看護師の教育制度「クリニカルラダー」の評価基準と評価項目(2016/03/23)
教育システムの1つとして、現在、多くの医療施設で実施されているクリニカルラダー。「ラダー教育」、「キャリアラダー」とも呼ばれており、看護師の能力向上のために、また人事評価の判断基準として活用されています。
クリニカルラダーとは何か、評価基準は何か、今一つ分からないという方は、最後までしっかりお読みいただき、クリニカルラダーに関する知識を深めてください。
1、クリニカルラダーとは
クリニカルラダーとは、キャリア(経験年数や能力)に応じた教育システムで、各看護師の看護の質向上や自己研鑽への意識向上などを目的として開発されました。
以前は、新人~中堅看護師の研修として、「新人研修」「役割研修」「フォローアップ研修」「テーマ別研修」「看護研究」といった人材育成のための多種多様な研修を実施する医療施設が多かったものの、中堅以降の看護師の学習は個人の自覚や責任に任されることが多く、能力開発における指針は不明瞭でした。
そこで、キャリア開発の支援という観点から、キャリアに応じた個々の能力向上・評価の取り組みとしてクリニカルラダーが開発されたのです。
クリニカルラダーの内容は医療施設によって異なりますが、一般的にはまず院内での集合研修を行い、キャリア別(レベルⅠ~Ⅳなど)における「ラダー評価」「目標管理」「課題レポート」などを通して、各個人の看護への取り組みを評価します。
以下に、クリニカルラダーを実施する上で必要となる「ラダー評価」「目標管理」「課題レポート」の3つの評価項目について詳しくご説明します。
なお、クリニカルラダーの段階は医療施設によって異なるため、ここでは「レベルⅠ(新人)」「レベルⅡ(一人前)」「レベルⅢ(中堅)」「レベルⅣ(達人)」とします。
2、ラダー評価
ラダー評価は、各段階(レベルⅠ~Ⅳ)において必要とされる能力を有しているかを判断するための基準です。
主に「到達目標」「看護実践能力」「組織的役割・遂行能力」「自己研鑽」の4つのカテゴリーにおいて、各段階で必要とされる能力を判断することが目的であり、細分化した各項目をもとに能力の有無を評価します。
2-1、ラダー評価の基本概念
■レベルⅠ(新人)
到達目標 | 先輩看護師から指導・教育を受けながら、基礎的な看護ケアを実践できる |
看護実践能力 | 先輩看護師から指導・教育を受けながら、基礎的な看護技術が実践でき、看護過程の展開ができる |
組織的役割・遂行能力 | 組織の一員としての自覚を持ち、チームメンバーとしての役割を認識し、責任ある行動がとれる |
自己研鑽 | 指導を受けて、自己の教育的課題を発見することができる |
■レベルⅡ(一人前)
到達目標 | さまざまな看護実践の場面において指導を受けず単独で判断・実践でき、チームリーダーとしての役割や責務を認識し遂行できる |
看護実践能力 | 指導を受けずに基礎的な看護実践を行うことができる |
組織的役割・遂行能力 | 自部署内における組織的役割を遂行できる |
自己研鑽 | 研究活動を通して、自己の能力向上に向けた取り組みを積極的に行い、その結果を業務に反映することができる |
■レベルⅢ(中堅)
到達目標 | 根拠のある看護実践に加え、組織的な役割が遂行できる |
看護実践能力 | 根拠のある看護実践が行い、他者の役割モデルをとることができる |
組織的役割・遂行能力 | 専門的な能力を発揮し、指導的役割を遂行できる |
自己研鑽 | 自己の能力向上に向けた取り組みを積極的に行い、主体的に研究活動・指導的役割を実践することができる |
■レベルⅣ(達人)
到達目標 | 論理的かつ実践的知識を統合した看護実践を行い、所属を超えてリーダーシップを発揮できる |
看護実践能力 | 豊富な知識・経験に基づいた質の高い看護実践を提供できる |
組織的役割・遂行能力 | 看護局の目標達成のために、建設的な意見を提示することができ、活動を遂行できる |
自己研鑽 | 専門領域や質の高い看護における自己教育活動・組織的研究活動を単独で実践できる |
2-2、各段階における到達目標
■レベルⅠ(新人)
到達目標 |
|
|
看護実践能力 | 看護実践 |
|
看護過程の展開 | ||
組織的役割・遂行能力 | 管理 | |
倫理 |
|
|
社会性 |
|
|
安全・危機管理 | ||
感染 |
|
|
自己研鑽 | 教育 |
|
研究 |
|
■レベルⅡ(一人前)
到達目標 |
|
|
看護実践能力 | 看護実践 |
|
看護過程の展開 | ||
組織的役割・遂行能力 | 管理 |
|
倫理 |
|
|
社会性 |
|
|
安全・危機管理 |
|
|
感染 |
|
|
自己研鑽 | 教育 |
|
研究 |
|
■レベルⅢ(中堅)
到達目標 |
|
|
看護実践能力 | 看護実践 |
|
看護過程の展開 |
|
|
組織的役割・遂行能力 | 管理 |
|
倫理 |
|
|
社会性 |
|
|
安全・危機管理 |
|
|
感染 |
|
|
自己研鑽 | 教育 |
|
研究 |
|
■レベルⅣ(達人)
到達目標 |
|
|
看護実践能力 | 看護実践 |
|
看護過程の展開 |
|
|
組織的役割・遂行能力 | 管理 |
|
倫理 |
|
|
社会性 |
|
|
安全・危機管理 |
|
|
感染 |
|
|
自己研鑽 | 教育 |
|
研究 |
|
これら各項目において、自己評価・他者評価(S・A・B・C・Dなど)を行います。
3、目標管理
目標管理は、PLAN(目標設定)→DO(パフォーマンス管理)→CHECK(成果評価)→ACTION(改善)という“PDCA”の過程の中で、目標に向けた取り組みの結果を測るのが目的です。
実施に際しては、「年間目標」「行動計画」「目標値」「年間スケジュール(達成期間)」「自己評価達成度」などの項目が記載されているシートに記述し、自己評価ならびに他者評価を行います。
自身の目標に対する達成度を測るためのものですが、達成度だけが評価されるのではなく、的確な目標の設定とそれに対する行動が評価されます。というのも、困難な達成目標に対しては自ずと達成度が低くなり、容易な達成目標に対しては自ずと達成度が高くなるからです。
それゆえ、達成できる目標計画をしっかり行えているか、それに対して献身的に行動できたかが評価のポイントとなります。一般的には、4月に目標設定を行い、9月に一度目の振り返り、2月に二度目の振り返りを行い、それまでの目標達成度を評価します。
4、課題レポート
課題レポートでは、看護過程の展開における理解度などを測るために実施されます。各段階において、また医療施設によってテーマは異なりますが、一般的には800~2000文字以内で以下のようなテーマが出題されます。
レベルⅠ(新人) |
|
レベルⅡ(一人前) |
|
レベルⅢ(中堅) |
|
レベルⅣ(達人) |
|
このように、「ラダー評価」「目標管理」「課題レポート」などにより、各看護師の現状の能力を判断し、各段階において必要とされる能力を超えた場合には、より高度の段階へと進むことができます。
なお、医療施設の中にはクリニカルラダーの段階に応じた昇給制度を取り入れているところもあるため、“やらされている”という気持ちではなく、積極的な姿勢で取り組みましょう。
5、最後に(評価の重要性)
クリニカルラダーは、各看護師の看護師の質向上や自己研鑽への意識向上などを目的として開発されましたが、その本質となるのは“評価”です。看護師は多忙な毎日を過ごし、身体的・精神的な負荷が非常に大きい職業です。また、患者に対する一方的なケアの提供では、看護師の精神的負担は増すばかりです。
クリニカルラダーを通して他者から評価されることにより、自身の看護における能力の開発や、業務に対するモチベーションが向上し、結果として各看護師の看護の質が向上するのです。
人材育成のために“評価”は欠かすことのできないものであり、評価なくして能力向上は不可能と言っても過言ではないのです。
■評価制度
評価軸 | 評価制度 | 内容 | |
仕事 | 職務評価・役割評価 | 各医療従事者が従事する職務の価値や職責を評価するとともに、各職務における役割価値の大きさを評価する | |
人 | 能力評価 | 職務を遂行するために必要な能力レベルを評価する | |
クリニカルラダー評価 | ラダー(経験年数)に応じて求められる看護臨床実践能力を段階別に評価する | ||
執務態度・情意評価 | 積極性、協調性、規律性、責任感などの職務に対する姿勢を評価する | ||
行動評価 | 顕在化した能力の評価 | 医療施設が期待する医療従事者の行動レベルを示して、その行動レベルがどの位置に相当するのかを評価する | |
コンピテンシー評価 | 成果に直結する能力の有無を具体的に表現したものを基準として評価する | ||
成果
・ 業績 |
個人業務評価 | 個人があげた業績を定量的・定性的に評価する | |
組織業績評価 | 個人業績に加え、病院業績・所属組織業績を複合して評価する | ||
目標達成度評価 | 組織目標に基づいて設定された個人目標または所属組織目標の達成度を評価する | ||
バランススコアカード | 財政・顧客・業務プロセス・学習と成長の4つの視点をもとに、経営戦略を日常業務の具体策へ落とし込み、その実績を評価する |
上表のように、評価制度は実にさまざまで、クリニカルラダーは数ある評価制度のうちの1つに過ぎません。クリニカルラダーは人材育成のために非常に有効な教育システムですが、評価項目は多岐に渡るため、看護部長や看護師長などの管理者は特に、多角的な視点で看護師を評価する必要があるのではないでしょうか。
まとめ
現在、多くの医療施設でクリニカルラダーを取り入れています。大きな施設では、研修が充実しており、院内研修だけでなく院外研修など、人材育成において積極的な取り組みが行われています。
また、クリニカルラダーにより、自身の看護の質や業務に対する意欲の向上を図ることができ、これらは患者にも好影響をもたらします。
就業施設のクリニカルラダーを知ることで、看護師に何を求めているか、どのように看護を行えばよいのかなど、さまざまなことが見えてくるため、就業施設のクリニカルラダー、特に「ラダー評価」を今一度、確認してください。そして、各段階で必要とされる項目を念頭に置き、積極的な姿勢で看護を実践していきましょう。
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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