保育士の年収&ボーナス|男女別・年齢別・都道府県別における比較(2016/10/03)
保育士不足の大きな要因となっているのが、全職業の平均に遠く及ばない低水準の年収です。公立・私立・認可・無認可など、保育園の形態によって年収は大きく異なりますが、総じて年収は低く、生活困難に陥っている方も多々見受けられます。
現在の保育士の給与がどの程度なのか、男女比や都道府県ごとの平均、他業種・同業種との比較などを交えて詳しく紹介しますので、保育士の給与事情を知りたいという方は、ぜひ参考にしてください。
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1、保育士の給与事情
一般的に福祉関係の職業は給与が低く、それに伴う離職率の高さが懸念されています。保育士の一日の業務時間は、保育という業務上、7~19時のところが多く、常勤保育士であれば12時間労働(うち休憩1時間)となることも少なくありません。
また、行事がある時や、時間内に業務が終わらない時には、帰宅後も仕事をしなければいけないことがあるなど、給与と労働のバランスが崩壊しており、これが10.3%1)もの高率の離職率に繋がっています。
厚生労働省の公表資料2)によれば、保育士の月額給与は平均で約21.6万円(平均年齢34.8歳、勤続年数7.6年)、平均年収は約332.5万円。
長時間かつ過労な業務に加え、保護者の対応がシビアになっている昨今では特に、精神的ストレスを抱えることも多く、この過酷な業務と332.5万円という低年収は割に合わないという声が各地各方面から上がっています。
なお、保育士の低給与は「保育士の給料が安い理由|調査してわかった3つキーワード」に記載しているように、保育士という職業が確立されはじめた1900年代中期より続いており、保育園の限定的な運営費や営利目的の事業者が増えたことが起因して、保育士の給与の底上げが難しくなっています。
2、給与・年収の男女比と年齢比
社会一般的に、女性よりも男性の方が給与が高く、それは保育士にも言えることです。現状、女性保育士は男性保育士よりも圧倒的に就業人数が多いものの、社会思想や業務の違い(重労働が多い)などの理由により、男性保育士の方がわずかながら高給与となっています。
①決まって支給する現金給与額は、労働協約または就業規則などによって、あらかじめ定められている支給条件で、算定方法によって6月分として支給される現金給与額のこと。手取り額ではなく税込みの月額給与のことで、基本給与に加えて、職務手当や精皆勤手当、家族手当などが含まれているほか、時間外勤務、休日出勤等超過労働給与も含まれる。
②年間賞与その他特別給与額は、労働協約または就業規則などに則さず、一時的または突発的理由にもとづいて支給される給与額のことで、主に賞与(平均2~3.5か月)が該当。 |
上表3)は、保育士(男女)の年齢ごとの平均給与額を示しています。男性保育士の平均年収は350.8万円(平均年齢31.4歳、勤続年数6.3年)に対し、女性保育士の平均年収は314.2万(平均年齢35.1歳、勤続年数7.7年)であり、高年齢・長勤続年数に関わらず、女性保育士の方が低給与となっています。
年齢ごとの平均年収は、男性保育士が260 .4万円(20~24歳)、317.1万円(25~29歳)、365.3万円(30~34歳)、462.5万円(35~39歳)、547.0万円(40~44歳)となっており、女性保育士が257.3万円(20~24歳)、293.9万円(25~29歳)、306.2万円(30~34歳)、326.9万円(35~39歳)、351.8万円(40~44歳)。
このことから分かるように、就業まもなくの給与差はそれほど大きくはないものの、年齢(経験)を重ねるごとに給与差は大きくなっていきます。一般的に保育士は年齢(経験)に応じた給与の上昇幅が狭く、同じ保育施設で長期的に就業する場合でも、給与の上昇はそれほど期待できないのが現状です。
(保険などが差し引かれた手取り額においては、「保育士の給料事情|統計からみる手取り・初任給・時給などの平均額」をご覧ください。)
3、都道府県別の年収差
保育士の年収は、地域における物価・土地単価や保育料、人口密集率など、さまざまな要因によって変動するため、都道府県によって平均年収が異なります。一般的に、東京都や愛知県などの大都市においては平均年収が高く、反対に佐賀県や福島県などでは平均給与が低い状態にあります。
年収は、「2、給与・年収の男女比と年齢比」掲載の表における、「①決まって支給する現金給与額」の12か月分と「②年間賞与その他特別給与額」の合計金額。 |
上グラフ3)は、保育士の都道府県別にみる平均年収と求人倍率を示しています。全国平均は約332.5万円であり、高い順に和歌山県(382万円)、愛知県(372万円)、東京都(369万円)、兵庫県(356万円)、京都府(351万円)となっています。
平均年収が低い都道府県は、低い順に佐賀県(220万円)、福島県(243万円)、山形県(259万円)、沖縄県(260万円)、青森県(264万円)となっており、最も高い和歌山県と最も低い佐賀県では、およそ162万円もの差が存在します。
都道府県 | 平均年収(万円) | 都道府県 | 平均年収(万円) |
全国 | 332.5 | 三重県 | 310 |
北海道 | 287 | 滋賀県 | 317 |
青森県 | 264 | 京都府 | 351 |
岩手県 | 276 | 大阪府 | 347 |
宮城県 | 298 | 兵庫県 | 356 |
秋田県 | 314 | 奈良県 | 321 |
山形県 | 259 | 和歌山県 | 382 |
福島県 | 243 | 鳥取県 | 286 |
茨城県 | 305 | 島根県 | 311 |
栃木県 | 299 | 岡山県 | 308 |
群馬県 | 295 | 広島県 | 297 |
埼玉県 | 308 | 山口県 | 308 |
千葉県 | 337 | 徳島県 | 279 |
東京都 | 369 | 香川県 | 295 |
神奈川県 | 333 | 愛媛県 | 323 |
新潟県 | 294 | 高知県 | 315 |
富山県 | 287 | 福岡県 | 330 |
石川県 | 335 | 佐賀県 | 220 |
福井県 | 276 | 長崎県 | 331 |
山梨県 | 285 | 熊本県 | 281 |
長野県 | 301 | 大分県 | 293 |
岐阜県 | 268 | 宮崎県 | 291 |
静岡県 | 320 | 鹿児島県 | 293 |
愛知県 | 372 | 沖縄県 | 260 |
このように、保育士の年収における地域格差は非常に大きく、これは全職種でトップクラスです。福島県や佐賀県のように、平均年収が低い都道府県の中には、比較的に生活費がかかるところもあるため、これらの都道府県では特に、早急な改善が必要であると言えます。
4、他業種との給与比較
また、保育士の給与は数ある職種の中でも低水準であり、また、医療・福祉分野においても低水準となっています。全職種の平均年収が480万円に対し、保育士の平均年収は332.5万円。割合でみると、保育士の平均年収は全職種のおよそ69%であり、7割にも満たないほどの低水準なのです。
上グラフ3)は、全職種の平均年収と保育士の平均年収における、都道府県別の金額と割合を示しています。また、下表は上グラフを数値化したものです。
都道府県 | 保育士の
平均年収(万円) |
全職種の
平均年収(万円) |
割合 |
全国 | 332.5 | 480 | 69% |
北海道 | 287 | 402 | 71% |
青森県 | 264 | 344 | 77% |
岩手県 | 276 | 361 | 76% |
宮城県 | 298 | 429 | 69% |
秋田県 | 314 | 365 | 86% |
山形県 | 259 | 373 | 69% |
福島県 | 243 | 416 | 58% |
茨城県 | 305 | 473 | 64% |
栃木県 | 299 | 470 | 64% |
群馬県 | 295 | 445 | 66% |
埼玉県 | 308 | 464 | 66% |
千葉県 | 337 | 473 | 71% |
東京都 | 369 | 613 | 60% |
神奈川県 | 333 | 544 | 61% |
新潟県 | 294 | 406 | 72% |
富山県 | 287 | 441 | 65% |
石川県 | 335 | 441 | 76% |
福井県 | 276 | 426 | 65% |
山梨県 | 285 | 450 | 63% |
長野県 | 301 | 435 | 69% |
岐阜県 | 268 | 437 | 61% |
静岡県 | 320 | 477 | 67% |
愛知県 | 372 | 526 | 71% |
三重県 | 310 | 483 | 64% |
滋賀県 | 317 | 476 | 67% |
京都府 | 351 | 478 | 73% |
大阪府 | 347 | 511 | 68% |
兵庫県 | 356 | 463 | 77% |
奈良県 | 321 | 456 | 70% |
和歌山県 | 382 | 418 | 91% |
鳥取県 | 286 | 387 | 74% |
島根県 | 311 | 394 | 79% |
岡山県 | 308 | 440 | 70% |
広島県 | 297 | 454 | 65% |
山口県 | 308 | 428 | 72% |
徳島県 | 279 | 416 | 67% |
香川県 | 295 | 427 | 69% |
愛媛県 | 323 | 405 | 80% |
高知県 | 315 | 382 | 82% |
福岡県 | 330 | 438 | 75% |
佐賀県 | 220 | 377 | 58% |
長崎県 | 331 | 379 | 87% |
熊本県 | 281 | 392 | 72% |
大分県 | 293 | 404 | 73% |
宮崎県 | 291 | 372 | 78% |
鹿児島県 | 293 | 384 | 76% |
沖縄県 | 260 | 339 | 77% |
都道府県別の全職種と保育士の給与割合をみると、最も高い割合となっているのが和歌山県(91%)で、次いで長崎県(87%)、秋田県(86%)、高知県(82%)、愛媛県(80%)。これらの都道府県においては、全職業との年収差に大きな開きはないため、給与による離職は比較的に回避されています。また、待機児童者数が少なく、適切な人材配置になっているところが多いため、全国的にみて比較的に労働条件は良好となっています。
全職種との年収差に大きな開きがある都道府県は、順に佐賀県(58%)、福島県(58%)、東京都(60%)、神奈川県(61%)、岐阜県(61%)。これらの都道府県では、低給与が原因となって離職する保育士が多い傾向にあり、保育士の人材不足が懸念されています。
5、保育士と幼稚園教諭の給与差
医療・福祉分野における資格・職種には、保育士のほかに幼稚園教諭や看護師、福祉施設介護員、ホームヘルパーなどがあり、この中で保育に携わる人材は保育士と幼稚園教諭です。
両者の業務内容にそれほど大きな違いはありませんが、保育士は“保育”、幼稚園教諭は“教育”という、業務上における目的は異なります。しかしながら、どちらも園児が健やかに成長する手助けを行うことが業務の根本であり、保育者として同一にみられることも少なくありません。そのこともあってか、給与においてはそれほど大きな差はみられません。
上表3)は、全職業と保育士や幼稚園教諭、看護師、福祉施設介護員、ホームヘルパーといった医療・福祉従事者の平均給与月額(税込)を示しています。
保育士の平均給与月額が21.6万円に対し、幼稚園教諭は23.1万円と、およそ1.6万円の差しかありません。
男女別にみると、女性保育士の平均給与月額は21.4万円、女性幼稚園教諭は22.8万円。男性保育士の平均給与月額は23.9万円、男性幼稚園教諭は32.7万円。男性においては、平均年齢と勤続年数に大きな開きがあるため、表ではおよそ8.8万円の差がみられますが、平均年齢・勤続年数を同じにした場合には、それほど大きな差はみられません。
なお、パート(非常勤)で働く保育士の平均時間給は980円。幼稚園教諭は1,046円。給与月額と同様に、医療・福祉分野において最低水準となっています。(幼稚園教諭の給料・年収の詳細は、「幼稚園教諭の給料・年収|年齢別・都道府県別の比較と手取り額」に記載してあります。)
6、保育士の低給与と離職率の関係性
保育士の給与は全職業の中でも低水準であり、それが離職要因の一つに挙げられます。業務時間が長いだけでなく、重労働や保護者の対応などにより、肉体的にも精神的にも疲労困ぱいする毎日でありながら、平均年収が332.5万円では割に合いません。
特に新卒者(女性の場合)においては、平均年収が非常に低く、さらに人間関係や慣れない業務などにより、大きな負担がのしかかります。ゆえに、20代前半の保育士の離職率が高く、大きな問題となっているのです。
なお、平成26年度時点における保育士の離職率は10.3%、うち公立保育園が7.1%、私立保育園が12.0%。保育士が希望する職場の改善項目4)(複数回答)のうち、59.0%もの保育士が「給与・賞与等の改善」を希望しており、さらに保育士として就業を希望しない理由5)(複数回答)においては、47.5%もの保育士資格保有者が「賃金が希望と合わない」と回答しています。
現在、待機児童問題が広く取り沙汰されていますが、保育士資格を有していながら保育士として働いていない潜在保育士数は76万人以上1)と言われており、離職の理由(ならびに復職しない理由)の多くが業務と見合わない給与であることから、保育士の低給与の問題は非常に深刻的なものとなっているのです。
まとめ
保育士の平均給与月額は21.6万円(平均年齢34.8歳、勤続年数7.6年)、平均年収は332.5万円であり、多くの保育士が十分な給与を得られていないのが現状です。
保育士を目指す人の多くは、“子供が好き”、“子供の成長に携わりたい”という強い気持ちを持っているものの、現実を目の当たりにして離職の道を選ぶ人は少なくありません。しかしながら、保育という業務は非常にやりがいのあるもので、低給与であってもそれ以上のやりがいを感じ、長年に渡って保育に携わっている方がたくさんいるのも事実です。
現在のところ、給与と業務のバランスがとれていませんが、他業種では得られない充実感や経験は非常に大きな利点と言え、さらに給与2%引き上げなど国を挙げて保育士の給与問題に対処する動きがみられていますので、有資格者は初心に戻って、今後も保育に携わっていただければと思います。
参照・出典資料
1)社会福祉施設等調査 厚生労働省大臣官房統計情報部 平成25年
3)保育士等に関する関係資料 保育士等確保対策検討会 厚生労働省 平成27年12月
4)東京都保育士実態調査報告書 東京都福祉保健局
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