないかどうかを確認しておきましょう。
DNRの同意書の書式や同意書に関する手続きは、各施設によって異なります。各施設に倫理委員会や管理部がDNRに関する指針を出していると思いますので、確認しておくと良いでしょう。
4、DNRの看護のポイント
DNRを決定する時の看護のポイントとDNR決定後の看護のポイントを説明していきます。
■DNRの決定に関する看護のポイント
DNRの決定は患者本人や家族にとって、とても大きな決断になります。特に、家族は「患者本人に苦しんでほしくない」という気持ちと、「できるだけ長生きしてほしい。死んでほしくない。」という気持ちが混在しています。
DNRについて患者本人や家族が悩んでいる時には、次のことに注意して看護を行いましょう。
・本人や家族の気持ちを汲み取る
・正しい情報を提供して、患者と一緒に考える ・家族間の仲立ちをする ・患者と家族が話し合うように促す ・医師に正しい説明を促す |
DNRの決定に関しては、医療者の意思を反映させてはいけません。看護師として働いていると、たくさんのDNRの症例を経験することになります。
たくさんの症例の経験から、「この患者の状況なら、DNRにすべき」という考えが浮かび、無意識のうちに本人や家族にDNRを促したり、言葉の端々に「DNRにしたほうが良い」と匂わせることがあります。
そうすると、本人や家族の意思決定に看護師の意思が反映されるリスクがありますので、看護師はあくまで中立的な立場を保ち、意思決定への支援をするだけであることは忘れないようにしましょう。
■DNR決定後の看護のポイント
患者本人や家族がDNRに同意し、同意書に署名をもらったら、医療者全体で意思統一をして、共通認識を持っておく必要があります。
その患者の治療・看護にかかわるスタッフ全員が「DNRである」という認識を持っておかないと、心停止になった時に心肺蘇生が行われ、本人や家族の意思とは異なる治療が行われる可能性があります。
そのため、カンファレンスを開いたり、申し送り等で周知を徹底しておくようにしましょう。
また、DNRと言っても心停止時の心肺蘇生を行わないだけで、通常の治療・看護は行われます。
DNRだからモニターはつけない、心停止まで何もしないというわけではありませんので、看護師はQOLや人間としての尊厳を考慮しながら、最善のケアを行っていくようにしてください。
5、DNRの看護研究
DNRに関する看護研究はたくさん行われています。DNRの患者や家族に対する看護師の役割や考え方、ケア方法などを勉強したい人は、DNRに関する看護研究の論文を読んでみると良いでしょう。
■わが国のDNARの選択をゆだねられた家族への看護援助に関する文献検討(家族看護学研究 第22巻第 1 号|片岡恵理、伊東美佐江|2016年)
■委員会報告 日本集中治療医学会会員看護師の蘇生不要指示に関する現状・意識調査(日集中医誌|日本集中治療医学会倫理委員会|2017)
■終末期医療における看護師の機能と役割 −埼玉県内の大規模な病院と中小規模の病院を対象とした実態調査−(埼玉医科大学雑誌 第 35 巻第 1 号|松下年子|2008 年 12 月)
■わが国のクリティカルケア領域における終末期看護研究の動向(日本救急看護学会雑誌 第16巻 第1巻|江尻晴美、片岡秋子|2014年)
■5. 急性期病院に勤務する看護師はDNRについてどう考えるか ―アンケート調査より見えてくるもの―(第19回群馬緩和医療研究会<セッション2>)(The Kitakanto medical journal第60巻 第1号北関東医学会|佐藤, 和也 ; 鈴木, 雅美 ; 高橋, 結花 ; 清水, 政子 ; 磯部, 孝弘 ; 金子, 京子 ; 小保方, 馨 ; 須藤, 弥生 ; 土屋, 道代 ; 岡野, 幸子 ; 田中, 俊行|2010-02-01)
これらの看護研究の論文を読むと、DNRの患者や家族に対して、看護師はどのような看護を行うべきか、DNRをどう考えるべきかが見えてくると思います。
まとめ
DNRの基礎知識やガイドライン・勧告、同意書、看護のポイント、看護研究をまとめました。DNRは明確なガイドラインがないため、とてもデリケートで難しい問題です。
看護師は患者やその家族がDNRについて正しく理解しているのかを確認し、どのような希望・要望があるのかをしっかり汲み取って、医療者と患者・家族の認識に相違がないように医師と患者・家族の橋渡し役・調整役としてケアしていくようにしましょう。
参考文献
Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告(日本集中治療医学会雑誌|日本集中治療医学会|2016/12/20)
DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)の考え方(日集中医誌|日本集中治療医学会倫理委員会|2017)
蘇生術を行わない(DNR)指示に関する指針(坂総合病院管理部|2008年3月10日)
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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