設定保育とは|導入や指導案の考え方と1歳児から4歳児まで年齢別の設定保育の実践(2017/03/27)
目次
1、設定保育とは
設定保育は、保育士が指導目標に沿って活動内容を計画し保育を行っていく保育方法のことです。保育士が主導となり、クラスやグループの子どもがみんなで一緒に活動するスタイルです。活動内容はさまざまで、音遊びや製作活動、お散歩なども設定保育に含まれます。「子どもたちにこんな活動をしてほしい」「子どもたちのこんなところを伸ばしたい」といった、子どもの発達や成長の目標に合わせた活動を計画し進めていくことで、保育士は子ども一人ひとりの発達状況や行動を把握しやすく、子どもは一定のグループで活動をすることで協調性やルールを経験するきっかけになります。
保育の方法として、このように保育士が子どもの発達や成長に合わせたねらいを設定し行う保育「設定保育」と、反対に、子どもの自発的な活動に委ねた保育「自由保育」の2つに分けられます。「保育において「適当な環境」としての具体的な環境構成を行う場合の考え方としては大きく二つに分けることができた。すなわち「ねらいを達成するための環境構成」と「自発的活動を確保するための環境構成」である。」(引用元:永野泉氏の「保育研究における環境論の比較」)
また、どちらの方法も保育士が子どもの発達や成長をいかに把握し環境設定できるかが重要だと述べています。ここでは、2つのうちの「設定保育」のことについて詳しくみていきましょう。
1-1、設定保育の「導入」の考えかた
設定保育において、その活動に入るときに必要になるのが「導入」です。導入とは、設定保育をはじめる前に、子どもたちにその活動への興味関心をもってもらえるような働きかけをすることをいいます。ですから、導入でいかに子どもの心を掴みとるかによって、その後の活動を楽しく集中して行えるかが左右されるといっても過言ではありません。ここでは、製作活動の導入を例にあげてみましょう。
たとえば、3歳児のこいのぼり製作を設定保育で行おうとしている場合です。子どもの中には、こいのぼりへの認識自体がない子もいることでしょう。まずはこいのぼりのことを知ってもらうため、こいのぼりの歌をうたいます。歌を歌うときには、ペープサートやパネルシアターなど、イラストを見せながら歌うとさらに楽しめます。どのような色の鯉が登場するのか、それにはどのような意味合いがあるのか。あくまで一例ですが、このように「こいのぼり」に対する話を深めていき、子どもの関心を引き上げていきましょう。
導入は、難しく考えずに「子どもたちをどのようにすれば楽しませられるか」ということを重視することが大切です。
1-2、設定保育の指導案の書きかた
設定保育の指導案を書くにあたり、まず重要になるのがその活動の「ねらい」です。なぜその活動をしようと思ったのか、その活動によって子どもたちにどのようになってもらいたいのかを書きましょう。この「ねらい」を軸とし、次は時間配分を含めた活動の内容や流れを考えていきます。頭の中で子どもたちの様子をシュミレーションしながら、「準備にはどのくらいの時間がかかるのか」「どのような段取りで行えば子どもが最後まで楽しめるか」などを配慮し、設定していきましょう。最後に「保育士の援助」についてです。活動をしていく中で、子どもたちにどのような働きかけが必要なのかをあらかじめ考えておきます。設定保育において、指導案がどのような役割を果たすのかを、本村弥寿子氏は「保育指導案作成の理解を深めるための一考察」でこのように記しています。
「指導案とは、保育者の保育観を他者に伝えるものである。つまり、保育者が子どもの姿をどのようにとらえているのか、そこから何をねらいとするのか、ねらいを達成するためにどのような援助を行うのかを伝えるものである。」
また、自身の保育方法を見直すきっかけになるものでもあるため、しっかり作成しておきましょう。
2、設定保育「1歳児のこいのぼり製作」
では、実際に年齢別ではどのような設定保育を考えていくのかを、先ほどと同様に「こいのぼり製作」を例に挙げ、年齢別にシュミレーションしてみましょう。
2-1、「1歳児」は製作活動を楽しむことから
1歳児の製作活動をするとき、子どもにとって大切なことは「興味をもって楽しむこと」です。生活の中でも、さまざまなことに好奇心が溢れ始めるこの時期、保育士の保育の設定はかなり重要なものになります。大方美香氏の「乳児保育における保育の計画」には、1歳児の保育計画を立てるにあたり、重要なことをこのように述べています。
「探索活動が旺盛になる中で、身近な生活道具や物への関心が広がり、物を扱う「操作性」をどのように育てていくかは保育者の配慮にあるといっても過言ではない。1歳児にとっては、遊びや活動の経験の有無が大切であり、それだけに、指導案の果たす役割は大きいといえる。」
1歳児が楽しく活動をするためには、どのような内容がよいのでしょうか。あくまで製作活動の一例ですが、こいのぼりに手形スタンプで模様をつける製作はいかがでしょうか。絵の具を手に付ける感触、きれいな色彩、そしてこいのぼりに手をスタンプするだけで形が現れる様子を楽しむことができます。もちろん、手形に限らず、指についた絵の具で線や点を描いて遊ぶのも、子どもの自由な感性を育むきっかけになりそうですね。
2-2、1歳児の活動において注意すべき点
1歳児の子ども一人ひとりが楽しく集中して製作を行うために、まずは環境を整えましょう。机に無駄な道具をゴチャゴチャと置かず、すっきりとした環境で活動します。さらに活動をするときの進め方も重要です。クラスや保育士の人数にもよりますが、1歳児の製作を一斉に行うことは難しいと考えられます。活動場所を区切り、2~3人ずつ製作活動をしていくことで、保育士の援助も行き届きやすいでしょう。このように幼い年齢のクラスは、保育士の十分な援助が必要になるため少人数ずつ行うケースが多くなります。1歳児の設定保育を考えるときは、いかに子どもが安心して製作を楽しめる環境がつくれるかがポイントになりそうです。
3、設定保育「2歳児のこいのぼり製作」
続いて2歳児の設定保育を考えていきましょう。もちろん2歳児は、1歳児より物事への認識ができるようになっているので、活動内容や保育士の援助にさらなる配慮が必要になります。
3-1、「2歳児」は言葉を育む活動を
2歳児になるとあらゆることへの認識ができるようになり、子どもの活動範囲も広がります。また、言葉が活発になり、意思がはっきりとしてくる年齢でもあります。そのような子どもたちの「こうしたい」という興味関心を伸ばしてあげられる製作活動を目指しましょう。お茶の水女子大学子ども発達教育研究センターの著である「幼児教育ハンドブック」には、2歳児の発達段階として以下のように挙げられています。
指先の動きも急速に進歩する。発声はより明瞭になり、語彙の増加もめざましく、日常生活に必要な言葉も分かるようになり、自分のしたいこと、してほしいことを言葉で表出できるようになる。
たとえば、「野菜スタンプ」で模様をつけるこいのぼり製作はいかがでしょう。ニンジンやタマネギ、ジャガイモやオクラなど、さまざまな種類の野菜を切って断面をスタンプにします。2歳児の子どもの中には、野菜の名前を言える子もいるはずです。こいのぼりにスタンプを押しながら、「これは何の野菜でしょう?」と、問いかけて楽しむこともできますね。製作活動を楽しむだけでなく、身近な「野菜」への興味関心を高めることにもつながっていきます。
「きららの杜西台小規模保育園」でも、2歳児クラスの子どもたちが野菜スタンプに夢中に
なる様子がみられます。
引用元:きららの杜西台小規模保育園
3-2、2歳児の活動において注意すべき点
1歳児の場合と同様、2歳児の製作活動をする際も、環境の設定が重要なポイントになります。子どもが成長に応じて保育士の援助の方法にも変化が必要になります。「自分でやりたい」という意思がある子には、手を掛け過ぎずに見守るかたちで援助していきましょう。2歳児は、子どもによって発達や成長の幅の違いがみられます。指導案を作成する際、一人ひとりの子どもの顔を思い浮かべながらシュミレーションしておきましょう。
4、設定保育「3歳児のこいのぼり製作」
3歳児になると、徐々に集団で行動することができるようになってきます。援助する保育士の人数も限られてくるので、クラスの状況に応じて活動の方法を考えましょう。
4-1、「3歳児」は道具の基礎を身に付けるきっかけに
3歳児は2歳児に比べて集中できる時間が延び、保育士の説明を聞いて実行に移す「理解」と「実践」ができるようになってくる年齢です。こちらも、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センターの「幼児教育ハンドブック」にある発達段階をご覧下さい。
注意力や観察力はますます伸びて、身の回りの大人の行動や日常経験していることなどを取り入れたりしてごっこ遊びの中に再現する
また、遊びの内容にも象徴機能や創造力を発揮した発展性が見られるようになり、遊びがかなりの時間持続する。
保育士の真似をし、ハサミやのりなど道具の使い方やルールの指導もできるようになってくるので、製作活動に少しずつ盛り込んでみましょう。
たとえば、折り紙をハサミで細かく切ってのりで付け、こいのぼりの鱗にする製作はいかがでしょう。ハサミの使い方を指導する時間をたっぷり設け、今後使うときの基本のルールを覚えるようにします。「ハサミの扱い方」「ハサミをもって歩き回らない」など、必要なことを一つひとつ丁寧に伝えていきましょう。
4-2、3歳児の活動において注意すべき点
3歳児の設定保育では、導入のしかたを工夫することで子どもたちの心を惹きつけることが重要になります。こいのぼり製作の場合、こいのぼりの絵や写真、製作の完成例を見せて、これからどのようなものを作るのかを想像させてあげましょう。また、クラスの中でも配慮が必要な子が明確にわかるようになってくる時期でもあります。必要な場合は補助の保育士を配置するなど、適切な対応をあらかじめ考えておきましょう。
5、設定保育「4歳児のこいのぼり製作」
4歳児になるとあらゆる活動を自力で行うことができ、子ども一人ひとりの個性も豊かになります。保育士は「援助」というより「見守る」かたちで、子どもの力を活かす活動内容を考えていきましょう。
5-1、「4歳児」は、その子の表現力を引き出す
4歳児は、子どもによって得意不得意や好き嫌いがはっきり出てきます。また、表現する力も豊かになります。これらの発達や成長過程を考慮し、子どもの個性や表現力を活かして製作を行いましょう。
たとえば、こいのぼりの形作りや鱗の模様部分も子どもに任せて製作を進めます。子どものハサミの使い方や切り方によって、こいのぼりの形に個性が出て、作品一つひとつが際立ちますね。さらに、クレヨンや絵の具を使ってこいのぼりの鱗にさまざまな模様を描きます。きれいな色彩を使い模様を描く子もいれば、好きな絵を自由に描く子もいることでしょう。製作の中で、行き詰ってしまう、うまくいかず葛藤している子どもには、保育士の援助も必要になります。
5-2、4歳児の活動において注意すべき点
4歳児は、ほとんどの活動は自力で行えます。ただ、考えていたことがうまくいかずに挫折することもある時期。保育士は様子をみながら援助していく必要がありそうです。準備の時間、製作活動の時間、片付けの時間と、活動の流れにメリハリをつけるように心がけることも必要になります。集団で活動する協調性と集中する力を伸ばす機会をつくることを考えていきましょう。もちろん、配慮が必要な子への援助や働きかけも合わせて考えておきましょう。
まとめ
ここで挙げた設定保育はあくまで例の一つです。保育をするクラスの年齢や発達段階、状況に応じて適切な計画を立てるように心がけましょう。指導案や活動計画を考えるのは、保育士にとって大変な作業ですが、活動をスムーズに進行するために重要な準備となります。イメージを膨らませ、どのように行うのかを具体的に考えておきましょう。
参考文献
保育研究における環境論の比較(永野泉|淑徳短期大学研究紀要 45,79-88,2006/2/25)
保育指導案作成の理解を深めるための一考察(本村弥寿子|2016)
乳児保育における保育の計画(大方美香|大阪総合保育大学紀要(4),129-144,2010/3/20)
幼児教育ハンドブック(お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター|2004年発行)
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