整容における看護の目的と援助方法、実施に際する留意点について(2016/12/27)
整容とは、その文字の通り容姿や身だしなみを整えることを言います。健常な人であれば、身だしなみを整えるのは難しいことではありませんが、加齢や体調不良、さらには疾患などが影響して、自分で行うのが難しい場合があります。
また、整容を疎かにすると衛生面や生活の質(QOL)に影響を与える可能性がありますので、自身で行うのが難しい患者に対して、看護師は積極的に援助をしてあげる必要があります。ここでは、整容における看護の目的や手順、留意点などについてご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
1、整容における看護の目的
整容には洗顔、整髪、歯磨き、爪切り、髭そり、更衣などがあり、普段、人は当たり前のように自分自身で身だしなみを整え、清潔な状態を維持することができます。しかし、身体的状態や精神的状態などの影響で、それらが制限されたり困難になるなど、患者の状態により援助が必要となる場合があります。
では、なぜ日常的に身だしなみを整える必要があるのでしょうか。整容における看護には、以下の目的があります。
■生活習慣の維持と生活リズムの確立
疾患や安静度の制限により、これまでの生活習慣が制限されたりできなくなったりします。生活習慣や生活リズムが乱れることによって、ストレスの増強や意欲の低下を引き起こす可能性があります。それらを防ぐためにも、メリハリのある生活リズムを確立することはとても重要です。
■皮膚や粘膜の清潔保持
皮膚や粘膜を清潔にすることで、新陳代謝を促進し生理的機能を維持するだけでなく、感染の予防にもつながります。
■爽快感を与え、気分転換を図る
整容や身体を清潔にすることで気分を爽快にし、気分転換を図ることができます。また、それが意欲の向上や生活の質(QOL)の向上につながることもあります。
ヘンダーソンの看護理論である「14項目の基本的ニード論」の中にも、「身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する」という項目が挙げられているように、整容は人間の基本的な欲求のひとつです。その欲求の程度は患者個人によって異なるため、個々の欲求や状態を把握し、その人に合わせた方法で援助していくことが大切です。
2、整容における看護の手順
整容への援助を行う際には、環境やプライバシーに配慮し安全に援助を行えるかを事前に確認する必要があります。効率よく援助ができるよう、あらかじめ必要な物品を準備しておきます。必要な物品は患者の状況によって異なるため、柔軟に対応していきましょう。
整容には身だしなみを整えるための様々な行為がありますが、ここでは洗顔、整髪、爪切り、髭そり、歯磨きについてそれぞれの手順を説明します。
■洗顔
患者の状態により、ベッド上または洗面所で行います。洗顔が難しい場合は、濡れタオル等で顔を清拭するだけでも良いでしょう。洗顔が終わったら、鏡を見てもらい患者への意識付けを行いましょう。
■整髪
くしやブラシを使って髪をとかします。髪が絡まっている場合は、無理に引っ張ったりせず、根元をおさえながらやさしくブラッシングします。患者の好みに髪型を整え、必要な場合は髪を結います。終了したら、抜けた髪の毛をすぐに片づけます。洗顔同様、鏡を見てもらうことで患者への意識付けを行うとより効果的です。
■爪切り
深爪にならない程度に、爪切りで爪を切っていきます。切った爪が散らからないよう、手の下にティッシュやごみ箱を準備しておきましょう。爪を切った後は、できるだけやすりで爪を整えます。水虫などで爪が硬くなっている場合は、手浴や足浴で温めてから行うと、爪が柔らかくなり切りやすくなります。
■髭剃り
感染予防のため、患者ごとに専用のものを使用し髭を剃ります。安全カミソリを使用する場合は、石鹸やシェービングフォームを使用し、皮膚を傷つけないように注意しながら行います。終了後は必要に応じ洗顔や清拭を行い、患者の好みに合わせて化粧水やシェービングローションなどで肌を整えます。
■歯磨き
義歯の有無や咳嗽の可否などに考慮し、患者の状態に合わせて歯磨きを行います。歯ブラシを使うと出血する場合や乾燥がひどい場合は綿棒を湿らせて口腔内を清潔にします。
3、整容に対する看護計画のポイント
整容に対する看護計画を立てる際は、患者の状態を把握することが非常に重要です。以下のポイントを押さえて情報収集し、それぞれの患者に合った方法で援助ができるよう計画を立てていきましょう。患者の状態を把握するためのポイントは以下の通りです。
■患者の疾患・病態
患者の疾患や病態は患者の安静度や自立度、精神的な状態に影響を与えます。病態を把握し、注意点や問題点を抽出しましょう。
■安静度・自立度
患者がどこまで自分でできるか、行動の制限の有無によって援助の範囲は異なります。患者が自分でできることは、できるだけ自分で行えるようサポートしていく方法を検討しましょう。
■理解度
患者がどの程度、整容の必要性を理解しているかを確認します。必要性を理解できていなければ、援助が押しつけになったり、一方的になったりします。必要性を理解したうえで援助できるよう働きかけましょう。
■痛みや障害の程度
痛みや障害により、自分でできる範囲が制限されます。痛みを増強させないよう、障害の程度に合わせて援助の方法を検討します。
■意欲の低下やストレスの有無等、精神的な状態
精神疾患により整容がおろそかになることがあります。患者の精神状態や、意欲、ストレスの有無を把握し、患者のペースに合わせた援助を行えるようにします。
あくまでも患者の状態に合わせた援助が基本となります。収集した情報をもとにアセスメントし、援助の方法を選択していきます。
4、整容に対する看護の留意点
整容は、人間の基本的欲求のひとつですが、整容の認識や欲求のレベルは様々です。なるべく患者の欲求に沿えるよう患者のペースに合わせ、援助が患者の苦痛にならないよう配慮する必要があります。
清潔の保持や、整容にとらわれすぎて、押しつけや無理強いにならないよう注意します。患者の心や置かれている状況に寄り添うことが大切です。また、整容への援助をする中で、コミュニケーションをとりながら、患者の皮膚の状態や精神状態を観察していきましょう。
援助中、不快なところがないか、気になる汚れがないかなど、患者の満足度を確認しながら行います。タッチングやマッサージにより、精神的なケアを行うことも重要です。
まとめ
整容は普段、当たり前のように行われていますが、入院やベッド上の生活ではおろそかになりがちです。また、精神的状態によっておろそかになる場合もあります。患者の状態を観察しながら、精神的なケアも同時に行っていきましょう。
身だしなみは、その人にとって「その人らしく」あるためのひとつの手段です。患者にとってのその人らしさを尊重し、個々の患者に合った方法で整容への援助を行うことが大切です。
患者の生活習慣やリズムを整え清潔を保持し、意欲や生活の質(QOL)の向上につなげていけるような援助を心がけていきましょう。
参考文献
1)山口 要子、永井 由美子、山川 正信「洗髪が患者のリハビリ意欲や身だしなみに及ぼす効果」
2)永井 早苗、田中 夕紀 鈴木 有紀子 奥川 麻美「洗顔がもたらす覚醒への影響」
3)牧山 恵美里、和田 広美、金子 祐子、乾 広貴、片山 由喜子「鏡を使った口腔ケア、整容を行なって」
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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