患者に対する看護目標と個人目標への考え方・立て方(2015/10/08)
看護の質を高めるために実施される看護目標の設定。看護目標には大きく分けて、「病院・看護部の全体を通した目標」、「病棟患者への看護目標」、「各患者への看護目標」、「看護師個人の目標」の4つがあります。
ここでは「各患者への看護目標」と「看護師個人の目標」の概要にくわえ、目標設定における考え方をご説明します。
目次
1、患者に対する看護目標
看護目標とはその名の通り、看護をする上での目標のことを言います。看護過程においてはアセスメントと看護診断を経て、「看護計画」の段階にあたります。
■看護過程の5つの段階
①アセスメント | 患者の健康に関する情報を収集し、解釈・分析・評価をする |
②看護診断 | アセスメントの結論として、看護行為によって解決可能な問題を決定する |
③看護計画 | 判別された看護診断の優先度を決定し、その目標を設定し、目標を達成するために適切な看護活動を考え計画を作成する |
④看護介入 | 計画した看護活動を実行する |
⑤看護評価 | 実施した看護活動の効果を目標に照らして、問題の解決がなされたか、目標が達成されたかどうかを判定する |
患者の症状をよく観察し、現状抱えている(または抱えるであろう)問題を解決するために最適となるケアを決定し、それを看護目標として設定するわけですが、多くの場合、退院(完治)に向けた“最終的な目標(長期目標)”だけでなく、その過程で起こりうる問題を解決するための“段階的な目標(短期目標)”も必要になってきます。
期間 | 概要 | |
長期目標 | 1か月~ | 看護問題が解決される最終的な目標 |
短期目標 | 数日~1か月程度 | 長期目標が達成させるまでに起こる問題に対するケア目標 |
1-1、短期目標・長期目標
上記のように看護目標には「短期目標」と「長期目標」が存在します。長期目標とは“最終的な目標”のことを指し、短期目標とは“最終的な目標を達成するまでの過程で起こる問題への目標”のことを言います。
つまり、「短期目標①」、「短期目標②」、「短期目標③」をクリアして、「長期目標」が達成されるというイメージです。
例えば、糖尿病の患者の場合、
長期目標 |
|
短期目標 |
|
このように、1つの長期目標に対してさまざまな短期目標を立てることができ、1つ1つクリアしていくことで、最終的な目標(長期目標)が達成されるというわけです。ただし、患者によって看護問題は異なるため、しっかりアセスメントした上で目標を設定しなければいけません。
1-2、目標設定への準備(アセスメント)
目標設定を行う際に、最も重要となるのがアセスメントです。疾患の症状や薬物による副作用・合併症における看護問題は、疾患や薬物ごとに同一になることが多いものの、患者の心理状態や生活習慣など、患者ごとに異なる看護問題が多々出てきます。
これらの問題を導き出すためにアセスメントを行うのであり、不十分なアセスメントでは“個別性がない”看護目標になってしまいます。また、根拠の乏しい看護目標になってしまう可能性もあります。ゆえに、看護目標を立てる際には十分なアセスメントが必要不可欠なのです。
看護目標が立てられない!という場合には、見直すか、再度アセスメントを行い、症状や薬物による副作用など全般的なものだけでなく、患者にまつわる様々な情報を取得してください。
2、看護師個人の目標
個人目標とは、その名の通り、看護における個人個人の目標のことです。看護部ならびに病棟では1年に1度、全体を通した看護目標を立てますが、この際に看護師1人1人が個人の目標を立て、3か月または6か月ごとに目標を達成できたか、できなかった場合には何が原因だったのかなど、自己評価が行われます。
自分の能力向上に必要なこと(実践能力・対人関係能力・問題解決能力、、、)、すべての患者に対して適切なケアを行うために必要なことなど、目標とするものはさまざまありますが、何を目標にしたらいいのか分からないという方は多いのではないでしょうか。
個人目標というのは個人個人異なるものであり、実質的には正解も不正解もありません。ただし、達成困難な目標はNGです。評価されたいから“良い目標”を立てようと必死になるあまり、途方もない目標を立てる人がいますが、これは完全にナンセンスですので、自分のために、患者のために、何をしたいかを今一度じっくり考えてみてください。
2-1、例えばどんな個人目標があるのか
個人目標は人それぞれ異なるため、どのような目標でも構いません。しかしながら、どのような目標があるのか気になる方は多いと思います。そこで参考となるのが各病院で設定している「クリニカルラダー」です。
これはそもそも、質の高い看護を提供できる看護師を養成するための教育プログラムの設定目標ですが、個人目標として置き換えることができます。各病院によって異なりますが、一般的には、レベルⅠ(1年目の新人看護師)、レベルⅡ(2~3年目の看護師)、レベルⅢ(4年~5年目の中堅看護師)、レベルⅣ(6年目~中堅・熟練看護師)、の4段階に分けて目標設定されています。
■レベルⅠ(1年目)
到達目標 |
|
看護実践 |
|
管理 |
|
倫理 |
|
社会性 |
|
教育 |
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研究 |
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■レベルⅡ(2年目~3年目)
到達目標 |
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看護実践 |
|
管理 |
|
倫理 |
|
社会性 |
|
教育 |
|
研究 |
■レベルⅢ(4年目~5年目)
到達目標 |
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看護実践 |
|
管理 |
|
倫理 |
|
社会性 |
|
教育 |
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研究 |
|
■レベルⅣ(6年目~)
到達目標 |
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看護実践 |
|
管理 |
|
倫理 |
|
社会性 |
|
教育 |
|
研究 |
|
なお、上記で記載した各目標は一例であり、病院や看護部によって異なります。現在、看護師として就業されている方は、ご自身の就業病院のクリニカルラダーを調べてみましょう。
3、SMARTを用いた目標設定
看護目標を設定する際に役に立つ原則があります。この原則は「SMARTの原則」と呼ばれ、看護部の看護目標、看護師個人の目標、患者への看護目標と、すべてを対象としています。
SMARTの原則は、「Specific(具体的であること)」、「Measurable(測定可能であること)」、「Achievable(達成可能であること)」、「Relevant(関連性があり妥当であること)」、「Time(期日が明確であること)」の5つから構成されています。
これは、看護における目標だけでなく、すべての職種において参考となる原則です。ただし、5つの原則をすべて当てはめなければいけないというわけではありませんので、目標設定の1つの参考として覚えておいてください。
Specific
具体的であること |
目標は具体的な表現で示す必要があります。具体的であれば、実現するための方法や計画を考えやすくなります。 |
Measurable
測定可能であること |
測定が可能でなければ、達成度の評価が難しくなるため、できる限り数値を用いて目標を設定します。数値化が難しい場合には、「達成された状態」を具体的な言葉で表現します。 |
Achievable
達成可能であること |
夢物語のような達成が困難な目標、またはすぐに達成できてしまう目標ではなく、達成可能な適切な難易度のものでなければなりません。 |
Relevant
関連性があり妥当であること |
自分のため、患者のために何をするかが明確であり、それらが看護の趣旨に沿っていなければいけません。 |
Time
期日が明確であること |
目標は達成すべき期限やスケジュールが明確でなければなりません。期限が明確であれば達成のため計画設定、進捗管理、達成度の評価が行いやすくなります。 |
4、看護目標はなぜ必要なのか
ここまで看護目標の概要や考え方について述べてきましたが、 “面倒くさい”、“煩わしい”と感じる人は多いのではないでしょうか。確かに、生活をするために看護職として働いているという人も多いのが実情ですが、看護職に携わっている以上、患者に適切な看護を提供しなければいけません。
患者の命を直接的に守るのは医師ですが、患者の安心・安全・安楽な生活を支援できるのは看護師であり医師ではありません。特に個人目標に関して“面倒くさい”、“煩わしい”と感じる人が多いのですが、目標を設定することでモチベーションが高まり、自ずと各看護師の看護の質が向上していきます。
各看護師の看護の質が向上すれば、病院または看護部としての組織の看護の質が向上し、最終的には患者に対する適切なケアに繋がるのです。個人目標は年に1回、場合によって2回・3回設定する必要がありますが、患者の安心・安全・安楽な生活のために必要不可欠な過程ですので、必ず、自分の成長のため、患者のために“何をしたいか”、“何ができるか”をしっかり考えた上で、目標を設定してください。
まとめ
看護目標というのは、看護の質を高めるために必要不可欠であり、患者への看護目標、自分に対する目標ともにしっかりとその時々の“終着点”を設定しておかなければ、患者の安心・安全・安楽な生活をサポートすることができません。
患者に対して長期・短期目標をどのように設定すればいいのか分からないという場合には、アセスメントした内容を再確認し、不十分だと感じれば再度しっかりとアセスメントを行ってください。
個人目標をどのように立てればよいか分からないという場合には、自分の成長のために、また患者のために“何をしたいか”、“何ができるか“を今一度、しっかりと考えてみてください。
福岡生まれの東京都在住の正看護師。看護学校を卒業後、大学病院に就職、ICU、オペ室、循環器を経験し、美容クリニックを経て、現在はブロガーとして活躍。
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