発達障害を持つ子どもの心身をケアするための2つの看護計画(2018/09/01)
自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などからなる発達障害。発達障害をもつ子どもはその症状により学校になじめず不登校となったり、心のトラブルだけでなく心因性の身体症状を伴うことがあります。少しの言葉で傷付きやすいので、今何で悩んでいるのか、信頼関係を築きながら援助していくことが大切です。発達障害を持つ子どもの心と体のケアと看護計画についてお話します。
目次
1、発達障害とは
発達障害とは、発達障害者支援法には「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」とされています。
2、発達障害の診断
本人・家族からの問診、心理検査、脳画像検査(CT/MRI)、知的機能検査(各種発達検査)、 特殊な認知機能検査(WCST、CPTなど)を通して、時間をかけて包括的に評価し決定します。
2-1、学習障害
学習障害はアメリカ精神医学学会の診断基準「DSM-Ⅳ-TR」で4タイプに分類されます。知的な遅れや感覚障害はないにも関わらず、中枢神経系の機能障害より特異な基礎的学力の障害があると考えられています。特に小学2~4年生などの読み書きや計算式を要求される学年での成績不振などで学習障害に気づくことがあります。学習障害の4タイプは以下の表を参考にしてください。
下位分類 | 内容 |
①読字障害 ②算数障害 ③書字表出障害 ④特定不能の学習障害 | ひらがな・漢字がなかなか覚えられない、作文が書けない、計算はできるが文書題が解けないなど |
出典:小児看護学 子どもと家族の示す行動への判断とケア(日総研出版p340 表109 学習障害の下位分類と内容|筒井真優美|2010年10月)
2-2、注意欠陥|多動性障害
注意欠陥|多動性障害(通称ADHD)は、不注意、多動性、衝動性の3つの症状からなり、1つのことに集中できず他のことに移ってしまったり、常に動き回りじっとしていられなかったり、待つことができず考えなしに行動してしまったりなどの行動が見られます。7歳までに多動|衝動性、不注意、または両方の症状が現れ、それらのタイプの程度により、多動‐衝動性優勢型、不注意優勢型、混合型に分けることができます。以上の理由から、周囲と適応しにくいことがあり、行動上の問題が実際よりも重大であると周囲から誤解されることもしばしばあります。
2-3、広汎性発達障害
広汎性発達障害は、自閉症およびその近縁疾患のことを指します。自閉症は、対人的相互反応の質的障害、コミュニケーションの質的障害、行動、興味および活動の限定された反復的で情動的な様式の3つの行動症状からなり、特徴として、視線があわない、一人遊びを好む、会話ができない、母親の後追いをしない、反響言語が多い、文字や記号への著明な関心と記憶、同じものや同じやり方に強いこだわりを示すなどがあげられます。自閉症の典型的な症状は1歳台から始まります。こだわりが強いもの、好きなことには何時間でも集中できますが、新しいことや決まったことを変更して行うことが苦手です。広汎性発達障害の分類については以下の表を参考にしてください。
①自閉性障害(自閉症) ②レット障害(レット症候群) ③小児期崩壊性障害 ④アスペルガー障害(アスペルガー症候群) ⑤特定不能の広汎性発達障害(非定型自閉症を含む) |
出典:小児看護学 子どもと家族の示す行動への判断とケア(日総研出版|p340 表111 広汎性発達障害の下位分類|筒井真優美|2010年10月)
3、発達障害の特徴
発達障害の子どもは、身体症状(特に夜尿、チック、頭痛、腹痛などの心因性と思われる症状)を伴いやすいです。また、無気力で倦怠感を伴う抑うつ症状や、いらいらして攻撃的になったり、相手の気持ちが理解できず意図せず相手を傷つけてしまったりすることもあります。以上の理由から、学校生活で問題を抱え、いじめの対象となってしまうことがあり、結果情緒の不安定が続き、不登校の原因となることもあるため注意が必要です。しかしながら、発達障害は症状や特性を本人だけでなく家族・周囲の人がよく理解し、その子どもに合わせた生活や、学校での過ごし方や人間関係を工夫することさえできれば、子どもの能力を十分に生かすことができます。だからこそ本人・家族、周囲が同じ目標をもって治療に臨むことが大切です。
4、発達障害の看護計画
発達障害をもつ子どもたちは、心因性の身体症状や、心のトラブルを持っていることが多々あるため、今その子どもに対して何が問題になっているのかを知り、どう信頼関係を築いて関わっていくかが大事です。以下、看護計画を挙げましたので参考にしてください。
4-1、心因性の身体症状による安楽障害
■看護目標:不安が軽減し身体症状が軽快する 観察項目
・表情、言動 ・夜間睡眠状況 ・腹痛、頭痛の有無 ・夜尿、排便の回数 ・チックの有無 ・学校での人間関係 ・学校での教師からのコメント ・体重 ・食事摂取量 ・やる気の有無 ・倦怠感の程度 ・家族関係 |
ケア項目
・遊びや絵画を通じて感情を表出する機会を作る ・受容的・共感的な態度で接する ・自責の念を和らげ、思いを受け止める ・希望的な態度で接する ・子どもの要求には可能か不可能かはっきり答える ・無理に考えを強要しない ・内服が苦手であれば服薬ゼリーなどで内服してもらう |
指導項目
・地域と連携を図り家族へのサポート体制が整うよう支援する ・家族と子どもが同じ病気感を持っているか、治療目標を持っているか再確認し目標設定する ・家族の頑張りを認める |
4-2、具体例
・内服治療をしぶしぶ続けている子どもの場合 →投薬を続けている頑張りを認めて褒める ・少しずつだが眠れるようになってきた不眠症の子どもの場合 →前回は眠れなかったのに少しずつ変化が起こっていることから、いずれ乗り越えられることを希望的に答える ・自閉症の子どもが工作をしている時の対応 →良い作品だということを伝え、ほかにも作品を作ったりしているのかなど、長所を褒めて伸ばす ・子どもがいじめにあっていることを自分のせいだと責める母親 →家族を責めず、母親自身が自責の念を抱いていること、周囲からもプレッシャーをかけられていることを理解し、自責感を和らげ自信をもてるような言葉をかける ・家族の負担が大きく家族の健康が心配な場合 →家族の睡眠・食事状況、子どもの送迎や家事の役割などを確認し、必要であれば家庭内外でサポート体制ができるように整える |
まとめ
学習障害、注意欠陥|多動性障害、広汎性発達障害からなる発達障害を抱える子どもは、心身ともにトラブルを抱え、周囲となじめないことから不登校や自傷行為に走ることもあります。本人や家族との問診と、心理・認知機能・脳検査などを通して包括的に診断し、本人と家族が同じ病気感・治療計画を持って治療に臨むことが大切です。
参考文献
小児看護学 子どもと家族の示す行動への判断とケア(筒井真優美|日総研出版|p340ー344|2010年10月)
発達障害とは(文部科学省)
こころの発達診療部(東大病院)
発達障害(厚生労働省)
1983年生まれ。宮城県石巻市出身。正看護師歴10年。看護短大を経て、仙台市立病院の小児科で勤務。その後、小児科での経験を生かし、保育園看護師として同市内の保育園に就職。現在は1児のママとして、育児の傍らWEBライター・ブロガーとして活動している。
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