自由保育|保育園、幼稚園での自由保育、設定保育との違いとその弊害(2017/03/29)
自由保育という言葉からは、子どもたちがのびのびと活動できる保育をイメージする人と、子どもたちが好き勝手に過ごす、ある意味放任のような保育をイメージする人がいるでしょう。岡本氏(1は、自由保育を
活動の選択は幼児に任せられることを原則とし、幼児の自由な活動の中で、保育者が幼児を保育のねらいに向けて指導する保育形態』であるとした上で、『保育者が指導計画にもとづいて指導する、意図的な教育環境の中での活動の自由であって、まったく無制限に自由が許されるわけではない
と述べています。保育者が管理できる範囲において、子どもが主体となれる保育ということです。自由保育を謳う保育園や幼稚園も多くありますが、どのような保育が行われているのでしょうか。
目次
1、自由保育とは何か
1−1、歴史から見た自由保育
日本初の幼稚園は、明治9年に開設された、フレーベルの教育方針に基づく東京女子師範学校附属幼稚園です。このときの保育者は子どもたちに対して、恩物を使った画一的な指導を行っていたのです。そのため、この頃は保育者が中心の保育、すなわち設定保育(一斉保育)型となっていました。
これが大正時代に入ると、子どもの自由な遊びを尊重する、自由保育型へと移行していったのです。この頃に倉橋惣三が東京女子師範学校附属幼稚園主事となり、形式化したフレーベル主義を批判し、児童中心の保育を提唱しました。こうして従来行われていた恩物中心の指導ではなく、子どもの生活に基づいた保育へと修正されていったのです。倉橋の理論は誘導保育論と呼ばれ、その理念は『幼稚園真諦』(倉橋惣三 著|2008年 フレーベル館発行)などに詳しく記されています。
この倉橋の提唱した自由遊びの尊重・児童中心という思想が、現在の自由保育という理念の根幹となっています。ただし、『放任でない自由がある』(2という言葉のように、決して野放し状態を指すわけはないことに留意しましょう。
1−2、自由保育の実践例~コーナー保育~
様々な活動や経験をするために、「おままごとコーナー」「絵本コーナー」「工作コーナー」など、いくつかの活動コーナーを設けた形をコーナー保育と呼びます。子どもたちは自分のやりたいものを選び、集中して遊ぶことができます。各コーナーに必要なものを用意して保育者が付けば成り立つので、自由保育の手段として比較的取り入れやすいでしょう。ただ、コーナーを区切ってしまうことで「これはこういう遊び方」などの固定観念が植え付けられてしまう可能性もあります。時には枠を超えた遊びを保育者自らが展開してみるのも良いでしょう。
(出典:心悦認定こども園)
2、保育園で行われる自由保育
まず、保育園には厚生労働省が定めた保育所保育指針があるため、これに沿ったカリキュラムを立てる必要があります。また、集団生活の場であるため、最低限のルールは必要となるでしょう。この中で自由保育を行っていくにあたり、重要なポイントは大きく2点に分けられます。
■遊び環境の整備
保育者が「今からみんなでお砂場遊びをします」と指示する設定保育とは異なり、自由保育には子ども自らがやりたい遊びを選択できる環境、つまり知育玩具を使いたい、絵本を読みたい、体を動かしたい等、一人ひとりの欲求に答えてあげられるような環境が必要です。そのためにおもちゃや素材、遊び時間などを十分に確保しておきます。そして危険な行為などを除き、与えられたものをどう使うか、というところにも子どもの意思を反映させてあげましょう。保育者の想像を超えた遊び方をしたら、その発想力と実行力をほめてあげるくらいで構いません。コーナーのないコーナー保育(塩川寿平・京極寿満子 編著|1987年 フレーベル館発行)で述べられている『選択の自由』『方法の自由』『評価の自由』を意識した環境づくりをしてください。
■保育者の働きかけ
環境だけ与えてそのままにしていては、放任保育となってしまいます。自由保育の実践には、保育者の働きかけがとても大切です。まずはいきなり「自由」を与えられ、何をすれば良いかわからなくなってしまっている子どもへの声かけが必要です。もちろん自分で「ぼーっとしていること」を選んだ子であれば、そっと見守るだけで問題ありません。ですが、「遊びたいけれど何をすれば良いかわからない」という状態の子に対しては、声をかけたり興味を持ちそうなものを近くに置いたりして、遊びだせるきっかけを作ってあげてください。
また、遊びの展開を作ってあげることが必要となる場面もあります。遊びがなかなか広がらない時に保育者が別の展開を示すことで、子どもたちの発想力が刺激されていくことがあるのです。誘導とならないように気をつけて、保育者が想定しなかった方向へと遊びが展開しても、温かく見守りましょう。
3、幼稚園で行われる自由保育
保育園と違うのは、幼稚園は文部科学省管轄下の教育施設なので、幼稚園教育要領に基づいて運営されていることです。そのため、自由保育も教育課程の中に含まれる、という考え方になります。幼稚園教育要領(引用:文部科学省)内にある教育課程の編成においては、幼稚園を
『義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとする』とした上で、『第2章に示すねらいが総合的に達成されるよう、教育課程に係る教育期間や幼児の生活経験や発達の過程などを考慮して具体的なねらいと内容を組織しなければならない』
と記されています。そのため保育園より限られた範囲内で行われていることもありますが、自由保育の目的や留意点はほぼ一緒になります。
4、自由保育と設定保育の違い
大きく違うのは、誰が中心となる活動を行うのか、という点です。子どもが中心となる自由保育、保育者が中心となる設定保育、というと分かりやすいでしょう。どちらが良いかという点については、園で配置できる保育者の数や質に大きく左右されます。
設定保育の場合、全員が同じテーマで活動するため、規定通りの保育者数で上手くいきやすいです。また、保育内容を事前に決めた上で準備もしっかりできるため、保育者自身も余裕を持って取り組めるでしょう。
一方で自由保育の場合は、子どもたちの興味の幅に応じた保育者数が望ましいです。保育者が1名しかいなければ、コーナー保育を取り仕切るのも大変でしょうし、外で遊びたい子どもと工作をしたい子どもを同時に見ることはできません。また、遊びが予想外の展開になることもありますし、子どもの様子を見て臨機応変に働きかけをすることが求められます。そのため、保育者に求められるレベルは設定保育より高いともいえます。
十分な環境を整えることができないままに形だけ自由保育を取り入れても、実質放任保育となってしまっては意味がありません。安定した設定保育を展開するのも1つの選択ですし、設定保育と自由保育を上手く組み合わせた融合型を選択しても良いでしょう。それぞれの園に合わせた形態を選択することで、より良い保育が生まれるはずです。
5、自由保育の弊害
自由保育は、環境設定と保育者の働きかけが上手く作用しないと、諸々の弊害を招いてしまうことがあります。メリットもあればデメリットもあるのは仕方のないことですが、どういう問題が起こりやすいのかを知っておくことで、未然に防ぐことができる、あるいは問題を軽くすることができるでしょう。
■子ども同士のトラブルが起こりやすい
子どもたちが自由に活動に取り組み、自由に友だちと関わりを持つ時間が多くなるためです。もちろん、これから社会生活を営んでいくことを考えると、些細なトラブルは子どもの成長につながるため、一概に悪いこととは言えないかもしれません。ですが、相手を傷つけてしまうトラブルや、ケガや事故につながりかねないトラブルは起こしてはいけません。保育者の目配りが重要になってきます。
■小学校入学後の集団生活に適応しづらくなる
小学校は完全に集団生活となり、チャイムの音で着席し、授業中は決められた教科書を出し、静かに話を聞く…ということが求められます。どちらかというと一斉保育の形式に近くなるので、自由保育の保育園を出た子どもはこういったことがなかなか出来ない、という意見があるようです。ただ、保育園にいる間はいつでもどこでも好きなことをして良い、という極端なスタイルを取るのでなければ、自由保育であっても、ある程度ルールに則った行動や、我慢を覚えさせる機会はあるでしょう。ここでも保育者の働きかけが大切になります。
まとめ
「自分で考える」「自分で選ぶ」という経験はとても大切で、大人になってからも役立つ力となります。ここを鍛えることのできる自由保育は、とても魅力的な保育の形です。ただしその分保育者の労力はかかりますし、環境設定も慎重に行わなければいけません。園全体でしっかり下準備をした上で、子どもたちの力を伸ばすことのできる保育を目指してください。
参考文献
(1 保育指導法の歴史と今日的課題/岡本雅子(2015/03/10)
(2 倉橋惣三と現代保育/荒井洌、大豆生田啓友、小田豊、児玉衣子、柴崎正行、高杉展、本田和子、森上史朗/著(2008/12 フレーベル館発行)
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