キリスト教と保育の実態|保育者に求められる日常の保育内容(2017/02/07)
現在日本の保育環境において、保育に宗教の教えをとりいれる「宗教保育」というものがあります。宗教保育は、主にキリスト教保育、仏教保育、神社保育(神道)の3つに分けることができ、それぞれで保育環境や内容も異なります。日常の保育の中に宗教をとりいれるということはどういうことなのでしょう。また、そこで保育者に求められる保育とはどういったものなのでしょうか。ここでは、宗教保育の中の「キリスト教保育」についてご紹介しましょう。
目次
1、キリスト教保育とは
キリスト教保育は、聖書の教えを保育方針の一部とし、礼拝やお祈りを通してその教えを子どもたち一人ひとりが理解し育んでいくものです。保育所は、子どもたちにとって生活環境の一部となる重要な存在。さらに、心身ともに大きく成長する過程と言ってもよいでしょう。キリスト教の保育所では日々どのような保育が行われ、保育者はどのように子どもたちと関わっていくのでしょうか。
1-1、キリスト教の保育所
勘違いしてしまいがちですが、キリスト教保育所は「キリスト教信者」のみが通う園というわけではありません。あくまでキリストの教えを保育方針に掲げているというもので、もちろん信者でない子どもや保護者も利用している園がほとんどです。園の種別としては、学校法人、宗教法人、社会福祉法人などがあり、園によってその規模や形態も変わってきます。キリスト教保育所の中には、園の敷地内に教会が隣接している場合があり、礼拝やイベントで教会を利用することで、子どもたちが日常的にキリストの教えに触れる大きな機会となります。キリスト教保育は、このような環境の中でキリスト教と保育を繋ぎ合わせていくのです。
1-2、キリスト教保育所での保育の内容
キリスト教やイエスの存在を全く知らない子どもや保護者もいる中、毎日の保育で子どもたちにその教えをわかりやすく伝えていくことが、キリスト教保育の第一歩です。
東京都の幼保連携型こども園である「小百合学園」では、キリスト教を通した保育理念として「畏神愛人」(神を畏れ、隣人を愛する)という聖書の言葉を子どもたちが日常の中で実践していくことを目標にしています。このように、宗教の教えを強制するわけではなく、理解を深め、子ども自身が生活の中で自分のものとしていくことがキリスト教保育の軸だと考えられます。
キリスト教保育所では、園によって定期的に礼拝が行われます。そこでは、感謝する心や協力すること、命の大切さなどを、聖書の一説を例えとして子どもたちに話します。さらに、朝、帰りの会や食事の前後にお祈りをする、賛美歌を歌う習慣も、キリスト教保育の特徴の一つ。今日も楽しく過ごせたこと、美味しい食事を食べられることに感謝のお祈りを捧げることで、子どもたちの中で「感謝」の気持ちを育てます。
また、キリスト教保育所では、キリスト教ならではの行事もあります。園によって異なりますが、毎週日曜日に行われる礼拝やキリストの復活祭、秋の感謝祭や一年で最も盛大と言えるクリスマスなど、キリスト教に基づいた特徴的なイベントが数多く行われるのです。子どもたちはその一つひとつの行事を通し、成長と学びを得ていきます。この点は、キリスト教保育もそのほかの保育でも、内容は違いますが行き着く目的は同じことなのかもしれません。
1-3、キリスト教保育での保育者
キリスト教保育での保育者は、信者であるとは限りません。浅見均氏の「幼児都宗教保育」での調査では、キリスト教主義幼稚園の保育者の約65%が未信者であるという事実である。という結果があります。このように、キリスト教保育所の保育者の大半が未信者であるということは、現代の宗教保育全体の問題ともなっているようです。
その理由として考えられるものに、子どもたちとともに行う礼拝やお祈りがあります。園によっては、キリストに捧げるお祈りは信者のみが行うなどの規定があり、そうなると信者の保育者の減少は、保育の進行の妨げにも繋がってきてしまうのです。
ただ、保育者自体が少ないと言われている今、保育者をキリスト教信者のみに絞ることは難しく、保育者は、保育をしながら子どもたちとともにキリストの教えを学んでいく形態がとられているようです。
1-4、キリスト教保育での保育者の心得
キリスト教保育を行ううえで、保育者が信者でなくても心得としてもっておくべきことは「キリスト教保育を理解しようとする姿勢」です。東義也氏の「キリスト教保育の現場における保育者の信仰と理解について」の調査で園長に尋ねたところ、キリスト教保育での保育者は信者であることが望ましいとされています。しかし、信仰は個々の問題である、キリスト教の本質は保育の本質、という意見があり、たとえ上手くお祈りができなかったとしても、毎日の保育をするうえで理解を深めていくことのほうが重要になるのです。
1-5、キリスト教保育で保育者に求められる保育
キリスト教保育所が保育者に求める保育として、浅見均氏の「幼児都宗教保育」のアンケートでは、「協力し相手に思いやりをもつ経験、自分で考え主張する力、感謝の心や人を愛する心を培い宗教的情操の芽生えを育てる経験を保育にとりいれることを重要視」しています。前にも述べたように、保育をしていくうえで子どもにとって大切なことはキリスト教を方針としていてもそうでなくても同じことです。ただ、一人の保育者として、保育をする過程をどのような道筋にするかという違いがあるだけなのかもしれません。
キリスト教保育の中でも重要になる子どもの「心を育てる」ために、実際どのような働きかけをすればいいのか、詳しくは「立ち直る力を持った子どもたちを育てる!2つの自尊感情とレジリエンス」をご覧下さい。
2、東京都から発信するキリスト教保育
キリスト教保育を総括する「キリスト教保育連盟」は、全国のキリスト教に基づく幼稚園や保育所などが加盟し、一体となって活動する組織です。その目的は「キリスト教保育連盟」にあるとおりです。
全国のキリスト教に基づく幼稚園・保育園・こども園等乳幼児保育施設、養成機関が加盟し活動を続けております。乳幼児保育の理論と実践に関する調査研究を行い、保育の質を高めると共に保育関係者の資質向上を図り、乳幼児保育の振興に寄与することを目的としております。(原文引用)
本拠地は東京都千代田区のお茶の水クリスチャンセンター南館にあり、全国13部会に分かれて研修会や講習会などを行っています。キリスト教保育所の保育士は、このような場でキリスト教についての理解を深め、保育に活かしていくのです。
まとめ
キリスト教保育は、信者でない人からみると不安やわからない点が多くあるようですが、保育での子どもに対する思いは同じです。キリスト教保育所に勤める保育者は、信者、信者でないにかかわらず、保育環境の一つとして理解を深め、子どもたちと一緒にキリストの教えを日々学んでいくことが重要になりそうです。