保育目標|保育理念、保育方針との違いと0~4歳児など年齢別の例(2017/04/17)
それぞれの園で掲げられている「保育目標」とは、保育者が保育をしていくうえでとても重要な役割をするものです。園によっては、保育者たちが意見を出し合って目標を決めるケースもあるようです。では、「保育目標」とはどういったものなのか、また、どのように日々の保育に活用していくのかを確認しておきましょう。
目次
1、保育目標とは
保育目標とは、簡単にいうと「その園が目指す保育の目標」です。園で実際保育をする保育士たちはその目標を軸に、クラスの指導計画や保育のねらいにさらに実践化していきます。横松友義氏らによる「保育目標のとらえ方と保育実践の両者を質的に向上させる保育実践開発に関する考察」には、
保育課程開発を推進する上で,最初に必要になるのは,保育目標の明確化であると考えられる。それは,次の理由からである。保育 目標がどういう順序でどのような表現で示されているかは,その園の重視する保育内容や保育形態を方向づけるものである。そして,明確な保育目標を得ることは,園の保育に対する自己評価の根拠を得ることに等しい。
とあり、保育目標は、まさに「園そのものを表現する」もの。ですから、いかにそれぞれの園にとって「保育目標」が大切なものかがわかります。
1-1、保育目標の例
では、実際どのような保育目標が掲げられているのか、例をみてみましょう。東京都東村山市にある「第四保育園」は、
「健康で明るい素直なこども」「意欲的に取り組みやりとげようとするこども」「思いやりがあり、仲間や自分も大切にできるこども」「のびのびと自己を表現できるこども」
を保育目標としています。目標を確認すると、その園がなにを大切にしているのか、どのような園なのかがみえてきます。保育目標は、保育士たちにはもちろん、園に子どもを預ける保護者や周囲の地域住民など、あらゆる人に園を理解してもらうきっかけとなります。
1-2、保育目標・保育理念・保育方針の違い
どの園にも、「保育目標」のほかに、「保育理念」、「保育方針」を合わせて掲げている場合が多いかと思います。ただ、どれも同じような意味合いで違いがわかりづらいですよね。そこで、まずは辞典(コトバンク)でそれぞれの意味を調べてみます。目標は、
そこに行き着くように、またそこから外れないように目印とするもの。理念は、ある物事についての、こうあるべきだという根本の考え。そして方針は、めざす方向。物事や計画を実行する上の、およその方向
とあります。「保育理念」という考えの中で掲げられた「保育目標」という到達点に「保育方針」というノウハウを使って保育していく。この3本柱はこのような意味の違いがあります。
1-3、実習生はまず「保育目標」の確認を
実習園の保育目標を知ることは、実習生にとってとても重要なことです。保育目標を理解しているかどうかで、園の保育に入り込めるかどうかがか決まります。園や指導者も「子どもや園の保育をいかに理解しているか」という視点で評価するケースが多いようです。実習に入るまえには、事前に園の「保育目標」を把握しておきましょう。また、園長や主任保育士に、その内容を詳しく聞いておいてもよいでしょう。
2、0歳児の保育目標
園の大きな保育目標を、さらに実践的な目標に細分化したのが学年ごとの保育目標です。ここからは、それぞれの年齢に合わせてどのような目標を立てていくべきなのかを確認していきましょう。もちろん、園によって目標は異なるので、ここでは「保育所保育指針」を参考に目標の例を考えていきます。
0歳児は、あらゆる発達や成長がいちじるしくみられる時期であり、園では健康で豊かに過ごすことが望まれます。「保育所保育指針」には、0歳児のねらいとして
(1)保健的で安全な環境をつくり、常に体の状態を細かく観察し、疾病や異常は早く発見し、快適に生活できるようにする。
(2)一人一人の子どもの生活のリズムを重視して、食欲、睡眠、排泄などの生理的欲求を満たし、生命の保持と生活の安定を図る
とあり、まずは乳児一人ひとりの生活の確立を目指すことが望まれています。さらに、保育士とのスキンシップや運動体験によって、心や身体の発育を促していくことも目標におくべき重要なポイントです。0歳児は生きていくうえで必要な基盤を育てる時期であることを踏まえ、目標を立てていきましょう。また、0歳児は個人の指導計画を立てる園が多く、より細かく個人の目標を立てる必要もあります。
3、1歳児の保育目標
1歳児は、身体の発達にともない、あらゆる欲求や情緒の変化が表れる時期です。食事、排泄、睡眠などの基本的な生活習慣はもちろん、音あそびや言葉あそび、絵本や運動など、遊びの環境もさらに広がっていきます。保育所保育指針には、1歳児のねらいに
(1)保健的で安全な環境をつくり、体の状態を観察し、快適に生活できるようにする。
(2)一人一人の子どもの生理的欲求や甘えなどの依存欲求を満たし、生命の保持と情緒の安定を図る。
(3)様々な食品や調理形態に慣れ、楽しい雰囲気のもとで食べることができるようにする。
(4)一人一人の子どもの状態に応じて、睡眠など適切な休息をとるようにし、快適に過ごせるようにする。(5)安心できる保育士との関係の下で、食事、排泄などの活動を通して、自分でしようとする気持ちが芽生える。
(6)安全で活動しやすい環境の中で、自由に体を動かすことを楽しむ
とあり、0歳児に比べより保育環境が具体的に広がっているのがわかります。1歳児の目標は、生活のことに加え、子どもの世界を広げる「あそび」の面をより深めたものにしていくことが大切です。
4、2歳児の保育目標
2歳児は、生活における身の回りのことが自立していき、言葉の幅も一気に広がっていきます。これまで個々に生活やあそびをしていたのに対し徐々に周りの友達とのふれあいも増えていきます。できることが増えることで、学年の目標もより具体的になり子どもに寄り添ったものになっていきます。「保育所保育指針」にも
(3)楽しんで食事、間食をとることができるようにする。
(4)午睡など適切に休息の機会をつくり、心身の疲れを癒して、集団生活による緊張を緩和する。
(5)安心できる保育士との関係の下で、食事、排泄などの簡単な身の回りの活動を自分でしようとする。
(6)保育士と一緒に全身や手や指を使う遊びを楽しむ。
(7)身の回りに様々な人がいることを知り、徐々に友達と関わって遊ぶ楽しさを味わう。
とあり、いままで保育士が子どもにしていたことを、子ども自身が自発的に行えるような「環境づくり」を重視した内容になります。生活習慣の自立を目指すことに加え、子どもの興味関心を引き立てるような保育目標を考えていきましょう。
5、3歳児の保育目標
3歳児になると、生活習慣が確立し、「集団」という意識が高まっていきます。個人の成長や発達への配慮はもちろんですが、これまでに比べ、より協調性や社会性に目を向けた保育の内容が求められます。また、感じたことを表現すること、音楽や歌、運動や製作活動などに興味をもち、積極的に活動に参加していく姿もこの時期の特徴です。「保育所保育指針」をみると、
(5)食事、排泄、睡眠、衣服の着脱などの生活に必要な基本的な習慣が身につくようにする。
(6)外遊びを十分にするなど、遊びの中で体を動かす楽しさを味わう。
(7)身近な人と関わり、友達と遊ぶことを楽しむ。
(8)身近な動植物や自然事象に親しみ、自然に触れ十分に遊ぶことを楽しむ。
(9)身近な社会事象に親しみ、模倣したりして遊ぶことを楽しむ。
(10)身近な環境に興味を持ち、自分から関わり、生活を広げていく。
(11)生活に必要な言葉がある程度分かり、したいこと、して欲しいことを言葉で表す。
とあり、生活やあそびの世界がより広がり、子どもの視点による内容が増えていることがわかります。保育士が発信する保育から、子どもの意欲や興味を活かした保育に変えて保育目標を考えることが重要です。また、園のカラーが出しやすくなる時期なので、再度園の保育目標との兼ね合いも考えてみましょう。
6、4歳児の「保育目標」
4歳児は、生活をしていくうえで必要なことはほぼ自分で行えるようになり、欲求と身体の発達もバランスがとれてくる時期です。活動の中での達成感や、友達、保育士と楽しい時間を共有することによろこびを感じます。表現力も豊かになり、活動やあそびの視点もより幅広くなっていきます。「保育所保育指針」のねらいには
(5)自分でできることに喜びを持ちながら、健康、安全など生活に必要な基本的な習慣を次第に身につける。(6)身近な遊具や用具を使い、十分に体を動かして遊ぶことを楽しむ。
(7)保育士や友達の言うことを理解しようとする。
(8)友達とのつながりを広げ、集団で活動することを楽しむ。
(9)異年齢の子どもに関心を持ち、関わりを広める。
(10)身近な動植物に親しみ、それらに関心や愛情を持つ。
(11)身の回りの人々の生活に親しみ、身近な社会の事象に関心を持つ。
(12)身近な環境に興味を持ち、自分から関わり、身の回りの物事や数、量、形などに関心を持つ。
とあり、子どもの興味関心や経験の広がりを重視した内容になっています。4歳児の保育目標は、その心身の成長を活かせる具体的なものにしていきましょう。
7、学童保育における保育目標
学童保育とは、その日の学校生活を終えた子どもが放課後過ごす場となっています。活動の内容としては、友達とあそぶ、宿題をする、おやつを食べるなど、普段の生活を基盤としたものになっています。しかし、世間ではその学童保育の内容にも一定の保育目標を定めておくべきという考えが広がっています。石村秀登氏らによる「学童保育の生活体験」には
学童保育については、その実践が無意図・無計画なものになりがちだったという反省から、もう少し厳密な目標や評価を取り入れるべきだ、あるいはPDCA サイクルをきちんと機能させるべきだという視点からの議論が盛んに行われている。
とあり、生活の延長であっても「保育目標」を立てる必要性が議論されていることをあげています。それに対し、
筆者は、学童保育が、学校に通う子どもたちが放課後等の生活を送る場として独自の機能や性質をもっていると考えている。そして、このような発想に立てば、学童保育は、その計画性と評価という側面においても、学校教育や保育所・幼稚園での幼児教育とは異なる固有性を有しているように思われる。
とも述べていて、学校や幼稚園・保育所とは違う位置づけにあるもで、学童保育での「保育目標」の必要性に疑問をもっています。共働きの家庭が増加していく中、子どもたちが放課後を安心して過ごすため学童保育は今後さらになくてはならない環境となります。学童保育での保育者や保育のあり方をさらに見直していくことが望まれています。
まとめ
保育目標は、園やその園の学年クラスによって進んでいくべき到達点となるものです。保育士として、または実習生として園で保育をするまえに、「保育目標」を確認しその園の方向性への理解を深めておきましょう。
参考文献
保育目標のとらえ方と保育実践の両者を質的に向上させる保育実践開発に関する考察(横松友義・波速祐三・森英子・伊勢憤・豊池利江・斎藤健司|2011)
学童保育の生活体験(石村秀登・石村華代|2015)
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