保育の質の向上|子どもの発達に合わせた質の高い保育を目指して(2017/02/24)
近年、「保育の質を高めましょう」や「保育の質の向上を目指す」といった言葉を見聞きする機会が増えてきたと感じます。その一方で、「そもそも保育の質とはどういうものなのか」という疑問を抱く方も少なくないと思います。そこで、今回は、「保育の質とは何か」を確認したうえで、保育の質を高めていくために、どのような方法があるのかという点に着目しながら説明していきます。
目次
1、「保育の質」と「保育士の質」とは
現状では、「保育の質」とは何かという定義が明確にされているわけではありません。ただし、一般的に「保育の質」と聞くと、「保育士の質」を連想する方が少なくないのではないでしょうか。実際に「保育の質=保育士の質」と捉えて論じている記述も散見できます。一方で、「保育士の質」に関する資料や著書を確認してみると、全国保育協議会1)では、①物的環境の向上、②保育士等の配置基準の改善、③保育内容の向上、④保育士等の資質・専門性の向上の4つを保育の質を支える環境(要件)として挙げています。また、大宮勇雄氏の著書『保育の質を高める―21世紀の保育観・保育条件・専門性』2)では、「保育の質」を①プロセスの質、②条件の質、③労働環境の質の3つの側面から捉えています。
どちらが正解でどちらが間違いというわけではありませんが、単純に「保育の質=保育士の質」と捉えるよりは、広い視野をもって、「保育の質」の中に「保育士の質」も含まれているというように捉えた方が良いといえます。では、「保育の質」にはどのような要素(要件)が含まれているのかを確認しましょう。
「保育士の質」に関する資料や著書を簡単にまとめると、「保育士の質」の要素には、①環境、②人、③内容の3つがあるといえます。環境は、主に保育園の構造や日中を過ごす環境面を指していますが、保育士の視点で捉えると、職場環境(労働環境)の改善という意味合いも含まれていると捉えていいでしょう。「子どもたちが安心かつ安全に過ごせるか」「保育士などの職員が安心かつ意欲的に子どもの保育に取り組めるか」という部分をより良いものにしていくために、この環境を向上・改善させることが望まれます。
人には、職員の配置や保育士の質などが含まれます。保育所職員の配置基準は、「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」(引用元:厚生労働省)で定められています。この基準はあくまで最低限の配置人数を定めたものであり、この基準を満たしていれば、十分な保育が提供できるというものではありません。施設や地域の環境、子どもの人数や特性などに合わせた職員配置が望まれます。そして、保育士の質は、保育士としてのスキル、専門性、人間性などを指します。子どもと直接的にかかわる保育士の質を高める必要があるということは言うまでもないと思います。
内容には、子どもたちに提供するカリキュラムやそのプロセスなどが含まれます。子どもの成長・発達に合わせた適切な教育や指導を行っていくほか、障害の特性に合わせたかかわり、時代に合わせたプログラムの取り入れなどが望まれます。
これら3つの要素は、相互に関連しているものであり、どれか1つの要素が改善・向上すれば「保育の質」が高まるというものでもありません。つまり、環境、人、内容が総合的に向上・改善をしなければ「保育の質」の向上にはつながらないといえます。
2、保育士の質を高める具体的な方法とは
保育の質を高めていくには、環境、人、内容の総合的に改善・向上させていく必要があることは、ご理解頂けたと思います。ここでは、これらの要素のうち人に該当する保育士のスキル、専門性、人間性、つまり保育士の質に着目していきます。保育士の質を高める方法には、研修への参加やスーパービジョン、第三者評価、独学、他の資格の取得などが挙げられます。実際に、保育現場では、職員の研修の機会を確保するように努めていたり、事例検討を含めたスーパービジョンを実施していたりするようです。
2-1、保育の質の向上のための研修事業の活用
保育の質の向上のための研修事業は、保育の質の向上を図るための研修の実施に要する費用の一部を補助することにより、子どもを安心して育てることができる体制整備を行うことを目的としています。同事業は、都道府県や市区町村が実施主体となっていますが、社会福祉協議会や民間団体などに委託して実施することも可能となっています。
保育園を運営する法人や団体は、予算の都合上、独自に講師を招聘して研修を実施したり、外部研修会の費用を負担したりすることが、なかなか難しいというのが現状です。ですから、このような事業を活用して、少しで負担を軽減しながら、保育士などの資質や専門性の向上を図っていくと良いでしょう。
保育の質の向上のための研修事業の実施・対象となる主な研修
都道府県 | 市町村 |
・乳児保育、障害、虐待等の専門性をもった保育士に係る研修
・指導者育成のための研修 ・都道府県が適当と認める団体が実施する研修 |
・保育所が独自に外部研修に参加する形で実施される研修
・保育士初任者や中堅保育士が参加して、保育の基礎知識などを受講するフォローアップ研修 ・市町村が適当と認める団体が実施する研修 |
(出典)「全国児童福祉主管課長会議(別冊資料)」(平成27年3月17日,雇用均等・児童家庭局)をもとに作成
2-2、スーパービジョンの定期的な実施
スーパービジョンとは、経験豊富な職員などが指導者(スーパーバイザー)として、経験の浅い職員(スーパーバイジー)に対して、助言、指導、管理などをすることによって、資質や専門性の向上を図る教育方法です。このスーパービジョンは、教育的機能、管理的機能、支持的機能という機能を有しており、場面や内容に応じて、スーパーバイザーがその機能を上手く使い分けていくことが望まれます。
また、スーパービジョンには、個別スーパービジョングループスーパービジョンなどの種類があるので、取り上げる内容などに応じて柔軟に対応していくと良いでしょう。
なお、スーパービジョンには、職業倫理の違反といった問題の予防や早期発見にも有効ですので、この観点からも定期的かつ継続的に実施することが望ましいといえます。
3、保育の質と子どもの発達の関係
保育の質の向上を図るうえで、子どもの発達を踏まえることは欠かせない要素です。特に保育園に通う子どもは、0歳から6歳と年齢の幅が広く、その年齢に応じた日常生活動作、言語、運動などを学び、そして獲得していくことが求められています。厚生労働省の『保育所保育指針』3)においても、0歳から6歳までの発達過程を8つに分類して、発達の内容について明記していることからも、発達に合わせた保育の提供が重要であることが確認できます。
実際には発達には、個人差があるだけでなく、障害や疾病の有無によっても、発達の程度や速度が大きく異なります。ですから、子どもの発達を年齢で画一的に捉えるのではなく、子どもの年齢に合わせた適切な教育や指導を行っていくことを基本としつつ、その子どもの個性や特徴に合わせた柔軟な対応、障害の特性に合わせたかかわり、時代背景や地域性などに合わせたプログラムづくりなども行っていくことが望まれ、ひいては、この行動が、保育の質の向上につながります。
現在もしくは今後、保育士として子どもたちへの保育を提供する際には、このような発達という側面からも子どもたち一人ひとりを捉えて、教育や指導をしていただきたいと切に願います。
まとめ
「保育の質」について、「保育士の質の向上」を中心に説明しましたが、いかがだったでしょうか。保育士個人で、保育の質を向上させていくことは難しいですが、日頃から保育の質というものを考え、より良い保育を提供するという視点で、日々の業務に取り組んでいただきたいと思います。
参考文献
1)『保育の質に関する 全保協の意見』社会福祉法人 全国社会福祉協議会 全国保育協議会
2)『保育の質を高める―21世紀の保育観・保育条件・専門性』大宮勇雄 ひとなる書房
3)『保育所保育指針解説書』(平成20年4月)厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課
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