気分障害とは|症状から見る5つの看護ポイント(2018/09/08)
私達は様々な感情とともに日常生活を送っています。喜びや悲しみ、怒り、落胆、幸福感などがそれにあたります。それらの感情が破綻し生活に影響を及ぼすような状況に陥った時、どのような症状が出てくるのでしょうか。
目次
1、気分障害(Mood Disorders)とは
気分障害とは、日々感じている気分に障害をきたすこと、すなわち過度な悲しみや高揚が長期間に渡って持続し、身体的・社会的・職業上の機能に支障をきたしている状態を言います。生活の変化によるストレス・離婚や家族との死別・病気などを原因として発症することから、誰にでもなりうる病気といえます。
気分障害は大きく1.うつ病性障害、2.双極性障害(躁うつ病)の2つに分けられます。これらの違いや特徴・看護における注意点を踏まえて患者さんの社会復帰へむけて寄り添った看護をしていきましょう。
2、診断基準
気分障害におけるうつ病・双極性障害の診断基準に用いられているのは、DMS−5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)で、アメリカ精神医学会American Psychiatric Associationによって2013年に発行された精神障害の診断・統計マニュアルです。以前はDMS―Ⅳを基準として使用されていましたが、現在は一部改定されたDMS―5がメジャーになりつつあります。またWHOが作成するICD―10も用いられていますが、ここではDMS−5の診断基準を見ていきます。
2−1、うつ病性エピソードの診断基準:DSM−5
以下のA〜Cをすべて満たす必要があります。
A.以下の症状のうち5つまたはそれ以上が同一の2週間の間に認められ、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは抑うつ気分又は興味または喜びの喪失である。
①ほとんど毎日の1日中続く抑うつ気分
②ほとんど毎日の1日続く興味や喜びの消失 ③食欲・体重の変化 ④ほとんど毎日の不眠または過眠 ⑤精神運動背の静止または焦燥(他者によって観察可能で主観的でないもの) ⑥気力の減退・疲労感 ⑦無価値感や過剰または不適切な罪責感がほとんど毎日存在 ⑧思考・集中・決断の困難 ⑨自殺念慮や自殺企図 |
B. 症状は臨床的に著しい苦痛または社会的・職業的・他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
C. エピソードが物質や他の医学的状態による精神的な影響が原因とされない
D. うつ病性障害の出現は、統合失調性感情障害、統合失調症、統合失調症様障害、せん妄障害または他の特異的、非特異的な統合失調症スペクトラムおよび他の精神病性障害では上手く説明ができない
E. 過去に躁病性エピソードや軽躁病性エピソードはなかったこと
2−2.双極性障害(躁うつ病)の診断基準
〇双極性障害は以下のように分類されます。
〇双極Ⅰ型障害:うつ状態と躁状態がはっきりしている
〇双極Ⅱ型障害:うつ状態と軽躁状態が存在。うつ状態の期間が長く慢性化する傾向がある
気分循環性障害:軽いうつ状態と軽躁状態を繰り返す
➀.双極Ⅰ型障害:DSM―5
◆躁エピソード
以下のA〜Eをすべて満たす必要がある
A.気分が以上かつ持続的に高揚し、開放的で、または苛立たしい、いつもとは異なった期間が少なくとも1週間持続する
B.気分障害の期間中、以下の症状のうち3つまたはそれ以上が持続しておりはっきりと認められる程度に存在している。
・自尊心の肥大または誇大
・睡眠欲求の減少 ・普段よりも多弁であるか、しゃべり続けようとする ・観念奔逸またはいくつもの考えが競い合っているという主観的な体験 ・注意散漫 ・目標指向性の活動の増加、または精神運動性の焦燥 ・まずい結果になる可能性が高い快楽的活動に熱中すること |
C.症状は混合性エピソードの基準を満たさない
D.気分の障害は、職業的機能や日常の社会活動または他者との人間関係に著しい障害を起こすほど、または自己または他者を傷つけるのを防ぐために入院が必要であるほど重篤であるか、または精神病性の特徴が存在する
E.症状は、物質の直接的な生理学的作用、または一般身体疾患によるものではない
➁.双極性障害Ⅱ型:DMS―5
◆軽躁病エピソード
以下のA〜Eをすべて満たす
A.以上かつ持続的な高揚し・開放的または易怒的な気分、そして異常かつ持続的な増大した活動または活力が、1日のうちほとんどほぼ毎日存在するいつもと違った期間が少なくとも4日連続で持続する
B.気分の障害と活動と活力の増大の期間中、以下の症状のうち3つまたはそれ以上がはっきりと認められる程強く、通常のふるまいからの変化として持続して存在したことがある
・自尊心の肥大または誇大
・睡眠欲求の減少 ・普段よりも多弁であるかしゃべり続けようとする心迫 ・観念奔逸またはいくつもの考えが競い合っているという主観的な体験 ・注意散漫が報告されるか観察されること ・目標志向性の活動の増加または精神運動性の焦燥 ・まずい結果になる可能性が高い楽しい活動に熱中すること |
C.そのエピソードが、症状がない時のその人の性格特性ではない、昨日における明確な変化を示している
D.気分障害と機能の変化が他者によって観察できる
E.気分障害は、社会的または職業的機能に著しい障害を起こすほど、入院が必要であるほど重篤ではない。もし精神病性の特徴が存在するのであれば躁病と定義する
引用元:うつ病から双極性障害に診断が変わったのはなぜ?(医者が教えない精神科のこと)
3、看護計画
気分障害では気分や思考、言動あるいは身体面に特徴のある変化が見られます。それらの程度を把握し患者にとって必要な看護計画の立案・看護の実践をしていきましょう。
3−1.看護計画
①服薬の必要性を理解し適切な治療ができる
OP:観察
1.病識の有無と理解
2.拒薬の原因 3.服薬時の態度や服薬に関する患者の訴え 4.家族や患者の薬に対する不安等 |
TP:看護
1.服薬の介助・説明
2.服薬の確認 |
EP:指導
1.服薬の重要性と副作用について説明し、心配のないことを説明する
2.服薬の自己管理ができるよう状態に合わせて指導していく |
②日常生活のバランスがとれ、トラブルを起こすことなく入院生活が送れる
OP:観察
1.多弁・多動・活動性の亢進
2.患者の表情・会話・態度 3.気分の日内変動(易怒性・興奮・暴力等) 4.患者自身の抑制力 |
TP:看護
1.トラブルになりそうな状況下では看護師が入り調整する
2.他者に対して悪影響を及ぼす恐れがある場合は、患者と話し合い活動範囲を決める 3.感情的にならず言葉づかいや態度に注意して対応し一貫した態度をとる 4.できるだけ静かな環境を整える 5.患者と約束したことは必ず守り待たせない 6.患者と共に到達目標を決める |
EP:指導
1.不安や怒り、恐れなどの感情を言葉で表現するよう指導する
2.処置や検査等については簡潔に説明する |
③適切な栄養・水分の摂取ができる
OP:観察
1.食事・水分摂取量
2.間食の有無や程度 3.体重の増減 4.検査データ 5.食事中の様子・味覚の変化 6.食事を摂らない理由 |
TP:看護
1.患者の負担にならない程度に付き添い介助する
2.患者の嗜好に合わせて食事形態を変更・工夫する 3.患者の好む場所で食べられるよう配慮する 4.食べることを無理強いしない 5.食事摂取が困難な場合には補液などを検討する |
EP:指導
1.病院食以外にも好むものを食べられることを説明する
2.家族に差し入れを依頼する |
④適切な休息が得られ活動と休息のバランスがとれる
OP:観察
1.睡眠パターン(入眠困難・中途覚醒・睡眠時間・早朝覚醒・熟睡感)
2.健康時の睡眠パターン 3.嗜好品の種類・頻度 4.不眠の環境因子・日中の睡眠状況 5.倦怠感 6.不安 7.活動状況 8.気分の変動 9.眠剤とその効果 |
TP:看護
1.改善可能な不眠の環境因子は、早急に対処し解決できるようにする
2.日中の睡眠が多すぎる場合は少し控えてもらい、起きて座位で過ごす時間を増やしていけるよう関わりをもつ 3.患者とともに日課表を作成、活動と休息のリズムを作る 4.不眠時は眠剤を使用する 5.不安や不眠に対する訴えがある場合は傾聴する |
EP:指導
1.睡眠を妨げる嗜好品について説明し、できるだけコントロールするように指導する
2.意識的に日中活動することで不眠の改善に繋がることを説明する 3.眠れない時は眠剤を使用できることを説明する |
⑤自発性の低下により清潔行為が行えない
OP:観察
1.更衣の状況
2.入浴・洗面・歯みがき等の日常生活行為の状況 3.清潔行為能力の程度 4.身辺の整理状況 |
TP:看護
1.必要に応じて入浴・洗髪の介助をおこなう
2.入浴が出来ない時は清拭を行う 3.ベッド周囲の環境整備をともに行う 4.洗面の声掛け |
EP:指導
1.清潔保持の必要性を説明する
2.出来る事は自分で行うよう説明する |
⑤自傷行為をすることなく入院生活が送れる
OP:観察
1.希死念慮の有無
2.精神状態 3.自傷行為の有無 4.表情・言動 5.睡眠状況 6.周囲の危険物の有無 |
TP:看護
1.患者とコミュニケーションをとり信頼関係を築く。患者自らが悩みを訴えられるように関わる
2.患者の訴え・行動・服装の把握 3.危険物の有無、取り扱いに注意する 4.自殺のサインを見逃さない 5.薬物の管理を十分に行う 6.希死念慮の訴えがある場合は自殺しない事を約束する |
EP:指導
1.家族に現在の状況や内服薬の説明をする
2.外泊時は不審な行動があれば早く帰院するよう説明する 3.外泊時は患者を一人にさせないよう家族に説明する |
4、看護のポイント
先に挙げた看護計画は一例であり、患者の状態に応じて必要な目標や解決するべき問題を計画に組み込んでいきましょう。看護師は、患者自身の観察はもちろんのこと、患者の気持ちに寄り添いながら支援や看護を行っていくことが大切です。
1.慌てず焦らずに少しずつゆっくりと行う
2.安易な励ましはせず、患者の気持ちに寄り添う
3.安心・リラックスできる環境で休息できるよう環境を整える
4.患者とコミュニケーションをとり、信頼関係を築く
5.患者にとって大きな決断はしない
まとめ
精神科での看護は、患者が本来持つ自立性を回復し「その人らしい生活」が送れるようになる事を目標とした関わりです。心の問題として病気を捉えがちですが脳神経細胞の形にも変化が生じている状態でもあり、正しい治療を受ける事で回復する事を患者さんに理解してもらえるよう関わりを持ち、社会復帰に向けて個々にあった看護実践をしていくことが大切です。
参考文献
日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅰ.双極性障害(2018年1月25日|日本うつ病学会、気分障害の治療ガイドライン作成委員会)
日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016(2016年7月31日|日本うつ病学会、気分障害の治療ガイドライン作成委員会)
DSM−5精神疾患の分類と診断の手引き(2014年6月30日|日本精神神経学会|医学書院)
1983年生まれ、広島県広島市出身。看護学校を卒業後、広島県内の大学病院(精神科)に就職。夫の転職を機に退職し、妊娠していたこともあり、そのまま専業主婦の道へ。現在は2児のママとして、子育てに奮闘しながら看護師の知識を生かし、在宅ライターとして活動。復職を視野に入れ、看護ならびに心理学の勉強に精を出している。
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