肝臓疾患などに対するTAE(動脈塞栓術)の看護と観察のポイント(2015/12/02)
主に肝細胞がんに対する安全かつ効果的な治療法として確立されつつあるTAE。適応する疾患が少なく、多くの適応条件が存在することから、TAEに関してあまり知らないという看護師は多いのではないでしょうか。
今回は、TAEについて詳しく解説しますので、どのような治療法なのかよく分からないという方は、ぜひ参考にしてください。
1、TAEとは
TAEは「動脈塞栓術(かんどうみゃくそくせんじゅつ)」のことで、肝細胞がんや子宮筋腫といった血流を止めることで改善がみられる疾患に適応される治療法で、カテーテルを動脈の中に入れ、疾患部分の血流を止める薬(塞栓材)を入れたり、抗がん剤を直接流し込んで疾患の改善を図ります。
全身麻酔を必要とせず、治療は約1~2時間で終わることから非常に侵襲が低く、術後の副作用や合併症が少ないことから、安全かつ効果的な治療法として、特に肝細胞がんの治療において今注目を集めています。
血管は栄養を運ぶ役割を持っているため、塞栓することで栄養が各器官に行き届かない危険性が懸念されていますが、TAEが適用となる疾患においては、塞栓を行わない他の血管から栄養が運ばれるため、疾患部位に対する悪影響はほとんどありません。
また、血流を止めるために用いられる動脈塞栓材料は血管の中で、約2週間で溶けて消失し該当血管は正常に戻るため、TAEはリスクの少ない治療法なのです。
2、TAEの適応疾患
TAEは「肝動脈塞栓術」とも呼ばれており、肝細胞がんに対する治療法だと認識されていますが、TAEは動脈を塞栓する治療肝細胞がんだけでなく他の多くの疾患にも適応されます。代表的な適応疾患は下表の通りです。
肝細胞がん | ①腫瘍径3cm以上2~3個・3cm以下3個以上の肝細胞癌、②手術・経皮的局所療法の適応のない肝細胞癌、③門脈本幹の閉塞がない、④著明な腫瘍内シャントがみられない、これらの状況下において切除不能かつ穿刺局所療法の対象外とされた多血性肝細胞がんに適応となる。 |
子宮筋腫 | ①子宮筋腫による月経・圧迫症状が強い、②薬物療法が無効、③支給温存を希望する患者、④閉経前、これらの基準をもとに施行される。
①無症状、②悪性腫瘍の合併、③活動性の骨盤内の感染症、④ホルモン療養中、⑤妊娠中・閉経後、⑥挙児希望の患者、⑦造影剤に対するアレルギー、これらのいずれかに当てはまる場合には適応外となる。 |
産科大量出血 | 分娩時・分娩後における子宮の弛緩不良、頸管裂傷、膣壁外傷、外陰部血腫などの軟産道裂傷、胎盤以上、胎盤遺残などが原因で起こる産科大量出血において、収縮薬の投与や裂傷部の縫合、バルーンによる圧迫などの止血処置が困難な場合に、止血目的としてTAEが行われる。 |
骨盤骨折 | 骨盤骨折、特に骨盤輪の破綻を伴う骨折における大量出血(動脈性出血)の止血処置として、①血行動態が不安定、②血行動態が安定しているが貧血が進行、③広範な後腹膜血腫、などの状況下で施行される。 |
つまり、TAEは腫瘍に送られる栄養を絶つため、大量出血時において迅速に止血させるために行われる治療法で、副作用や合併症、致死におけるリスクが低いことから条件に当てはまる場合には優先的に選択されています。
3、肝細胞がんに対するTAEの禁忌
TAEは血流を止めることで腫瘍の壊死や止血を目的として行われ、侵襲の少ない治療法として注目されていますが、副作用や合併症の発症リスクはゼロではありません。また、血管に直接施術を行う治療法であることから、血管に何かしらの異常がある場合などにも禁忌となります。ここでは、TAEの主な適応となる肝細胞がんに対する禁忌をご紹介します。
①門脈本幹の腫瘍栓による閉塞を有する
肝細胞がんは肝臓の動脈から栄養を受け取ることがほとんどですが、がんではない部分の肝臓は主に「門脈」と呼ばれる血液で栄養を受けています。これにより、動脈を塞栓しても肝機能において障害をきたすことがありません。しかしながら、門脈自体に腫瘍が形成されている場合など閉塞がみられる場合は、動脈が栄養の流れる第一通路となるため、動脈を塞栓するTAEは禁忌となります。
②高度の肝機能障害(C)を有する
動脈を塞栓することにより、少なからず一時的な肝障害が起こることがありますので、肝機能度Cに該当する患者に対しては禁忌です。
肝障害度(右)
項目(下) |
A | B | C |
腹水 | なし | 治療効果あり | 治療効果少ない |
血清ビリルビン値(mg/dl) | 2.0未満 | 2.0~3.0 | 3.0超 |
血清アルブミン値(g/dl) | 3.5超 | 3.0~3.5 | 3.0未満 |
ICG R15(%) | 15未満 | 15~40 | 40超 |
プロトロンビン活性値(%) | 80超 | 50~80 | 50未満 |
③肝硬変(非代償性肝硬変)を有する
肝硬変には「代償性肝硬変」と「非代償性肝硬変」の2種類あり、代償性肝硬変は黄疸、腹水、浮腫、肝性脳症、消化管出血などの肝機能低下と門脈圧亢進に基づく明らかな症候のいずれも認められない病態のことです。反対に、非代償性肝硬変はそれらの症候のうち1つ以上認められる病態のことを指し、非代償性肝硬変の場合には肝機能低下に伴い不全をきたすリスクが高いため、TAEは禁忌となります。
ただし、非代償性肝硬変であっても亜区域塞栓であれば、肝硬変重症度C(Child C)でもTAEは可能です。
肝硬変重症度(右)
項目(下) |
1点 | 2点 | 3点 |
肝性脳症 | なし | 軽度 | 昏睡あり |
腹水 | なし | 少量 | 中等量 |
血清ビリルビン値(mg/dl) | 2.0未満 | 2.0~3.0 | 3.0超 |
血清アルブミン値(g/dl) | 3.5超 | 2.8~3.5 | 2.8未満 |
プロトロンビン活性値(%) | 70超 | 40~70 | 40未満 |
※ A・・5~6点、B・・7~9点、C・・10~15点
④高齢者またはPerformance Statusが3以上である
TAEは侵襲の少ない治療法ではあるものの、一時的な肝機能の低下や身体症状の副作用、術後合併症のリスクがゼロではありません。それゆえ、75~80歳以上の高齢者、またはPerformance Statusが3以上の患者に対しては施行されません。下表はWHOが定めるPerformance Statusの基準です。
スコア | 患者の状態 |
0 | 全く問題なく活動できる。発病前と同じ日常生活が制限無く行える。 |
1 | 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。たとえば、軽い家事、事務など |
2 | 歩行可能で、自分の身の回りのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。 |
3 | 限られた身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。 |
4 | 全く動けない。自分の身の回りのことは全くできない。完全にベッドか椅子で過ごす。 |
参照元:WHO PS : World Health Organization Performance Status
4、TAEの副作用・合併症
TAEは副作用・合併症の発症率は低いものの、カテーテルの操作や造影剤・塞栓材料・抗がん剤などの薬物による疼痛・発熱・吐き気、穿刺部の感染、腎機能低下に伴う二次的疾患の発症などのリスクがあります。
副作用 | 身体の痛み(みぞおちなど)、発熱、吐き気、食欲不振、肝機能低下に伴う症状、抗がん剤に伴う症状など |
合併症 | 感染症、薬剤の過敏によるショック、塞栓材料の多臓器への流入による臓器障害、急性胆嚢炎、膵炎、胆嚢・脾・小腸梗塞、麻痺性イレウス、肝膿瘍、胃・十二指腸潰瘍による消化管出血など |
多くは術中または術後まもなくに起こりますが、遅発性のものもあるため、適宜しっかりと観察を行い、早期発見・早期改善に取り組まなければいけません。
また、副作用の症状が弱い場合でも軽視せず、改善がみられない、または症状の増悪を確認したら二次的疾患の発症を疑い、迅速に対応してください。
5、TAEの施行手順
TAEは、血管造影室(IVR室)に入った後に、血圧測定、局所麻酔、カテーテル挿入、血管の塞栓・抗がん剤の投与、止血で、退室まで1~2時間程度で終わります。
|
TAE実施中は、カテーテルの操作による疼痛、副作用・合併症の発症リスクがありますので、逐一、患者の表情や状態を観察し、異常の早期発見に尽力するとともに、迅速に対応する必要があります。
6、術前・術中・術後の看護と観察事項
医療関係者の視点ではTAEは外科的手術ではない簡単な治療法ですが、患者にとっては一つの大きな手術であり、安易に考えることはできません。それゆえ、不安や緊張を軽減させるよう声かけや入念な説明を行うことが非常に大切です。
また、侵襲が少なく副作用・合併症の発症率が低いTAEですが、軽度・重度に関わらず、さまざまな副作用・合併症発症の可能性があるため、しっかりとした観察・早期改善が必要不可欠です。
さらに、入退室が激しい場合は特に、本人確認や同意書の確認を徹底するとともに、移動時に事故防止など、安全面にもしっかりと配慮しなければいけません。
このように、患者が安心・安全・安楽にTAEを受けられるよう、「精神的ケア」「異常の早期発見」「安全管理」の3つの事項を徹底することがより良い看護のポイントとなります。以下に、術前・術中・術後における観察事項や看護師の行うべきことを示します。
■術前:事前準備~入室前
術前は主に患者の不安軽減、治療の説明、情報収集などを行い、適切かつ効率的に施行できるよう準備を整えます。
|
■術中:入室~カテーテル挿入・治療
この過程はやることが多く慌ただしくなりますので、特にIVR室に移動時の事故や確認事項の不備が目立ちます。安全に配慮し、また副作用・合併症の早期発見・迅速な対処を心がけ、安楽な看護を実践してください。
■術後:カテーテル抜去~退室
術後には副作用・合併症の発症による対処、苦痛への介入などやることが多々あります。治療が終わったからと言って気を抜かず献身的な看護を提供してください。
|
まとめ
このように、TAEは侵襲が少なく副作用・合併症の発症率が低い安全で有効な治療法として活用されていますが、負担がないわけではなく、軽度の副作用・合併症は多発しています。
そのため、術中・術後における綿密な観察は不可欠であり、術前においても不安の軽減など、さまざまな点に配慮しなければいけません。
患者にとって安心・安全・安楽となる質の高い看護を提供するためには、まずTAEに関する知識を深める必要がありますので、当記事を一度だけでなく二度三度と熟読し、知識の習得に励んでください。
愛知県名古屋市在住、看護師歴5年。愛知県内の総合病院(消化器外科)で日勤常勤として勤務する傍ら、ライター・ブロガーとしても活動中。写真を撮ることが趣味で、その腕前からアマチュア写真家としても活躍している。
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