保育士の給料事情|統計からみる手取り・初任給・時給などの平均額(2016/10/03)
保育士の給与は、数ある職業の中でも低水準であり、この低給与の問題は保育士の定着率や離職率に大きく関わっています。また、求人欄に掲載されている月収や年収は、税を含めた総収入であり、実際に受け取ることができる現金給料(手取り)はさらに少なくなるのが通常です。
今回は、現在の保育士の平均給与や各種税を差し引いた平均手取り額、そのほか初任給、公立(公務員)・私立保育園の給与比較などについて、公的なデータをもとに詳しく紹介しますので、給与の実態を把握したいという方は、最後までしっかりとお読みください。
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目次
1、保育士の平均給与
厚生労働省の公表資料1)によると、保育士の平均給与月額は約21.6万円(平均年齢34.8歳、勤続年数7.6年)、平均年収は約332.5万円。男性保育士の平均年収は350.8万円(平均年齢31.4歳、勤続年数6.3年)、女性保育士の平均年収は314.2万(平均年齢35.1歳、勤続年数7.7年)となっています。
また、都道府県によって年収に大きな差が存在しており、平均年収が最も高い和歌山県では382万円、最も低い佐賀県では220万円と、およそ162万円もの開きがみられています。(詳しい年収については、「保育士の年収&ボーナス|男女別・年齢別・都道府県別における比較」をご覧ください)
さらに、他業種との給与差にも大きな開きがみられ、全職業の平均年収が480万円であることから、保育士は全職業の約69%の給与しか支払われていません。このように、日本における保育士の給与は低水準であり、保育士の離職や待機児童の問題などを懸念して、現在では国を挙げて給与の引き上げを行う動きがみられていますが、実は保育士の低給与は日本だけでなく、海外でも大きな問題となっています。
アメリカに関して言うと、保育士(幼稚園教諭含む)の平均時間給は7.90~9.53ドル(米国労働省 2011、2))、日本では保育士が980円、幼稚園教諭が1,046円。為替の変動などによって一概に物価を判断することはできませんが、一般的にアメリカの物価は日本と同程度、または日本以上と言われているため、アメリカにおける保育士の低給与問題は日本と同程度、または日本よりも深刻な状態にあるのです。
2、保育士の初任給
上述のように、保育士の平均給与月額は21.6万円、平均年収は332.5万円ですが、これは就業するすべての常勤保育士の平均額であり、平均年齢34.8歳・勤続年数7.6年から算出されたものです。
保育士は年齢や勤続年数に応じた昇給が乏しいため、総じて大きく昇給することはありませんが、年齢別にみると20代、特に20代前半の方はかなりの薄給状態にあります。
①決まって支給する現金給与額は、労働協約または就業規則などによって、あらかじめ定められている支給条件で、算定方法によって6月分として支給される現金給与額のこと。手取り額ではなく税込みの月額給与のことで、基本給与に加えて、職務手当や精皆勤手当、家族手当などが含まれているほか、時間外勤務、休日出勤等超過労働給与も含まれる。
②年間賞与その他特別給与額は、労働協約または就業規則などに則さず、一時的または突発的理由にもとづいて支給される給与額のことで、主に賞与(平均2~3.5か月)が該当。 |
上表3)は、保育士(男女)の年齢別における平均給与額を示しています。20~24歳の男性保育士の平均年収は260.4万円(月額19.3万円)、25~29歳では317.1万円(月額21.3万円)。女性保育士においては20~24歳が257.3万円(月額18.5万円)、25~29歳が293.9万円(月額19.8万円)となっており、総じて20代の給与は薄給状態にあります。
初任給における公的なデータはありませんが、女性保育士の場合、上表の20~24歳の平均年収が257.3万円(月額18.5万円)であることから、1年目の年収はこれ以下ということになり、通常初年度は賞与が付加されない(または年1回)ため、平均初任給は約17万円、1年目の年収においては約240.5万円(冬1回、1か月分計算)となります。
ここから、各種保険料や給食費などが差し引かれますので、初任給の平均手取り額は約13~14万円。通常、2年目から年2回の賞与が付加されるようになりますので、年収は上昇しますが、保育士は他の職業と比べて、経験・勤続年数に応じた給与の上昇率が低いため、10年以上続けても給与が大きく上昇することはありません。
3、非常勤における平均時間給
アルバイトやパートなどの非常勤においては、基本的に月給制ではなく時間(1時間あたり)に応じて支払われます。雇用形態の多様化に伴って、近年では非常勤で働く保育士が増加傾向にありますが、依然として十分な給与を得られない状態にあります。
上表3)は、短時間労働者(非常勤)の全職業と、保育士・幼稚園教諭・看護師・福祉施設介護員・ホームヘルパーといった医療・福祉職の平均時間給を示しています。
全職業の男女計の平均時間給が1,041円(年齢45.0歳、勤務年数5.6歳)に対し、保育士の平均時間給は980円(年齢45.6歳、5.4年)。また、幼稚園教諭が1,046円、看護師が1,621円、福祉施設介護員が1,043円、ホームヘルパーが1,339円であり、保育士の平均時間給は全職業より、また医療・福祉分野の中でも低水準となっています。(幼稚園教諭の給料については「幼稚園教諭の給料・年収|年齢別・都道府県別の比較と手取り額」で詳しく紹介しています)
都道府県や施設形態などによって給与は大きく変わるため、時給1200円のところもあれば、時給800円のところもあります。総じて、非常勤保育士の平均時間給は低く、給与における安定性はないものの、残業がない、休日がとりやすいなど、常勤にはない利点が数多く存在することから、非常勤という雇用形態は特に小さな子供を持つ方に人気があります。
4、保育士の給与内訳
保育士だけでなく全職業の給与で、年収や月収という時には一般的に、基本給に加えて各種手当や賞与などが含まれています。
各種手当の種類や金額、賞与の金額においては、就業する保育園によって大きく異なる場合がありますが、基本的に手当は「調整手当」、「特殊業務手当」、「通勤手当」、「役職手当」、「扶養・住宅手当」などがあり、賞与においては基本給の約2~3.5か月分が一般的となっています。
基本給 | 手当を除いた毎月必ず支払われる基本賃金。 |
調整手当 | 能力に見合う賃金を支払うため、他の従業員との均衡を図るため、残業の対価など、就業先によって意図はさまざま。一般的に、勤続年数に応じて上昇する。 |
特殊業務手当 | 行事などの特殊業務に対して支払われる手当。行事の準備や実施、片付けなど超過の業務が発生するため、その超過分が手当として支給される。 |
通勤手当 | 通勤にかかる電車やバスの定期代の補助手当。車通勤でも支払われることが多い。 |
役職手当 | クラスリーダーや主任など、役職が付加される場合に能力に応じて支給される。 |
扶養・住宅手当 | 配偶者や子供、親など扶養家族がいる場合に支給される(扶養手当)。また、家賃補助として住宅手当がある。ただし、住宅手当がつく場合には通勤手当が支給されないことがあり、また扶養手当・住宅手当いずれも支給しない園が多い。 |
このように、さまざまな手当が支給されますが、各手当の支給額はそれほど多くはありません。多くの保育園で支給している「調整手当」と「特殊業務手当」を合わせても、20代では1万円~1万5千円程度(独自調べ)にしかならず、どちらも勤続年数に応じて上昇しますが、上昇幅は狭く、年ごとの上昇額は微々たるものです。
賞与においては、基本給2~5か月分と幅がありますが、2~3.5か月分を採用している園が多い傾向にあります。基本給を高く設定して賞与を抑えるケースや、基本給を安く設定して賞与を多くするケースなど、園によってさまざまですので、就職・転職時には、賞与が高いからと言ってその園を選ぶのは禁物。年収や月給の内訳をしっかりと把握してから、入職するようにしましょう。
5、保育士の平均手取り額
上述のように、保育士の給与内訳は、「基本給+手当+賞与」となっており、これをもとに年収が決定します。しかしながら、これらすべてが現金給料として支給されるわけではありません。
日本国内の就業者には、住民税の支払い、健康保険の加入、厚生年金保険の加入が義務付けられており、また所得税の支払いや、雇用主は雇用者に対して雇用保険の加入が義務づけられています。さらに、保育士という職業上、給食費や会費などが存在し、それらは給与から天引きという形で差し引かれます。
住民税 | 住民税には、都道府県が徴収する都道府県民税と、市町村が徴収する市町村民税があり、これらを合算した金額が給与から差し引かれる。 |
健康保険料 | 会社(保育園)が半額負担し、従業員(保育士)が半額支払い。給与額によって、また就業地によって健康保険料は大きく変動する。 |
厚生年金保険料 | 会社(保育園)が半額負担し、従業員(保育士)が半額支払い。個人加入は任意であるものの、就業している場合は加入義務あり。 |
雇用保険料 | 雇用保険とは、失業時の再就職までの生活を支えるための保険。会社(保育園)が加入義務あり。従業員(保育士)も少額を負担する必要がある。 |
所得税 | 個人の所得に対して加算される税金で、所得額が高いほど税金も高くなる。12月の年末調整で過不足調整される。 |
会費 | 職員会や組合などの参加に必要となる費用。月額1000円程度が一般的。 |
給食費 | 食費(昼食の費用)として徴収される。月額3000円~6000円程度が一般的。 |
いわゆる“手取り”というものは、これら各税金や費用が差し引かれた分の給料のことです。基本的には、基本給や手当、賞与の額が増えると手取り額も増えていきますが、健康保険税や厚生年金保険税、所得税などの税額は改定されることがあるため、月収・年収が増えたのに手取り額が変わらない、または減っているという状態に遭遇することがあります。
また、健康保険税は、市町村によって大きく金額が変わるため、月収や年収が同じでも、手取り額が12万円のところもあれば、15万円のところもあるなど、手取り額に大きな差異がみられます。
それゆえ、就職・転職の際には、募集要項に記載されている月収や年収だけで給料を判断せず、就業地の市町村の税制をしっかり把握した上で、ある程度の金額を算出することが大切です。
なお、平均手取り額は、市町村によって大きく異なりますが、住民税・健康保険・厚生年金保険・所得税などの税金は総支給額の15%~17%が相場で、保育士の場合には会費や給食費などが差し引かれるため、平均手取り額は総支給額の80%が一般的となっています。
保育士の平均給与月額21.6万円(年齢34.8歳、勤続年数7.6年)をもとにすると、平均手取り額は17.2万円。20~24歳の女性保育士の平均給与月額18.5万円をもとにすると、平均手取り額は14.8万円となります。
6、公立(公務員)・私立における給与差
保育園は大きく分けて、「公立」と「私立」があり、自治体が運営する保育園を「公立」、社会福祉法人や企業などの民間団体が運営する保育園を「私立」と区別されています。
公立保育園で働く保育士は、公務員として位置付けられるため、公立保育園に就業するためには公務員試験に合格する必要があります。また、公立保育園の運営費は自治体が賄っているため、私立保育園よりも経営状況は良好であり、これらが影響して公立保育園で働く保育士は、私立保育園で働く保育士と比べて高給与となっています。
保育士全国平均1) | 公務員保育士4)
(東京都練馬区) |
|
平均年収 | 332.5万円 | 630.8万円 |
平均給与月額 | 21.6万円 | 33.1万円 |
平均年間賞与 | 73.3万円
(約3.5か月分) |
153.4万円
(約5か月分) |
平均年齢 | 34.8歳 | 44歳 |
上表は、公立・私立を含む保育士の全国平均と、公立保育園で働く公務員保育士(東京都練馬区)の給与差を示したものです。
公務員保育士は一般的に、1人あたりの就業年数が長いため、平均年齢は44歳と全国平均と比べて約10歳もの差がありますが、40~44歳の保育士の平均年収が449.4万円(うち女性351.8万円、男性547万円)、平均給与月額が29.6万円(うち女性23.4万円、男性35.9万円)、平均年間賞与が93万円(うち女性70.2万円、男性115.8万円)となっていることから、公務員保育士の給与は高水準であるということが分かります。
7、低給与の理由と今後の展望
保育園の財源には、主に国や自治体からの公的な補助金と保育料の2つであり、これらで運営費を賄う仕組みになっています。補助金は保育園がスムーズに行える最低ラインで設定されており、また保育料には「公正価格」と呼ばれる所得などに応じて算定基準が設けられているため、保育園ごとに独自の保育料を設定することができません。
また、一般基準として、園児の人数に対する保育士の人数、いわゆる“配置”が定められており、国または市町村が定める配置人数以下で運営することができません。この配置基準は、運営するための最低ラインであり、質の高い保育を提供するためには1.5~2倍の人員が必要だと言われています。
以前にも増して、保育の質向上に対する声が保護者から多く寄せられているため、多くの保育園では十分な人員を確保しなければいけない風潮が生まれ、このような制度や風潮により、多くの保育園では運営がギリギリの状態にあります。
保育士の給与はこの運営費から支払われるようになっているため、ギリギリの運営状態では保育士に十分な給与を支払うことができず、これが低水準の給与の大きな要因となっているのです。
平成29年度より、2%の給与引き上げの動きがみられていますが、月額およそ6000円しか上昇しません。全職業の平均年収が480万円に対し、保育士の平均年収は332.5万円であり、年およそ7万円上昇したとしても、目を見張るような好影響はありません。
また、この施策は、勤続年数の長いベテラン保育士に対するものであり、新人の保育士に対しては反映されない傾向が強いため、総じて良策とは言い難いのが実情です。
保育士の給与を底上げするためには、給与そのものを引き上げるのではなく、保育料の見直しや運営状態の改善など、多方面からの施策が必要となるため、今後の展望においては、10年先も給与の大きな上昇はみられないと考えておいた方がよいでしょう。
なお、今後の給与の見通しについては、「保育士の給料が上がる!?政府提示の給与引き上げニュースまとめ」で詳しく説明しています。
まとめ
保育士の平均年収は332.5万円、平均給与月額は21.6万円と、全職業の平均を大きく下回っています。平均手取り額においては、およそ17.2万円で、20~24歳の新人保育士(女性)では14.8万円にしかなりません。
今も昔も保育士の給与は低水準ですが、保育士の重要性は年々高まっており、保育士なくして総体的な子供の健全な成長はありえません。そのため、給与と労働のバランスがとれていない現状でも、子供のために、質の高い保育を提供していきましょう。
参考・出典資料
1)平成26年賃金構造基本統計調査 結果の概況 厚生労働省
2)U.S. Department of Labor, Bureau of Labor Statistics. (2011). May 2011 national occupation employment and wage estimates. Washington, DC: Author.
3)保育士等に関する関係資料 保育士等確保対策検討会 厚生労働省 平成27年12月
4)平成26年度 練馬区人事行政の運営等の状況の公表 練馬区総務部職員課
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