MRSAの看護計画|MRSAの症状・感染経路・治療方法とその注意点(2017/08/27)
MRSAとはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌のことで、抗生剤が効きにくく、院内感染を起こす代表格とも言える細菌です。
MRSAの感染経路は接触感染で、看護師などの医療者を介してほかの患者へ感染が広がることが多いですので、看護師はMRSAについて正しい知識を持っておく必要があります。
MRSAの基礎知識や症状、感染経路、治療方法、看護計画、看護の注意点をまとめました。
1、MRSAとは
MRSAとは、Methicillin-resistant Staphylococcus aureusの略で、日本語に訳すとメチシリン耐性黄色ブドウ球菌になります。MRSAは院内で分離される耐性菌の代表的な1つになります。
厚生労働省の「院内感染対策サーベイランス事業検査部門 公開情報 2015年10月~12月」によると、医療機関で検出された耐性菌の中で、MRSAの割合が最も多くなっています。
黄色ブドウ球菌は私たちの皮膚や口腔内、鼻粘膜等に付着している常在菌で、免疫力が低下していると、黄色ブドウ球菌による感染症が起こります。
MRSAは黄色ブドウ球菌の1種で、同じような性質を持っているものの、耐性遺伝子を持っていて、通常の抗生剤が効きにくいという特徴を持っています。
そのため、免疫力が低下している人が多い病院や介護施設内でMRSAによる感染症が発生し、院内感染を起こすと、効果的な治療ができずに、重症化して死に至ることもあるのです。
MRSAは現代医療の中で、抗生剤を使い過ぎたことで、黄色ブドウ球菌が進化した結果、発生した細菌です。
MRSAは院内で分離される耐性菌の中で最も多く、院内感染を起こす代表的な細菌になります。以前は、入院患者から分離される黄色ブドウ球菌の50~70%をMRSAが占めているとされていました。
ただ、近年は院内感染対策に力を入れている施設が増加していますので、MRSAの割合は減少傾向にあります。
2、MRSAの症状
MRSAは菌を保有しているだけでは、必ずしも症状が現れるわけではありません。MRSAは黄色ブドウ球菌の一種です。
黄色ブドウ球菌は常在菌であり、保有していても、免疫力が保たれていれば、無症状のままになります。MRSAも同様に、MRSAを保有していても、免疫力があれば感染を起こすことなく無症状のまま経過します。
ただ、免疫力が低下していると、MRSAが体内で増殖し感染を起こします。MRSAが分離された症例の割合は次の通りになっています。
・肺炎(VAP=人工呼吸器関連肺炎を含む)=40%
・菌血症=20% ・皮膚・軟部組織感染症=10% ・手術創感染症=10% ・尿路感染症=5% |
この割合からもわかるように、MRSAに感染すると、全身の様々な症状を引き起こします。また、MRSAの感染を起こす患者は、免疫力が低下していますので、局所感染が重篤化し、髄膜炎や腹膜炎へと感染が広がり、敗血症ショックを起こして死亡することもあるのです。
3、MRSAの感染経路
MRSAの感染経路は、接触感染です。MRSAを排菌している部位に直接触れたり、MRSA感染を起こしている部位からの体液や痰などを手指で触れた後、そのままほかのものに触れると、MRSAはどんどん広がっていきます。
MRSA保菌者の処置やケアをした医療従事者が、きちんと手洗い・手指消毒をせずにほかの患者の処置・ケアをすることが、MRSAの院内感染を広げる原因の1つです。
また、血圧計や聴診器などの医療器具がMRSAに汚染されていることもありますし、排菌患者の床頭台、ベッド冊はMRSAに汚染されている可能性が高いです。これらを介して、感染が広がることもあります。
4、MRSAの治療方法
MRSAは抗生剤に耐性を持っていますので、通常の抗生剤が効きにくいのですが、すべての抗生剤が効かない、治療方法が全くないというわけではありません。
日本でMRSAの治療薬として認められているのは、次の5つの抗生剤です。
・バンコマイシン(VCM)
・テイコプラニン(TEIC) ・アルベカシン(ABK) ・リネゾリド(LZD) ・ダプトマイシン(DAP) |
この5つの抗生剤の中で、どれを第一選択薬とするかは、疾患・感染部位によって異なります。
5、MRSAの看護計画
MRSAの患者の看護計画を説明していきます。
■MRSAが家族やほかの患者に感染が広がるリスクがある
看護目標 | MRSAの感染拡大が起こらない |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・血液検査データ ・MRSAの検出部位と菌量の確認 ・MRSA検出部位の状態 ・ADL ・栄養状態 ・患者や家族の理解度 |
TP(ケア項目) | ・指示に基づく抗生剤を確実に投与する
・スタンダードプリコーションを実施する ・栄養状態が改善できるような食事の工夫を行う ・必要があれば個室管理、逆隔離を行う ・カテーテル類は清潔操作を徹底する ・皮膚やオペ創部などは被覆材等で多い感染源を遮断する ・ベッド柵や床頭台などをアルコール消毒する ・体温計や聴診器、血圧計等はその患者専用のものを用意する |
EP(教育項目) | ・患者や家族にMRSAが検出されたことを伝える
・感染経路や感染予防について説明し、協力を得る |
このほか、MRSAが検出された部位や原疾患の状態を考慮して、その患者に合った看護計画を立案します。
6、MRSAの看護の注意点
MRSAの患者の看護をする時の注意点を確認していきましょう。
■スタンダードプリコーションの徹底
MRSAは接触感染になりますので、スタンダードプリコーションを徹底すれば、感染拡大を防ぐことが可能です。
1患者1手洗いを徹底しましょう。WHOでは感染予防のために、5つのタイミングでの手洗いを推奨しています。
MRSAの患者のケアをしたり、接触した時には、必ず手を洗い、手指消毒をしてから、ほかの業務をするようにしてください。
また、MRSAの患者のケアをする時には、マスク・手袋・ガウン(エプロン)の着用をしましょう。着脱の手順や廃棄方法も確認しておくと良いでしょう。
血圧計や聴診器、体温計などは、その患者専用のものを用意するようにしてください。
■個室管理が必要かどうかを判断する
MRSAは菌が検出されたから、必ずしも個室に隔離する必要はありません。次の3つの条件が満たされれば、大部屋での管理が可能です。
①MRSAの標準予防策が徹底されている
②保菌部位が限局していて、周囲に汚染を拡大する可能性が少ない ③患者がMRSAについて理解し、手洗いが励行できる |
隔離が必要かどうかを具体的なケースで説明していきます。
鼻腔保菌者 | 隔離必要なし |
気道分泌物からのMRSA保菌者 | 気管切開や気管挿管を行っている患者は個室管理、または同じ状態の患者を集めて大部屋管理にする必要があります。
気管切開や気管挿管を行っておらず、自分で喀痰後の適切な処理ができる患者の場合は、隔離の必要はありません。 |
褥瘡や手術創からのMRSA保菌者 | 被覆剤で創をしっかり覆うことができれば、感染経路を遮断することができますので、大部屋への入院が可能です。 |
尿や便からのMRSA保菌者 | 尿や便からMRSAが検出されている場合は、特に隔離の必要はありませんが、手洗いと手指消毒の指導を徹底する必要があります。バルーンカテーテルを挿入している場合は、交差感染を起こすリスクがありますので、看護師は注意しなければいけません。 |
■患者・家族の協力を得る
MRSAの感染拡大を防ぐためには、保菌者である患者とその家族の協力が必要不可欠になります。
そのため、MRSA保菌者の患者と家族には、MRSAが検出されたことと、感染拡大を防ぐための予防策を説明し、協力を得るようにしましょう。
また、看護師などの医療者がケアをする時には、マスク・手袋、ガウン(エプロン)を着用することをあらかじめ患者だけでなく、家族にも説明しておくと、不必要な誤解を避けることができます。
■逆隔離を考える
逆隔離とは、MRSA保菌者ではなく、易感染者(MRSAに感染して発症する可能性がある患者)を、感染予防のために隔離することです。
MRSAの感染経路は空気感染や飛沫感染ではありませんので、一定条件を満たせば、保菌者の隔離をする必要はありません。ただ、逆隔離の必要があるケースもありますので、看護師は感染拡大を予防するためにも、逆隔離の必要はあるかどうかを考えましょう。
感染者を隔離するのではなく、易感染者を逆隔離することで、感染拡大を予防することができるのです。
まとめ
MRSAの基礎知識や症状、感染経路、治療方法、看護計画、看護の注意点をまとめました。MRSAは院内感染を起こす耐性菌の中で、最も症例数の割合が高い細菌で、MRSAに効果のある抗生剤も限られています。
MRSAは看護師や医療者を介して感染が広がることが多いので、看護師はスタンダードプリコーションを徹底し、感染を広げないように注意しながらケアをするようにしましょう。
参考文献
院内感染対策サーベイランス事業検査部門 公開情報 2015年10月~12月(厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業|2017年1月5日公開)
感染対策と薬物療法(院内感染講習会Q&A Q57|一般社団法人日本感染症学会|2006年)
MRSA感染症の治療ガイドライン―2017年改訂版(日本化学療法学会雑誌65巻3号|二木芳人|2017年)
MRSA(鹿児島大学病院感染対策マニュアル|鹿児島大学病院医療環境安全部感染制御部門)
標準予防策(スタンダード・プリコーション)北大病院感染対策マニュアル(北海道大学病院感染制御部|2016年12月改訂)
1986年生まれ。北海道札幌市出身・在住。同市内の看護学校を卒業後、北海道大学病院の内科で2年勤務。その後、同市内の個人病院で6年間勤務し、結婚・出産を機に離職。現在は育児をしながら、看護師としての経験を生かし、WEBライターとして活動中。
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