ナラティブ看護の考え方、ポイントになることは(2015/10/26)
ナラティブという言葉を聞いたことがありますか。今、医療現場ではこのナラティブを用いて看護を振り返ることが行われています。キャリア開発ラダーを進めていくうえで、看護をどのように考えているか、大変重要な指標となります。
ナラティブを導入している病院では、「ナラティブで書いてください。」と言うでしょう。文章が得意な方やシナリオを順序立てて、書ける方も中にはいると思います。しかし多くの看護師は「どのように書いていいのかわからない。」・「ナラティブに書けているか心配。」・「具体的な例がないとわからない。」という声が多いのが現状です。
当ページでは、
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これらについて記載し、ナラティブを理解し看護の質を高める一つの材料として、参考にしていただければと思います。
目次
1、ナラティブとは
臨床での出来事やその場面を一人称の物語風に記述したものをいいます。つまり、普段の看護実践での出来事を、自分の言葉を用いて、「私」を使って会話スタイルで書き表していくことです。ケーススタディと混同しやすいですが、ナラティブは物語風に書くということを意識していきます。
ケーススタディと決定的な違いは、ナラティブに記述することによって、あなたの普段行っている看護実践の内容が見えやすくなります。また物語風に臨床での出来事や場面を記述していくことは、あなたが実践で大切にしている看護観が反映されていきます。
2、ナラティブを看護としての書き方
実際にどのように書くか、ストーリーを選んで書いていく形になります。具体的なストーリーの選び方は下記を参考にしてください。
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これらのストーリーをまずは、頭の中で思いだしてみます。
2-2、どのような看護情報を書いたらよいか
上記のストーリーを選んだ後に重要なのは、情報をどのようにまとめるかです。事例を読む人は、あなたの普段の看護や仕事上の役割を知りません。また、記述した領域のケア全般について精通していないかも知れません。つまり、読んでいる人が、あなたの選んだ出来事や場面を心に思い浮かべることができ、ストーリーの流れを理解できるように、詳しく記載していく必要があります。
では実際にどのような情報が含まれていると、望ましいのかを下記に挙げます。
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これらの情報を書き、詳細に記述していくことが、ナラティブに文章を書いていくことになります。
2-3、どのように書けばよいのか
ナラティブに書くということは、ただ事例を書くのではなく、「自分の言葉で、会話的なスタイルを用いて、出来事を詳細に書く」ということになります。状況を省略あるいは要約は推奨しません。
現実に起こったことが伝わらないような雑な表現は極力避けたほうが良いでしょう。ここが重要で、あなたが何を見て、何を感じて、何を考えて、どう行動をしたのか、どう結果として起きたか、これらを省略せずに詳細に書いていくことが大切になります。
3、ナラティブを書くのは難しいか
ナラティブのように書くことに対して、下記のように考えてしまう傾向があります。
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また様々な不安や疑問が出てきます。
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ナラティブを書く際に、誰もが思うことでしょう。ナラティブに書くことは、その人の看護実践内容や看護観を反映することにつながります。したがって、優れた人にしか書けないという事は、ありません。
また、看護実践での成功事例だけではなく、上手くいかなかった看護事例の中にも、あなたにとって良い意味のある出来事があることでしょう。
ナラティブに書くことは、難しいと感じますが、まずは書くことから始めてみましょう。書き始めると、会話口調で文章が進むので、スラスラ記述できることもあります。
4、ナラティブアプローチの意味
ナラティブアプローチという言葉を聞いたことがありますか。
生活の場の様々な場面で私たちは物語を育んでいます。人の行動を理由づけて説明するのに、私たちは無意識に物語を進めています。心のなかでも私たちは常に物語を作っています。何かの出来事を思い出すときや、さらにそれを誰かに語るときは、いくつかの場面を組み合わせていきます。
そして、何かの繋がりがあったものとして筋書きをつけていきます。日々出会う多種多様なことを誰かに話すときに、相手にわかるようおもしろく話しますよね。必ず語り手の強調したい点、聴き手に伝えたい出来事が選ばれ物語が作られていきます。
大切なのは、話を自分のことのように楽しむこと、聞いてくれる誰かがそばにいることになります。それによって、物語はさらに生き生きとしていきます。聞き手も相手の物語づくりに参加しているのです。
つまりナラティブアプローチとは、生きている人を内側から描く、もう一つの人間理解へと挑戦することとなります。
5、ナラティブ事例を書く前に
私たち看護師は、学生の頃よりケース発表を行ってきました。事例発表となると、ケースの紹介→家族背景→看護問題→看護介入→結果という項目などに、系統立てて書いてきました。
しかし、ナラティブ事例になるので、友達と話しているかのようにどんどん書いてみるようにしてみましょう。一見メリットがないように感じるかもしれませんが、でもやってみてください。ケース発表とは違う、あなたが大切にしている何かが見えてくる可能性が十分にあります。
なぜ、その出来事が心に残っているのか、分かっているようで分かっていなかったことなど、話し口調で書いていると不思議と理解できることがあります。
5-1、ナラティブ事例
では、実際に私が過去に書いたナラティブを参考にしていただければと思います。
症候性てんかんで入院をしていたN・Tさん67歳、女性についてふり返りをしたいと思います。6西病棟に転棟時には、意志疎通は難しい状態で体動が強いため、体幹抑制で様子を見ていました。体重が29kg前後しかなく、とても細い方で体幹抑制からすり抜けてベッドから転落したことがありました。また皮膚にも発赤などがみられていました。転落したことを受けて、抑制カンファレンスをチームで行い、経管栄養時にはMa自己抜去の危険性があるため両手の抑制は必要ではあるが、身長が124cmぐらいしかなく、小児用のサークルベッドが良いのではないかと話し合いがされました。小児用のサークルベッドに変更してから数ヶ月、皮膚は改善し転落などの大きな危険もなく経過していきました。その後、医師の薬剤調整により意識レベルの改善がされ、徐々に意思疎通がとれるようになりました。経口摂取も可能になり、Maも抜去となったため抑制フリーにもなりました。リハビリも進んだある日、日中で小児用サークルベッドから降りて床に患者がいるという報告を受けました。患者に確認すると、「サークルに捕まりながら降りた」と話していました。明らかに転落をした形跡はありませんでしたが、ADLが拡大し、小児用サークルベッドは一般的に使用するベッドより高さがあるため、転落をした場合は骨折などの危険性が高いと感じました。その日の看護スタッフ間でカンファレンスを行い、元のベッドに戻すことも考えましたが、皮膚トラブルにつながることや抑制のストレスを考え、ゴザの上に布団を引いて様子を見てみるのはどうかと話しが出ました。これならば、ベッドから転落する危険もなく、体幹抑制も使用せずに離床センサーのみで経過を見られるという話し合いの結果になりました。その後、退院まで離床センサーのみで大きなトラブルはなく、表情よく過ごされているようでした。
今回の事例を通して感じたことは、各々の患者に対して抑制カンファレンスをチームで行っていくことの大切さを感じました。チームで検討しなければ、安全を第一に考え抑制強化だけをしていたかもしれません。抑制は、患者に大きなストレスがかかる事を常に考えながら、各々の患者の最適な状態を作ってあげることができたらよいなと、より考えた事例でした。 |
5-2、ナラティブ事例の振り返り
事例を読んでみて、あなたは何を感じましたか。上記で記述した、あったほうが良い情報をいくつか含めているので、説明していきます。
■その出来事はどこで起きたのか
日中の病室で起きたことを記述しています。
■その出来事が起きたときの時間、または勤務帯
日中で発生したことを記述しています。
■その出来事や場面の中で、あなたが感じたことや考えたこと
病院のため、ベッドを使用するのが基本ですが、抑制をしない方法はないか考えたことが記述しています。
■あなたが決断したことや行動したこと
今までやったことがありませんでしたが、ゴザを引いて布団を引き、本人の生活の質を大切にしたことが記述しています。
■対象者がどのような反応をしたか
離床センサーのみで表情よく、退院まで過ごしていたことについて記述しています。
■出来事の後に、あなたが感じたことや考えたこと
チームカンファレンスを行うことで、患者様にとって最善であろうことが検討できたのではないかと記述しています。
■なぜ、この出来事や場面があなたにとって、重要なのかについて
当たり前だと思っている看護が、対象者にとっては当たり前ではないということです。安全強化の視点だけではなく、患者様にとって何が最善なのか環境を整えることが大事であることを記述しています。
このように、ナラティブ事例に必要とされる情報が記述していると、聞き手が場面を想像しやすくなります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ナラティブを書こうと考えると、「私には書けない。」「文章が得意ではないから。」などの声が多いのが現状です。しかし、看護スタッフや友達に話す時は、容易に話すことができますよね。その時、無意識に読み手がわかりやすいように、ストーリーを作り上げて話していることが多いのではないかと、私は考えています。
無意識に話していることを、文章に書き起こしてみる、このようなスタンスでやってみてはどうでしょうか。慣れてくると、ケーススタディより書きやすく、そして看護の質を皆で向上する、一つの方法に十分になり得ます。是非チャレンジして見てください。
福岡生まれの東京都在住の正看護師。看護学校を卒業後、大学病院に就職、ICU、オペ室、循環器を経験し、美容クリニックを経て、現在はブロガーとして活躍。
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