モンテッソーリ教育|メゾットと思想、保育園・幼稚園での教具の活用(2017/04/11)
モンテッソーリはイタリア初の女性医学博士で、ローマのスラム街に『子どもの家』を設立したことで有名です。彼女は感覚教育を重視し、体系的な教具を開発しました。これらはモンテッソーリ教具と呼ばれ、現在でもあちこちで販売されています。モンテッソーリ教育というと勉強のイメージが強いですが、単に幼児期に勉強を教える、というものではありません。正しいモンテッソーリ教育を知り、日々の保育に活かしてください。
目次
1、モンテッソーリ教育とはどういうものか
モンテッソーリ教育の目的は
自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学びつづける姿勢を持った人間に育てる
(日本モンテッソーリ教育綜合研究所)ということです。子どもが自発性・独立性を獲得するために、大人が援助していくのです。
1−1、モンテッソーリメソッドと根底にある思想
モンテッソーリ教育は5分野に大別することができ、それぞれに特徴があります。
■日常生活の練習
モンテッソーリ教育の基礎となる部分です。子どものサイズにあった用具を使い、ものの片付けや切る動作など、生活していく上で必要な動きを学んでいきます。あいさつやマナー、身だしなみなども教育内容に含まれています。これらは大人の手を借りるのではなく、「自分のことは自分でやる」という自立の第一歩となります。
■感覚教育
五感が著しく発達する幼児期に、抽象的な概念を獲得させ、考える力を身につけるための教育です。対にする、段階づける、仲間分けする、という3つの操作方法が基本となります。視覚を活用してブロックの大きさを比較したり、聴覚を活かして音の高低を識別したりと、周りの情報を吸収しながら自分の中で情報整理をしていきます。
■言語教育
社会の中で他者と関わり合いながら暮らしていくためには言語がとても重要である、という考えに基づいた教育です。発達段階に合わせて、絵カードや文字カードなどの教具を使います。読み書きを中心に語彙を豊かにしていくことから始まり、最終的には文法や文章構成まで学びます。
■算数教育
始めは算数棒やビーズなどの具体的なものを使い、数を体感させます。ここで1から10までの数を知り、十進法の理解や足し算の理解につなげます。こうした教具を使って学ぶ中で、抽象的・論理的な力を身につけていきます。目的は「計算が出来るようになること」ではなく、「数の概念や論理的に考える力を身につけること」です。
■文化教育
子どもの身の回りにある動植物や天気、時間、生命などが文化教育の分野に含まれます。地理や理科などを体系的に学ぶのではありません。日本地図パズルや植物パスルなどを使って興味を引き出しながら、観察や活動を通して文化を自ら獲得していきます。
2、保育園におけるモンテッソーリ教育
モンテッソーリ教育においては、保育者は「指導する」ではなく「援助する」という役割になります。また、教具を使った子どもたちの活動は「おしごと」と呼ばれます。
「教育」という語が付いているからといって、一斉指導で全員が同じおしごとをする必要はありません。様々な教具の中から自分の興味・関心に沿っておしごとを選ぶことで、よりモンテッソーリ教育の効果が引き出せるでしょう。また、教具を使うだけでなく、自分の給食セットを準備したり片付けたりする、自分で着替えをする、というように「自分でやる」こととその大切さを生活の中で伝えていくのも教育の一環となります。
3、幼稚園におけるモンテッソーリ教育
幼稚園は文部科学省管轄の教育機関です。そのため、どの園にも多かれ少なかれ教育的要素が含まれているはずですが、「モンテッソーリ教育」を教育方針として掲げている幼稚園も多くあります。そうした園は1日の流れの中にモンテッソーリ活動を組み込み、年少(3歳児)から年長(5歳児)までそれぞれの発達に合わせた活動を行っています。また、年少から年長まで混合の縦割りクラスを取り入れている園もあります。
4、モンテッソーリ教育を実践するために〜教具や教材、おもちゃ、本の紹介〜
4−1、5分野で用いられる教具・教材
■日常生活の練習
日常生活がテーマとなるため、シールの貼り合わせやひも通し、あけわたしなどができる教具を使います。大切なのは子どものサイズに合っていること、色彩や形が魅力的で子どもが手を出したくなること、そして本物であることです。例えば壊れにくいプラスチックのコップやお皿ばかりを使うのではなく、落とせば割れる陶器やガラスの食器を使い、本物の美しさや大切に扱うことも学んでいきます。
教具例(着衣枠)
出典:こどもの家
■感覚教育
モンテッソーリ教育の中でも重要視されている分野です。物の大小や高低、重さなどを自分の感覚で学ぶために、円柱さしやはかり、色板などの教具が使われます。初めて取り組む子どもにとっては使い方が難しいものもあるかもしれませんが、保育者が使い方を教えていくのではなく、子ども自らが正しい使い方に気づいていける教具であることも大切です。
教具例1 ピンクタワー
教具例2 はかり
出典:ショップ学研
■言語教育
日常生活の練習、感覚教育を基礎とした、言葉遊びやゲームなどを用いた教育が行われます。その際に使われるのが運筆練習となる彫文字やメタルインセッツ、文法を学ぶシンボルマークなどの教具です。読む、書く、話すだけでなく、文法も楽しく学ぶことができるような工夫がされています。
・教具例1 彫文字
出典:こどもの家
・教具例2 文法のシンボルマーク
出典:ショップ学研
■算数教育
数量と数詞、数字を概念として身につけるために、具体的な教具から抽象的な教具へと展開していきます。算数棒や数字練習帳の他、視覚と重さで数を理解できる金ビーズ、遊びながら数と量の関係を理解していくりんごゲームなどの教具が用いられます。
・教具例 つむ棒箱
出典:こどもの家
■文化教育
地理や歴史、音楽や芸術など多岐にわたる能力を育むため、様々な教具が用いられます。日本地図パズルや地球儀、動植物の絵カードなどを使い、子どもが興味を持った分野のものから取り組みます。決まったカリキュラムや系統だった学習順序などは特にありません。
・教具例 日本地図パズル
出典:ショップ学研
4−2、その他のおもちゃ・関連本
5分野に直結する教具とは少し異なりますが、つまんだり引っ張ったりと指先を動かすことができるおもちゃや、並べられるおもちゃなどもモンテッソーリ教育に役立つでしょう。ティッシュなどを引き出すおもちゃや、ポットン落とし、色ごとに並べたり大きさを比較したりできるブロックなどが活用できます。色やサイズをよく確認し、子どもが興味を持って取り組める、使いやすいサイズのものを用意してあげてください。
ただ、保育者に知識がない中でモンテッソーリ教育を行うのは大変難しいです。日本モンテッソーリ教育綜合研究所で行っているモンテッソーリ教育 教師養成通信教育講座を受ける、モンテッソーリ教育の解説書を読むなど、援助者としてのスキルを高める努力をすることで、より充実したモンテッソーリ教育を行うことができるでしょう。
5、モンテッソーリ教育に対する批判
特徴的な教育方法なので、モンテッソーリ教育に対する批判の声もあります。ですが、「集中して取り組むものなので、やんちゃな子には向かない」「個人での活動が多いので、集団行動ができなくなる」というのは誤った捉え方がされてしまった意見でしょう。
まず、子どもの興味・関心を原動力としているので、やんちゃな子どもであっても自分の好きなことにはしっかり取り組むことができます。もちろん個人差はあるでしょうが、成長していくにつれて落ち着きが見られた、という意見も多くあるようです。また、自発的な活動=身勝手な活動ではないため、個人活動が多いから集団行動ができないというのは一概には言えません。さらに1人での活動だけでなく数人で行う活動もありますし、限られた教具を順番に使うこと、縦割り保育の中で異年齢との交流を持つことによって、他者と関わる力をつけていくこともできます。
ただ「モンテッソーリ教育」と名のついた園であっても、資格保有者がおらず、本来の目的を果たせないようなカリキュラムになってしまっている場合もあります。この教育方法は、教具を用意すれば成り立つものではありません。モンテッソーリ教育を謳うからには、保育者もしっかりと学んだ上で、効果的なカリキュラムを組み立てる必要があることを忘れてはいけません。
まとめ
目覚ましい発達を遂げる時期である幼児期に、子どもの能力を効果的に引き上げる刺激を与えるのがモンテッソーリ教育です。この時期に5分野の能力を身につけておけば、その後の生活においても良い効果を及ぼすでしょう。まだ研究半ばの教育方法ではありますが、カリキュラムをしっかり学んだ上で、園全体で取り組んでみるのも良いのではないでしょうか。
参考文献
モンテッソーリ教育学における幼児の学習|中田尚美(2010)
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