【2024年最新】ネフローゼ症候群の看護|原因と症状・治療の看護計画・観察項目(2017/06/06)
ネフローゼ症候群とは、高度なタンパク尿と浮腫がみられる状態です。臨床症状から付けられた名称であり、病名ではありません。ネフローゼ症候群の病態と、求められる看護について考えます。
目次
1、ネフローゼ症候群とは
ネフローゼ症候群とは、腎臓の糸球体で本来ろ過されるべき蛋白質が、尿中に漏れることによって低蛋白血症をきたし、浮腫を合併する症状の総称です。下の基準を満たすことで、ネフローゼ症候群という診断になります。
■成人ネフローゼ症候群の診断基準
➀タンパク尿:3.5g/dlが持続する
(随時尿において尿蛋白/尿クレアチニン比が3.5 g/gCr 以上の場合もこれに準ずる)。 ②低アルブミン血症:血清アルブミン値3.0g/dl (血清総蛋白しか測定されていない場合には血清総蛋白6.0 g/日以下でもよい) ③浮腫 ④脂質異常症(高LDLコレステロール血症) 注1)➀②の両条件を認めること 注2)③は必須条件ではないが、重要な所見である 注3)④は必須条件ではない 注4)卵円形脂肪体は本症候群の診断の参考となる |
(平成22年度厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害に関する調査研究班)
2、ネフローゼ症候群の原因
ネフローゼ症候群は、本来腎臓の糸球体でろ過されるはずの蛋白が出てくる、タンパク尿が特徴です。他の症状は、タンパク尿から不随してきた症状とも言えます。そして、蛋白が漏れ出て来てしまう理由は、大きく2つに分けることができます。1つは糸球体そのものの病気で、これを「一次性糸球体疾患」もしくは「一次性ネフローゼ症候群」といいます。もう1つは、別の病気(全身の病気)によって腎障害が出てしまった場合で、こちらを「二次性糸球体疾患」もしくは「二次性ネフローゼ症候群」と言います。ネフローゼ症候群は年齢を問わず一次性が多く、子どもで90%以上、大人で70~80%といわれています。
2-1、ネフローゼ症候群をきたす疾患
■一次性糸球体疾患:腎臓そのものの疾患
1.微小糸球体病変
2.巣状分節性糸球体硬化症
3.慢性糸球体腎炎
(1)膜性糸球体腎炎(膜性腎症)
(2)増殖性糸球体腎炎
1)メサンギウム増殖性糸球体腎炎
IgA 腎症(WHO分類では二次性、日本では一次性に分類されている)
2)管内増殖性糸球体腎炎
3)膜性増殖性糸球体腎炎
4)管外増殖性糸球体腎炎(半月体形成性糸球体腎炎)
(3)硬化性糸球体腎炎
4.分類不能の糸球体腎炎
■二次性糸球体疾患:別の病気(全身性)による腎障害
1.全身性疾患に伴うもの
(1)ループス腎炎
(2)Schonlein-Hwnoch(シェーンライン ヘノッホ)紫斑病性腎炎
2.代謝性疾患に関連するもの
(1)糖尿病性腎症
(2)アミロイドーシス
(3) fibrillary glomerulonephritis
(4)クリオグロブリン血症
(5)dense deposit 病(膜性増殖性糸球体腎炎II 型)
3.遺伝疾患
(1)Alport 症候群
(2)菲薄基底膜症候群
これらの疾患は、ネフローゼ症候群をきたす疾患の中のごく一部です。原因疾患として一番多いのは慢性糸球体腎炎です。
3、ネフローゼ症候群の症状
ネフローゼ症候群は、タンパク尿と低アルブミン血症が起こります。ですから、症状として現れるのは、タンパクの喪失に起因するものになります。タンパク尿の程度と浮腫の程度は一致しませんが、体重が5kg以上増加する全身浮腫を起こすと、腹水や胸水・肺水腫を呈するようになります。(ここまで浮腫がひどくなると、一時的に人工透析で水分を取り除く必要があります。)
■ネフローゼの症状
・食欲不振
・倦怠感 ・泡沫尿(高濃度のタンパクに起因) ・全身浮腫(特に下肢) ・呼吸困難(胸水または喉頭浮腫) ・関節痛(関節水腫) ・腹痛(腹水または小児においては腸間膜浮腫) ・脂質異常症 ・凝固線溶系異常(それに伴う血栓症) ・免疫異常症(それに伴う感染症) |
4、ネフローゼ症候群の治療法
ネフローゼ症候群の治療は、原因となる疾患の治療でもあります。ですから、治療はさまざまです。たとえば、糖尿病からくるものなら血糖コントロールは欠かせません。腎臓の糸球体そのものの病気である一次性ネフローゼ症候群の治療は、①安静②食事療法③薬物療法になります。
■安静療法
ネフローゼ症候群の治療の基本は安静療法です。症状の程度によりますが、腎機能が著しく低下し、浮腫が顕著な場合、基本的にはベッド上安静になります。ネフローゼ症候群でベッド上安静が指示されるのはなぜなのでしょうか?
それは腎血流量を保持するためです。運動をすると、ほかの臓器等に血流が分散しますので、腎臓への血流量は減少します。ネフローゼ症候群はなぜ安静が必要なのか?それは腎血流量を確保して、腎臓を保護して、浮腫が軽減するからなのです。
ただ、ネフローゼ症候群なら絶対に安静にしなければいけないというわけではありません。浮腫がある程度軽減してくれば、安静を保つ必要はなくなり、激しい運動をしなければ、日常生活を送ることができるケースもあります。
近年は安静や運動制限がネフローゼ症候群に効果的であるというエビデンスがないため、ネフローゼ症候群なら一律で安静ということは行われなくなっています。
また、深部静脈血栓のリスクもありますので、過度の安静は推奨されていません。
■食事療法
ネフローゼ症候群の食事指導は塩分制限です。塩分制限をすることで、浮腫を軽減することができます。また、腎臓を保護するために、カリウムを制限することもあります。
日本腎臓学会の「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」1)によると、慢性腎臓病では1日3グラム以上6グラム未満の塩分摂取量が推奨されています。
また、以前はタンパク質の摂取制限も行われていました。
日本腎臓学会の「腎疾患患者の生活指導・食事療法ガイドライン」2)では、次のように推奨されています。
・微小変化型ネフローゼ症候群患者では 1.0~1.1 g/kg ・微小変化型ネフローゼ症候群以外のネフローゼ症候群患者では0.8 g/kg |
ただ、エビデンスがないため、過度のタンパク質制限は行われていません。
■薬物療法
ネフローゼ症候群では主にステロイドと免疫抑制剤が使用されます。
また、浮腫の軽減に対しては利尿薬、高LDLコレステロール血症に対してはスタチンなどの高脂血症治療薬を用います。
ステロイド療法や免疫抑制剤の投与でも状態改善のない難治性ネフローゼ症候群の場合、血漿交換療法や血液浄化療法を行うことがあります。
5、ネフローゼ症候群の看護過程の展開
5-1、アセスメント
タンパク尿を起こす原因となる糸球体疾患への治療には、ステロイドや免疫抑制剤を使用するため感染対策が必要です。また、全身浮腫を起こすことから浮腫に対する症状緩和も看護師に求められます。ネフローゼ症候群は寛解と再発を繰り返すため、退院後の生活も自己管理する必要があります。疾患・治療に対する指導も、入院中の看護に取り入れたい内容です。これらをふまえると、下記の看護問題が考えられます。
#1低アルブミン血症による浮腫が出現し、倦怠感・違和感がある
#2低アルブミン血症、ステロイド・免疫抑制剤の使用によって易感染状態にある #3ステロイド療法による副作用が出現する可能性がある #4安静・食事制限・治療の長期化による、精神的ストレス #5今後の治療に対する不安 #6浮腫・低アルブミン血症による皮膚損傷を起こす可能性がある |
原因疾患によってステロイドの使用量や安静・食事制限の程度も異なりますが、ネフローゼ症候群の患者の治療で最も重要な#2について計画していきます。
5-2、看護計画
■看護問題
#2低アルブミン血症、ステロイド・免疫抑制剤の使用によって易感染状態にある
■看護目標
感染を避け、退院まで感染徴候(発熱・WBC上昇・CRP上昇)なく過ごすことができる
OP(観察項目)
1.バイタルサイン(特に体温・呼吸数)
2.皮膚の状態(発赤・腫脹・創傷の有無) 3.浮腫の程度(下肢・上肢・顔面・眼瞼など) 5.採血データ(WBC・CRPの上昇、TPの低下) 6.尿中蛋白、尿中白血球・尿量 7.画像データ(胸部レントゲン・胸部CT) 8.倦怠感の有無・程度 9.食事摂取量 10.体重の増減 |
TP(ケア項目)
1.食前に手洗いと含嗽をする
2.食後に口腔内の保清・含嗽する 3.確実に内服したか確認する 4.同室者・面会者に感染症の可能性がある場合、隔離・保護する 5.爪が長い場合は切る 7.皮膚に創傷がある場合、医師へ報告し指示通りの処置を行う 8.下肢を挙上する 9.利尿剤投与時など、必要に応じてトイレ介助・ポータブルトイレを設置する 10.医師の指示により、膀胱留置カテーテルを挿入・管理する |
EP(指導・教育項目)
1.感染予防の必要性を説明する
2.食事毎の口腔内の保清と含嗽を声掛け・指導する 3.安静の必要性を説明する 4.食事療法の必要性を説明する |
6、ネフローゼ症候群の観察項目・看護のポイント
■浮腫や症状の程度
ネフローゼ症候群は症状の程度を観察していきましょう。
肉眼的に観察できる浮腫だけでなく、肺水腫・胸水による呼吸困難、関節水腫による関節痛、腹水による体重増加、腸管浮腫による下痢、その他の症状が現れますので、全身状態をしっかり観察してください。
■精神的なストレスの程度
ネフローゼ症候群は浮腫が顕著な時には安静が必要になります。
また、食事療法で塩分制限も行わなければいけません。
さらにネフローゼ症候群になったことで、今後の生活に関する不安も抱えています。
しかも、ネフローゼ症候群の治療は効果が出るまでに2週間程度はかかることがあります。
そのため、患者さんや家族は大きなストレス・不安を抱えています。
看護師は患者さんや家族の精神的なストレスの程度を観察し、寄り添った受容的な態度で接し、精神的なケアを行うようにしてください。
■薬物療法の副作用
ネフローゼ症候群はステロイドと免疫抑制剤が使用されますが、どちらも副作用がある薬剤です。
・易感染状態
・消化性潰瘍
・高血糖
・満月用顔貌
・痤瘡様発疹
・高血圧
・多毛
これらの副作用が起こるリスクがありますので、看護師は副作用が出現していないかを観察し、早期に気づくことができるようにしてください。
■食事療法を守っているか
ネフローゼ症候群では塩分制限が行われます。水分制限が行われることもあります。
看護師はしっかりネフローゼ症候群の食事指導をするとともに、指導した食事療法がきちんと守られているかを観察しましょう。
■感染徴候の有無
感染徴候の有無も確認してください。
看護計画にも挙げていますが、ネフローゼ症候群の治療中は易感染状態になっていますので、感染予防が大切になります。
まとめ
ネフローゼ症候群は、低アルブミン血症によって起こるそれぞれの症状に対するケア、治療によって易感染性に対する感染予防が、入院中の看護の要となります。また、患者への教育的な関わりも多いのが、ネフローゼ症候群の患者への関わりの特徴です。
参考文献
ネフローゼ症候群診療指針 <完全版>(厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班|難治性ネフローゼ症候群分科会|2012)
一次性ネフローゼ症候群(指定難病222)(難病情報センター|2015/08/17)
ネフローゼ症候群の原因(MSDマニュアル プロフェッショナル版)
兵庫県神戸市出身。兵庫県内の一般病院(泌尿器科)で5年勤務の後、キャリアアップのために同県内の大学病院へ転職。泌尿器科で2年、透析科で3年勤務し、出産を機に離職。現在は3児のママとして、専業主婦をしながら空いた時間にライター業務を行っている。
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