保育士の低給与・重労働の実態と待遇改善に向けた国の取り組み(2016/10/03)
保育士は非常にやりがいのある職業であり、常に「なりたい職業ランキング」の上位にランクインしています。しかしながら、給与と労働環境のバランスが全くとれておらず、このことが原因となって離職する保育士が後を絶ちません。
この問題を受けて、国や自治体は保育士の給与・労働環境の双方から、待遇改善を図る動きをみせていますが、実はこれにも大きな落とし穴が存在し、施行に伴って労働環境がさらに悪化するかもしれないのです。
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1、最低水準に位置する保育士の給与
保育士の給与は非常に低く、年収300万円にも満たないという方が多くいらっしゃいます。「保育士の年収&ボーナス|男女別・年齢別・都道府県別における比較」で詳しく紹介していますが、平成26年度の厚生労働省の公表資料1)によると、保育士の平均給与月額は約21.6万円、平均年収は約332.5万円で、調査対象には公立で働く公務員保育士も含まれているため、私立保育園で働く一般保育士の給与はさらに低い状態です。
また、「保育士の給料事情|統計からみる手取り・初任給・時給などの平均額」で紹介しているように、総支給額から各種税金や給食費など、およそ20%分が差し引かれるため、上述の21.6万円をもとにすると、平均手取り額は17.2万円。20~24歳の女性保育士(平均給与月額18.5万円)をもとにすると、平均手取り額は14.8万円にしかなりません。
贅沢をしない場合の20代女性の生活費は、およそ10.5万円(家賃5万円、食費3万円、光熱費7千円、通信費7千円、交際・娯楽費1万円)になり、少し贅沢をすると13万程度はかかってくるため、平均手取り額14.8万円ではほぼ貯金ができない状態で、中には生活困難に陥っている人も少なくありません。
さらに、多くの保育園は運営状態がギリギリであり、その限られた運営費から保育士の給与に充てられるため、経験年数を重ねても給与が大きく上昇することはなく、20代と40代を比較した場合、給与差はおよそ100万円にしかなりません。
このように給与における保育士の待遇は悪く、このことが原因となって離職する方は後を絶ちません。保育士の離職率は10.3%2)であり、私立保育園で働く一般保育士のみを対象とすると、離職率は12.0%。保育士資格を有していながら保育士として働いていない潜在保育士数は76万人以上2)とも言われており、保育士の低給与問題は非常に深刻なものとなっているのです。
2、長時間・重労働が当たり前の劣悪な労働環境
また、保育士の劣悪な待遇は給与だけでなく、労働環境にもあります。保育士の役割には、①園児への基本的な生活習慣を教える、②園児の身の回りのお世話をする、③園児の健康管理を行う、④園児の集団行動における社会性を身に着けさせる、⑤遊びを通して園児の心身の健康づくりを行う、⑥保護者に対して報告やアドバイス・サポートを行う、などがあり、就業時間中のほとんどは園児につきっきりの動きっぱなし状態で、実質的な休憩時間はありません。
さらに、行わなければならない業務が多いため、時間外労働が日常的であり、労働基準法で8時間/日・40時間/週の制限が設けられているものの、11時間/日・55時間/週というように制限を大きく超えることは珍しくありません。また、同法によって時間外労働に対する賃金の支払いが定められているものの、ほとんどの場合、支払われていないのが実情です。
行事の時期となると業務はさらに増えるため、家に持ち帰って仕事をすることもしばしば。この場合、特別業務手当として支給されますが、同手当は一定額のことが多いため、時間外労働に見合うだけの額とはなりません。
長時間労働における肉体疲労は当たり前となっていますが、それだけでなく、以前にも増して保育士と保護者との関係がシビアになってきたことから、保護者への対応で精神的に疲れてしまうことも多く、保護者からの要求などにより、さらに業務が増えることも珍しくはありません。
このように、保育士の労働環境は劣悪な状態にあり、近年では保育士不足ならびに待機児童問題が深刻となっているため、この劣悪な労働環境を早急に改善することができず、現状においては国や自治体が黙認している状態なのです。
3、人材確保・待機児童問題に関係した待遇の見直し
上述のように、給与・労働環境の2つの側面が、保育士の大きな問題となっており、このことが高い離職率ならびに低い復職率の要因になっていることから、国や自治体は人材確保のための給与の引き上げ、ならびに待機児童問題の解決へ向けたさまざま対策案を検討し、取り組みへの積極的な姿勢をみせています。(対策案の詳細については「保育士の給料が上がる!?政府提示の給与引き上げニュースまとめ」をご覧ください。)
しかしながら、特に待機児童問題の解消へ向けた施策は、保育士の労働環境をさらに悪化させるとし、多くの懸念の声が上がっているのです。
待機児童問題における国や自治体の主な施策は、「保育園の増設」であり、市有地の有効活用や設立費用の補助などをもとに、保育園を増設し、待機児童を減らそうというものです。
保育園の増設を行うことで、保育士1人あたりの園児数は必要と増えてしまうため、この対策として無資格者の雇用の推進を検討しているようですが、これでは保育の質低下を招いてしまいます。
無資格者が多く雇用されるようになると、有資格者である保育士は無資格者に対して指導・教育を行う必要があり、また保育の質低下が起こると保護者とのトラブルが増加し、結果的に待機児童問題に取り組むことで、保育士の労働環境はさらに悪化する可能性が極めて高いのです。
まとめ
保育士の低給与と重労働の問題は非常に深刻なものとなっており、これが原因となって離職する保育士は後を絶ちません。加えて、復職を望む者が少なく、潜在保育士数は76万人にものぼると言われています。
保育士不足や待機児童問題を受けて、国や市町村はさまざまな施策を講じる動きをみせていますが、保育士の待遇を改善するために多大な費用と時間がかかることが目に見えているため、当面、待遇改善はなされないと考えておいた方がいいでしょう。
なお、給与と労働のバランスが全くとれていませんが、このことは園児には全く関係のないことです。それゆえ、待遇改善がなされないとしても、また待遇が悪化したとしても、今後も同様に、園児の健全な成長への支援のために、質の高い保育を提供していくことが、保育士の1つの課題になるのではないでしょうか。
参照資料
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