CAG(冠動脈造影)の看護|検査手順と術中・術後の観察項目(2016/03/18)
虚血性心疾患の検査(最終的な診断)として行われるCAG。今では最も精度の高い検査法として広く実施されていますが、その反面、侵襲性が高く、さらに偶発症・合併症の発症率も高い傾向にあります。
現段階ではCAGによる偶発症・合併症のすべてを確実に予防することは不可能ですが、看護師の綿密な観察により症状の増悪は防ぐことができます。CAGの看護で最も大切なのは患者のバイタルサインや一般症状の観察なので、観察を怠らず、異常発生時にはすぐに対処できるよう体制を整えておいてください。
1、CAGとは
CAGとは、「Coronary Angiography」の略で、日本語では「冠動脈造影」のことを言い、心筋梗塞や狭心症などの“虚血性心疾患”に対して、手首・肘・鼠径部のどれかの動脈からカテーテルを冠動脈に挿入し、造影剤を使用して冠動脈の狭窄・閉塞がどの部分にあるのか確認する検査のことです。
虚血性心疾患の診断には心電図や血液検査などが行われますが、それだけでは確実な診断ができません。そこで、CAGを行い直接的に血管の状態をみて診断を行います。また、CAGはカテーテルを用いることから、検査を行った後にそのまま経皮的冠動脈形成術(PTCA)や冠動脈バイパス術の治療へ迅速に移行できるというメリットがあります。
また、現在では虚血性心疾患の診断において、ここ数年で精度が格段に高まったことで「冠動脈CT検査」が積極的に行われていますが、冠動脈CT検査では冠動脈の石灰化を確認することができません。それに対して、CAGは石灰化の評価ができるため、精密かつ最終的な診断はCAGにより行います。
なお、1955年にソーンズ博士(Dr. Mason Sones)が初めて行い、現在まで画像の鮮明化や円滑な手技実施における発展・改良がなされ、現在まで虚血性心疾患の診断や治療の主体となっていますが、侵襲性においては未だ大きく、偶発症や合併症の危険性は低くありません。そのため、検査後(以下、術後)の綿密な観察は欠かせず、術後管理における看護師の役割は非常に大きいと言えます。
2、CAGの検査
CAGの検査時間はおおむね30分~1時間程度と短時間で終了します。しかしながら、麻酔の使用やカテーテルの挿入など侵襲性が高く、また偶発症・合併症も出現しやすいため、検査中(以下、術中)は患者のバイタルサインや全身状態を綿密に観察することが非常に大切です。
以下に、CAGの検査手順と起こりうる偶発症・合併症における看護のポイント(観察ポイント)についてご説明します。
①穿刺部位に局所麻酔をする
まず、冠動脈にカテーテルを挿入するために穿刺を行います。CAGにおける穿刺箇所は手首(橈骨動脈)・肘(上腕動脈)・鼠径部(大腿動脈)の3箇所あり、術後の体動制限などを考慮して通常は手首または肘に穿刺し、解剖学的問題などにより上肢の穿刺が難しい場合に鼠径部が選択されます。
穿刺する周辺にイソジン消毒液などで消毒した後に局所麻酔を行いますが、麻酔によるアレルギー反応が起こることが稀にありますので、患者のバイタルサインや状態をしっかり観察してください。
②カテーテルを挿入する
穿刺後、「シースイントロデューサー」→「ガイドワイヤー」→「カテーテル」の順にX線下で挿入していきます。この過程で通常はあまり痛みを感じることはありませんが、ガイドワイヤーが動脈の細かい枝に迷入した場合や動脈を損傷した場合などには強い痛みを感じることがあります。患者の表情や訴えを見逃さないよう観察するとともに、穿刺部位からの出血や血腫もしっかり確認してください。
③造影剤を注入し形態を確認する
カテーテルが冠動脈に到達した後、カテーテルを通して造影剤を流し込み、血管撮影を行います。造影剤によるアレルギー症状(蕁麻疹や吐き気など)が起こることがあり、時に重篤な症状(失神・意識消失・呼吸困難など)が発現することがあるため、注入後は患者の全身状態を綿密に観察してください。また、造影剤は腎機能の低下をもたらすこともあります。
3、CAGの治療
CAGは検査だけでなく、虚血性心疾患の治療の過程として、主に「経皮的冠動脈形成術(PTCA)」と「冠動脈バイパス術」の際に実施されています。
通常、治療には患者の同意が必要ですので、検査の流れで治療を行うことはなく、検査と治療は分けて実施されますが、緊急の場合にはそのまま治療に移ることもあります。
■経皮的冠動脈形成術とは
狭窄や閉塞がみられる冠動脈を人為的に拡張する手技のことです。主に、バルーン(風船)のついたカテーテルを使用して病変部でバルーンを膨らませる方法、ステントを冠動脈内に留置する方法、このいずれかが選択されます。
■冠動脈バイパス術とは
狭窄や閉塞がみられる冠動脈の先に別の血管を繋ぐ(移植する)手技のことです。心臓に流れる新しい路(バイパス)を形成することで、血液が閉塞動脈を迂回して心臓に行き届くようになります。
⇒冠動脈バイパス術(CABG)の看護|適応と合併症、術前・術後のケア
これら治療の際にはCAGが実施されますが、実施過程は検査を同様で、観察項目においても治療に移るまでは同様です。
4、CAG実施患者への術後看護
CAGは比較的侵襲の高い検査ですので、偶発症・合併症に気をつけなければいけません。また、時には心不全が起こる(増悪する)ことがあり、小児においては重篤な合併症(脳障害・脳塞栓・脳血栓・重篤な不整脈・多量の出血など)の発症率は約1%、死亡確率は0.1~0.3%と言われています。
これら合併症は術中が多いものの、術後にも発症することがあります。しかしながら、多くは早期対処により改善(予後良好)されるため、綿密な観察は非常に重要です。
■安静保持・体動制限の指導
CAG後は出血の危険がありますので、安静保持が原則です。手首・肘に穿刺した場合には術後1時間(右腕安静は丸一日)、鼠径部に穿刺した場合には丸一日ベッド上での絶対安静が必要です。安静保持・体動制限の指導を行うとともに、トイレ・食事・体位変換など介助が必要な場合には穿刺部に注意しながら介助を行ってください。
■水分摂取と食事の指導
CAGでは造影剤を使用するため、造影剤の排出を促すために水分の摂取が必要です。術後3時間以内に500ml、吐き気などにより摂取が難しい場合には点滴を増やすなどして対応してください。また、安静保持が原則であり、術後は血圧が低下していることがありますので、食事は術後1時間後から摂取するよう指導・観察してください。
■合併症の観察
観察するのは主に「穿刺部位」「バイタルサイン」「一般状態」です。穿刺部位は出血・血腫・感染兆候などを確認しましょう。また、脈拍・呼吸・体温・血圧・意識レベル・水分出納とともに、頭痛・胸痛・吐き気・動悸・チアノーゼなど各症状の観察を行ってください。
まとめ
CAGは虚血性心疾患の診断に欠かすことができない手技でありながら、侵襲性が高く、死亡例も多々報告されています。
すべての合併症を防ぐことは現段階では不可能ですが、症状の増悪を防ぐことは可能ですので、患者のバイタルサインや一般状態をしっかり観察し、少しでも違和感がみられる場合には気に留め、異常発生時にすぐに対処できるよう体制を整えておきましょう。
1965年生まれ、静岡県静岡市在住。スタッフナース歴11年、看護師長歴2年。静岡県内の大学で教育を学び、卒業後は小学校教諭として勤務。後に看護師の道に目覚め、看護学校へ入学し、同県内の総合病院(循環器科)へ就職。現在はイベントナースやツアーナース、被災地へのボランティアなど、幅広い分野で活躍している。
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