素話と保育|ねらいと保育士試験や実習での素話(2017/03/16)
子どもの想像力を豊かにするなどの理由から保育の現場で素話を行うこともあるかと思います。素話は、保育士試験の実技試験にも組み込まれ、保育を行う上で必要な要素だと見なされているにも関わらず、保育の現場ではなかなか素話に時間を割くことが出来ないとされています。素話の概要から、保育における素話のねらいなどについてもまとめていくので、今一度振り返る際に活用してみてください。
1、保育の現場で扱う素話とは
意外かもしれませんが、素話の起源は落語にあります。落語には、「道具入芝居噺」というジャンルがあり書割(大道具)や小道具、衣装を用いて演じるものがありますが、それとは反対に、通常の着物に手ぬぐいのみで演じる基本的なスタイルの事を「素噺」と呼びます。それを保育の場に落とし込んだものが「素話」であり、保育の場ではどのようなものを指すかというと、語り手は本を読み聞かせるのではなくて、物語をいったん自分のものとしてから、自分の言葉で子どもたちに語り聞かせることを「素話」と言います。保育で扱う素話は、童話や昔話などが一般的ですが決まったスタイルがあるわけではないので、保育園に置いてある絵本だったり、子どもたちが知っているストーリーのものを取り上げることもあります。
2、保育士試験で行う素話について
保育士試験の実技試験には、課題曲を弾き歌いする音楽表現に関する技術と、保育の一場面を絵画で表現するという造形表現に関する技術と、課題の話の中から一つ選び3歳児クラスの子どもに「3分間のお話」をする想定で子どもが集中して聴けるような話を行う言語表現に関する技術の3つがありその中から二つを選択して実技試験を行います。
ちなみに平成28年度の課題は、「うさぎとかめ」「おむすびころりん」「3びきのこぶた」「にんじん、ごぼう、だいこん」でした。子どもが20人ほど自分の前にいることを想定して絵本を使わずに素話をし、保育士として必要な声の出し方が出来るか、表現の技術や幼児に対する話し方が出来ているかなどを採点されます。
2-1、保育士の実技試験対策本の紹介
保育士試験の実技試験合格率は厚生労働省の資料によると、近年では9割近くが合格という数字が出ています。年々この実技合格率は上がっているのですが、その背景には保育士不足という現代の事情もあるのかもしれません。9割の受検者が合格するということは、プロフェッショナルな抜きん出た技術を要求するわけではなく、出題の意図を正しく理解出来ているかどうかというところに焦点が当てられているのではないでしょうか。
絵画以外は事前に課題が発表されているので、対策を練ることが可能です。下記のような実技試験の対策本も出版されているので必要な方は参考にしてみて下さい。
出典:保育士実技試験完全攻略 ’17年版(成美堂出版 2017/3/2)
3、素話を保育で行うねらい
保育所保育指針の総則の保育の原理の中で、「子どもが現在を最もよく生き、望ましい未来をつくり出す力の基礎を培うことが保育の目標である」とした上で、「生活の中で、言葉への興味や関心を育て、喜んで話したり、聞いたりする態度や豊かな言葉を養うこと」を目標の一つに掲げています。
幼少期に豊かな言葉を養うことの大切さは幼稚園教育要領の中でも「幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものである」と書かれています。5領域「言葉」の中でも「経験したことや考えたことなどを自分なりの言葉で表現し、相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て、言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養う」と記されています。更に「幼児が自分の思いを言葉で伝えるとともに、教師や他の幼児の話を興味をもって注意して聞くことを通して、次第に話を理解するようになっていき、言葉による伝え合いができるよう にすること」と示され日常生活の中で伝え合う喜びを味わわせ言葉の感覚を豊かにすることが求められています。
これらのことから、幼少期に言葉の表現力を培うことの大切さが分かりますが、絵本は豊見城村立上田幼稚園教諭の論文幼児一人一人の豊かな表現力を育てるための援助の工夫の中で、物語や夢の世界を間接体験し想像力、創造性、やさしさ、思いやりなど豊かな心が育ち、そのことが表現意欲をかきたてるとしています。
更に、埼玉純真短期大学の教職員ブログによると、読み聞かせと素話の違いはいくつかあり、語り手と聞き手の間に本がない為、素話は聞き手の反応がすぐに分かります。聞き手の反応によって読み手の話し方も変わってくるのであらすじは同じでも内容が微妙に変化していくのも特徴です。語り手によって言葉の選び方など個性が出てきますし、語り手は話の内容を想像しながら話し聞き手もそれぞれ頭の中で想像しながら聞くので語り手と聞き手の連帯感が生まれるのも素話の魅力の一つとなっています。
実際に常磐会短期大学の保育現場における「素話」の活用に関する実証的研究でも、素話では絵本の読み聞かせと異なり、子ども達が想像力を働かせているという研究結果が出ています。
以上を踏まえて、素話を保育に取り入れるねらいは、子どもの表現力を磨き豊かな言葉を養うことだと言えるのではないでしょうか。
4、保育実習で扱う素話の題材
素話を保育園の実習で行う時に、実習の短期間では担当するクラスの子どもたちの個性なども完全には把握できず、どのような題材のものを選ぶのが適しているのか迷ってしまうことがあるかもしれません。これから、そのような時に参考になりそうな本をいくつか紹介していくので、是非参考にしてみてください。
出典お話だいすき!子どもとたのしむ1分間素話集(学童出版 2011/5/10)
「お話を聞く体験」は子どもの発達には欠かせないとして、約1分間の素話を44選収録されています。扱う素話は童話のようなものではなく、生活・たべもの・動物・家族・友だち・空想の6ジャンルに分けて、「仲なおりのじゅもん…「ごめんね」」「とんでった、せんたくバサミ」「イヤイヤ姫」などオリジナルの内容となっています。どれも保育園に通う年代の子どもたちには馴染みのあるような内容ばかりなので素話の世界を想像しやすく、子どもたちの中に話の内容が入っていきやすいのではないかと思います。
出典:子どもの聞く力を伸ばす みじかいおはなし56話(メイト 2013/10/1)
コミュニケーションの基本である「聞く力」を身に着けるべく、昼食前や降園前などの短い時間に保育士が語れる素話が収録されています。内容は、生活童話から行事、食べもの、昔話と多岐に渡り1年間フル活用出来る一冊となっています。
出典:お話とその魅力―作品と話し方のポイント(萌文書林 2002/4/10)
1989年に出版された同署を改定したものとなります。
素話によって子どもに何が育つのか、子どもにとって大切なお話とは何かについて述べるとともに、それぞれの時期にあった素話を話し方のポイントと作品解説と一緒に収録した保育士必携の一冊となっています。
まとめ
素話とは何か、素話を保育で行うねらいとは何かについてまとめてきました。素話が子どもに与える影響力は5領域の言語の「経験したことや考えたことなどを自分なりの言葉で表現し、相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て、言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養う」という記載のままではないでしょうか。保育士がそれまでの自分の経験などを自分の言葉で表現しながら素話を行うことによって、子どもたちも刺激を受け、豊かな表現力を養っていくことに繋がっていくのではないかと考えられます。
保育士不足などの昨今の時代背景から、素話を披露する機会は減っているとのことですが、今一度素話の魅力に触れ、日々の保育に取り入れていってみてはいかがでしょうか。
参考文献
厚生労働省の資料(保育士養成課程等検討会|2016/06/05)
保育所保育指針(厚生労働省 雇用均等・児童家庭局|1999/10 29 児発第七九九号)
幼稚園教育要領(文部科学省|平成20年3月)
幼児一人一人の豊かな表現力を育てるための援助の工夫(豊見城村立上田幼稚園教諭 富田佐代子 著)
保育現場における「素話」の活用に関する実証的研究(常盤台短期大学 高橋一夫 著2014)
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