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看護師の腰痛対策|ボディメカニクスを取り入れた介護・介助法(2016/03/17)

公開日: : 最終更新日:2020/06/05 看護師 看護技術 東京都 全科共通 

ボディメカニクスの看護

患者への介助など肉体労働により、介護者(看護師)の多くは腰痛を呈しており、中には腰痛にせいで離職を余儀なくされる介護者もいるほど。

ボディメカニクスの理論を活用することで、介助時の負担軽減はもちろん、患者への安心・安楽な移動を支援することができるため、ボディメカニクスを取り入れた介助法を学び、今後の介助に生かしていきましょう。

 

1、ボディメカニクスとは

ボディメカニクスとは、患者の体位変換などの際に、解剖学・生理学・力学などの基礎知識を活用して、無理なく介助するための手法のことです。

さまざまな疾患や症状により、自力で体勢を変えることのできない患者に対して、看護師は介助を行いますが、介助時には看護師に大きな負担がのしかかります。また、不適切な介助法では患者にも負担がかかってしまいます。

そこで解剖学・生理学・力学などを利用して、安定した姿勢で介助ができる手法、「ボディメカニクス」が開発され、現在では看護師はもちろん介護福祉士や理学療法士など、さまざまな医療従事者がこの手法を取り入れ、日々の介助を行っています。

なお、ボディメカニクスは、以下の6つの原則に従い実施することで、小さな負担で大きな力を生み出すことができ、介護者の負担を大きく減らすことができます。

 

■患者側の重心を中心にまとめる

力が分散すると負担が大きくなるため、患者の手足などを出来る限り小さくまとめることで、力が中心に集中し、より容易に介助できるようになる。

 

■患者の身体に出来るだけ近づく

看護師と患者の身体(重心)を近づけることで、移動の方向性がぶれにくく、一方向に対してより大きな力が働き、少しの力で介助ができるようになる。

 

■両足を開いて支持面を広くとる

立位に際して、看護師の足幅を前後左右に広くとる(支持基面積を広くとる)ことで安定するとともに、足や腰の力が伝わりやすくなる。

 

■重心を移動させやすい姿勢をとる

支持基面積を広くとるとともに、膝を曲げて腰を落とすことで、姿勢が安定し、足や腰の力が伝わりやすくなる。また、負荷位置が下がり、腰への負荷が小さくなる。

 

■大きな筋群を使う

腕や指先だけで介助するのではなく、肩や腰、足などの大きな筋肉群を同時に使用することで、1箇所の筋肉にかかる負荷が小さくなり、大きな力で容易に介助することができる。

 

■重力に逆らわないように水平に引く

患者を持ち上げるのではなく、水平に滑らせるよう移動させることで看護師の負担が少なくなる。また、上下(垂直)に動かさざるを得ない場合に限っては、前傾姿勢ではなく、上体(腰)に加えて、膝の屈伸を利用することで、腰への負荷を小さくできる。

 

また、これら6つの原則に従い、「テコの原理」「慣性の法則」「ベクトルの法則」など、力学的相互関係を取り入れて実施します。

 

2、腰痛を呈する看護師の実態

看護師は起立の時間が多いだけでなく、長時間勤務の中で患者の介助を必要とする場面が多々あり、いわゆる職業的な要因により、程度に関わらず大半の看護師が腰痛を呈しているのが現状です。

 

職業的要因

作業負荷 前屈・背屈、中腰、捻り、上肢の伸展に伴う腰部の伸展、上肢を肩幅以上に広げて行う作業、限度以上の重量患者の持ち上げ、患者の近方・遠方への移動など
労働環境 必要物品が取りにくい場所に保管されている、機器の設置場所がない、作業空間が狭く足場が悪い、休憩施設が不十分、金無料の頻繁な変化、人員不足、超過・長時間勤務、休憩のとれない状況での勤務、緊張を伴う業務内容など

このように、看護師の腰痛の職業的要因は多岐に渡り、特に作業負荷が看護師の腰痛を助長しています。

1994年には「職業における腰痛予防対策指針」が示され、法令化されたものの明確に義務付けされておらず、医療施設など組織単位での対策が難しいのが実情です。

それに伴い、組織単位で研修・実施を行っている医療施設はそれほど多くはないため、各個人が自身のために、また患者の安楽のために取り組まなければいけないのです。

 

3、実施時の注意点

ボディメカニクスは腰痛など主に介護者の負担軽減のために開発された手法ですが、介助を行う目的は介助を必要とする者(患者)の円滑な移動にあります。そのため、介護者の負担軽減ばかり考慮して、患者の負担に対する配慮をないがしろにしてはいけません。また、安全に最大限配慮しなければいけません。

「声掛けを行う」「移動速度を遅くする」「患者の身体的能力を見定める」「ルートやカテーテル類を巻き込まない」の4つ事項に注意しながら介助を行うよう心掛けてください。

 

■声掛けを行う

ボディメカニクスを取り入れた介助法の有無に関わらず、介助する時には必ず最初に声掛けを行ってください。声掛けがないと、動作時に不必要な筋肉が稼働したり、驚くことで強い力が働き、転倒・転落を招いてしまいます。看護師―患者間の動作における同意のもと介助できるよう、声掛けは必要不可欠です。

 

■移動速度を遅くする

ボディメカニクスを取り入れた介助法は、通常よりも少しの力で介助を行うことができます。看護師の中には自身の負担ばかり考慮し、勢いに任せて介助する傾向がみられ、時として患者に多大な負担がかかる場合があります。

特に首は前後の動きに対して弱く、勢いよく動くと前方または後方に引っ張られ、首周辺の筋肉や腱を痛める可能性があります。また、場合によって脳に障害が及ぶこともありますので、介助の際は、必ず患者の負担を優先的に考え、ゆっくりとした動作で行ってください。

 

■患者の身体的能力を見定める

患者の病気や身体的障害の程度・部位、安定した座位・立位をとれるかなど、患者の状態を的確にアセスメントした後、介助しなければいけません。すべての動作に対して介助を行うと、移動・移乗の安楽性により、ADLに対する自立意識が薄れてしまいます。

ボディメカニクスは通常の介助法よりも患者に対する負担が少ないことから、さらに自立意識が薄れ、すべての動作に対して介助を要求をするということもあるため、身体的能力をしっかり見定めた後、困難な動作に対してのみ介助を行ってください。

看護過程の1つ「アセスメント」ゴードン等の書き方と事例

 

■ルートやカテーテル類を巻き込まない

患者によっては、ルートやカテーテル、ドレーンなど、いわゆる管が留置されている場合があります。ボディメカニクスの原理の1つに「患者の身体に出来るだけ近づく」があり、時には密着して介助を行うため、看護師がそれらを巻き込まないよう、しっかりと位置を把握して行わなければいけません。

 

4、ボディメカニクス実施の一例

では、ボディメカニクスを取り入れた介助法の一例をご紹介します。ボディメカニクスを実施する際には、上記の注意点をしっかり踏まえて、患者の安全・安楽に考慮しながら介助を行ってください。

 

背臥位から側臥位への回旋

背臥位から側臥位への回旋

 

背臥位の患者を側臥位に回転させる際には、看護師の方向へ回転させるのが原則です。ベッド上では、看護師と反対方向へ回転させると転落の危険がありますので、看護師の方向へ向けて回転させ、その際には体の軸となる肩と腰(臀部)を持って回転させます。

布団やマットレスの上であれば、図のように膝立ちになることで、より安定して回転させることができます。

 

臥位での水平移動

臥位での水平移動

 

看護師の上肢がベッドの位置と水平になるように下肢を屈曲させ、膝をベッドサイドにつけ、まずは両手を患者の腰と太腿に滑り込ませます。そして、肘を伸ばした状態で、ゆっくり自分側(看護師側)に引き寄せます。

膝をベッドサイドにつけること、肘を伸ばすことにより、より小さな力で安定して介助を行うことができます。

 

臥位から座位の全面介助

臥位から座位の全面介助

出典:建帛社 姿勢保持,移動・移乗の支援技術

 

その①

患者の健側(病気のない正常な側)の肘に重心がのるように、反対側の肩を持ち、頭部(後頭部)を腕で支えながら自分側(看護師側)に少し引き寄せ、ゆっくりと上半身を起こします。

その②

背臥位から座位(ベッドサイド)への介助時には、まず背臥位から側臥位にし、患者と向き合った状態で上肢を近づけ、片方の手は肩に、もう片方の手は臀部を支えて回転させるように介助します。動作に伴い、患者の頭部が後ろへ引っ張られるため、肩と一緒に頭部も支えるよう介助を行います。

 

5、参考となる書籍

最後に、ボディメカニクスにおいて参考となる書籍をご紹介します。ボディメカニクスについて深く理解するためには、人間の体の仕組み(重心や筋肉の使い方など)や1つ1つの動作の流れを視覚的に学ぶ必要があるため、その2つについて詳細かつ分かりやすく書かれている3つの書籍をご紹介しますので、ボディメカニクスを取り入れたいという方は、閲読することをお勧めします。

 

介助にいかすバイオメカニクス

介助にいかすバイオメカニクス(医学書院)

重心・床反力・床反力作用点・関節モーメント・エネルギーなど生体力学の基本事項、立位/歩き始め・立ち上がり/座り・歩行・階段昇降動作・持ち上げ/移乗動作など各動作における介助の注意点やポイントについて詳しく解説されている。力学的な介助の方法論を深く理解したい方にお勧めの一冊。

 

介護職のための正しい介護術

介護職のための正しい介護術(成美堂出版)

①楽に介護をするためのボディメカニクス、②移動介助、③ベッドまたは布団の上での介助、④食事の介助、⑤排泄の介助、⑥入浴の介助、の6つの章をもとに、ボディメカニクスを取り入れた介助法のコツを、イラスト図解を用いて詳しく解説されている。実践的なボディメカニクスの手法について学びたい方にお勧めの一冊。

 

腰痛のない身体介助術

腰痛のない身体介助術(医学書院)

体位変換、ベッド上での平行移動、ベッド上方への移動、起きる・寝る、立つ・座る・歩く、車椅子の介助、床上での介助など、各シーンにおいて介護者の腰痛軽減のための55のポイントについて、300点以上のカラー写真と図解を用いて詳しく解説されている。

 

まとめ

ボディメカニクスは古い手法であると言われており、新たな手法として「キネステティク」が主流となりつつありますが、キネステティクの考え方は“介助を受ける者が気持ちよく介助する手法”であり、ボディメカニクスの理論を応用したものです。

それゆえ、キネステティクを学ぶ前にボディメカニクスにおける力学的な基礎知識と介助法をしっかり理解することが必要です。

自身の腰痛対策のために、患者の安心・安楽のために、ぜひボディメカニクスについての知識を深め、日常の介助に取り入れていってくださいね。

山岸愛梨 看護師

東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。

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