男性保育士|気になる年収、現状の問題点と人数、割合、年齢、需要(2017/03/28)
男女雇用機会均等法に伴い、保育園でも男性保育士を目にする機会も多くなってきています。しかし就職をするにも仕事を継続していく上でも男性保育士は女性の保育士よりも、壁にぶつかる事が多いようです。今回はそんな男性保育士に注目しつつ需要や気になる年収、男性保育士ならではの悩み等についてお伝えしていきたいと思います。
目次
1、男女雇用機会均等法と保育士
今ではすっかり社会に馴染みつつある「保育士」という名称ですが、1999年以前は「保母」というのが正式名称でした。この名が表す通り、保育の仕事は「女性の仕事」として位置づけられていたのです。その後、1985年の「男女雇用機会均等法」や1999年制定の「男女共同参画社会基本法」によって、男性も保育業界に少しずつ進出してきます。男性に対し「保母さん」と呼ぶのは抵抗があるという世間の流れを受け、男性を「保父」と呼ぶようになりました。1999年「男女雇用機会均等法」の大幅な改正を受け、児童福祉法も改正となりました。ここで女性・男性を区別する事ないよう統一した名称である「保育士」と呼ばれるようになったのです。
2、男性が保育士になる上でぶつかる壁と求められる人材
保育士を目指したからには子どもが好きという気持ちは男性でも女性でも共通している事でしょう。ただし、保育士という仕事はまだまだ女性が多い職場です。子どもが好きという気持ちだけではどうしようも出来ない事も多く存在している事でしょう。まずは男性保育士の現状をお伝えしていきたいと思います。
2-1、実際のところ男性保育士の需要はあるのか
男性保育士の最初の壁は就職活動です。男女雇用機会均等法により、求人票には企業が希望する性別は記入されていません。しかし実際にその求人を見て連絡をしてみると「出来れば女性が良い」、「うちはすでに男性保育士がいるから」等と断られてしまう事もあります。もちろん就職試験を受ける権利がない訳ではないのですが、そういったケースだと男性保育士は圧倒的不利になってしまいます。
だからと言って全く需要がない訳ではありません。保育園によっては男性保育士を積極的に受け入れているところもありますが、すでに数名雇っていれば女性を求められるケースも多いですし、未だに男性保育士の受け入れに抵抗を示す保育園も存在しています。
これらの理由から、需要がない訳ではないけれど、男性は女性と比較すると就職先の選択肢は狭いと考えた方が良いかも知れません。
2-2、男性保育士は増えている?人数と保育士全体から見た男性の割合について
平成22年時点では就業者数は47万4,900人、その中で男性保育士は1万3,160人となっています。ちなみに平成12年の調査時には就業者数36万1,488人のうち、男性保育士は4,666人でした。全体に占める割合も1.3%から2.8%に上昇しています。(引用元:奈良佐保短期大学(男性保育士率と比率))
調査開始の昭和60年から現在に至るまで男性保育士は右肩上がりに増え続けています。かつては女性の仕事として認識されていた保育士という仕事ですが、男女の機会均等が進んできた事により、少しずつ男性保育士が増えているようです。
2-3、男性保育士の気になる年収は
保育士の年収は男女平均で323万円ほどです。男性保育士は322万円、女性保育士は396万円と差がついているのですが、55歳~59歳で年収は逆転して男性保育士の方が多くなっています。この背景には結婚、出産を経て現場から遠ざかってしまう女性に対し、男性は自ら退職をしない限りは継続して就労が可能です。そのため、主任や園長といった役職に就くケースも多い事から年収増につながっている事が予想されます。
(引用元:Career Garden保育士の仕事「27年度保育士の年収」)
ただこの結果をご覧になってもわかる通り、この年収は決して贅沢が出来る十分な収入ではありません。男性であれば将来的に結婚し、妻や子どもを養う立場になる事も多いのですが、その場合だと男性にとって満足できる年収ではないかも知れません。経験年数とともに年収が著しく増加する事もほとんどありませんので、男性が保育士として働く上で大きな課題の一つです。
2-4、男性保育士の平均年齢は
男性保育士の平均年齢が31.4歳に対し、女性は35.1歳となっています。また、勤続年数も男性6.3年、女性7.7年と女性の方が長く勤めているようです。この結果からもわかる通り、先述したように男性は結婚を機にライフスタイルも大きく変わります。それまで自分ひとりが生活できるだけの収入を得られていればよかったのが、養わなくてはいけない家族が増える事で、低収入に加え、収入の増加が期待できない保育士から転職してしまうケースが多いのではないかと考えられます。離職理由において「給与・賞与等の改善」が全体の6割と圧倒的に高い結果となっている事から、男性保育士の平均年齢の年齢が低いのは収入面が大きな理由になっている事は間違いなさそうです。(引用元:厚生労働省「保育士等における関係資料」)
3、男性保育士の悩み、辞めたいと思う時は
女性が多い職場に勤めた事で悩んでしまう男性保育士は多いようです。一体どんな時に悩み、どんな時に辞めたいと思うのかいくつかご紹介したいと思います。
3-1、トイレや更衣室がない
男性保育士を採用した事がない保育園に勤める事になった場合、まずぶつかる問題がトイレと更衣室です。新しい園でなければ男子更衣室というものも男子トイレというものもそもそもありません。物置になっている部屋で着替えを済ませたり、トイレも子ども用の便座が並ぶ中にあるものを使用したり等、男性ならではの苦労を強いられているケースも珍しくはありません。
3-2、良くも悪くも注目される
女性が多い保育の現場では男性保育士は常に注目の的です。男性保育士が1人、もしくは2人と少数の場合は特に子ども達からは大変人気があります。しかし保護者からは好奇の目で見られていると感じる事も多いかも知れません。珍しい存在のあまり女性保育士よりも厳しい目で査定される事もありますので、保護者と信頼関係を築く上でも最初は苦労する事になるかも知れません。
3-3、複雑な人間関係に巻き込まれる
女性が多い職場ならではトラブルが人間関係の複雑さではないでしょうか。主任派、園長派等の派閥がある場合だと「あなたはどっちの味方なの?」と詰め寄られる事もあるかも知れません。また、男性であるばかりに同僚保育士と食事や買い物に出かけたりすると、あらぬ噂が流され、それが保護者にまで届き悪い印象を持たれてしまう事もあるかも知れません。保護者の噂はあっという間に広がり、働きづらい環境になってしまう事も考えられます。
4、問題となりつつある男性保育士による事件と現状
保育業界に増え続ける男性保育士ですが、受け入れに消極的な保育園の理由として男性保育士による様々な事件が影響している事が考えられます。
男性でなくても保育士が事件を起こしているケースはあるのですが、先述したように男性保育士はまだまだ特殊な存在です。そのため保育園やベビーシッターサービス等で男性保育士が何らかの事件を起こした際にはテレビや新聞等のメディアが大々的に取り上げる事が多くあり、それを見た視聴者は「男性保育士は危ない」というイメージが定着してしまいます。ごく一部の男性保育士が事件を起こす事で、まじめに働いている男性保育士までもがその悪いイメージで見られてしまうのです。実際の現場でも「男性保育士」の保育に対し、保護者から保育園側に要望があげられています。
4-1、「男性保育士におむつ替えや着替えをさせないで欲しい」
男性保育士のイメージの悪さは現場にも影響しています。保護者から「男性保育士に女の子のおむつ替えや着替えをさせないでほしい」、「男性保育士はうちの子を抱っこしないで欲しい」と言った要望が少なからずあるのです。しかし保育園には女の子だけではなく男の子もいます。「女性保育士に男の子の着替えをさせないで欲しい」と言った要望は聞いた事がありません。こうした理由からこの考え方自体が「性差別」なのではないかとテレビ等でも取り上げられ、大きな反響を呼びました。
まとめ
収入面や待遇等に大きな課題を抱え、決して働きやすい環境ではない男性保育士ですが、子どもにとっては女性と男性がいる事で遊びの幅も広がりますし、「子どものお世話は女性がやるもの」と言った考えは撤廃され、将来その子が親となった時にも育児に抵抗なく参加できるというメリットもあります。男性・女性区別する事なく、保育士という職種がプロとして社会的に認められる日が来る事を期待したいと思います。
参考文献
奈良佐保短期大学(男性保育士率と比率)(奈良佐保短期大学|2000年時点)
内閣府男女共同参画局(男女共同参画白書 平成26年版)
厚生労働省「保育士等における関係資料」(保育士等確保対策検討会|2016年12月4日)
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