エンテロウイルスとは?感染経路や症状・原因と治療方法を解説(2021/07/14)
「エンテロウイルス」というウイルス名は耳にしたことはあるけれど、どのようなウイルスかよくわからないという人も多いと思います。
エンテロウイルスとはどんなウイルスなのか?その概要や原因・感染経路、症状や治療方法などを解説していきます。
目次
1、エンテロウイルスとは
エンテロウイルスとはエンベロープを持たない一本鎖RNAウイルスで、カプシド蛋白と核酸だけから構成されるウイルスです。腸管で増殖する特徴を持っているウイルスの総称のため、腸管ウイルスとも呼ばれます。
エンテロウイルスはピコルナウイルスに分類されます。エンテロは「腸管」を意味し、ピコとルナは小さいRNAを意味します。つまり、エンテロウイルスという名前は、腸管で増殖する小さなRNAウイルスという意味を表しています。
エンテロウイルスは67種類が存在します。
・ポリオ1~3型
・コクサッキーウイルスA群1~22型、24型
・コクサッキーウイルスB群1~6型
・エコーウイルス1~7型、9型、11~21型、24~27型、29~33型
・エンテロウイルス68~71型、73~91型、100~101型
エンテロウイルスは5~10月、特に夏に流行するという特徴がありますが、年ごとに流行するエンテロウイルスの種類は異なります。
エンテロウイルスはエンベロープを持たないウイルスのため、消毒用エタノールの効果は弱く、次亜塩素酸ナトリウムやポビドンヨードでの消毒が有効になります。
2、エンテロウイルスの感染原因や感染経路
エンテロウイルスは非常に感染力が強く、大流行を引き起こすことがあるウイルスです。
エンテロウイルスは、患者の便や気道分泌物に排泄されます。また、稀に血液や髄液からも検出されます。そのため、エンテロウイルスの感染経路は糞口感染または飛沫感染、母子感染の3つになります。
エンテロウイルスは一般的な環境の中でも、活性は失われず、感染力を持ち続けますので、間接的な経口感染も起こります。
エンテロウイルスに感染する原因には、次のようなケースがあります。
・感染者のくしゃみや咳などによる飛沫を吸い込む
・感染者の便で汚染された食べ物や水を飲食する
・感染者の便や飛沫などで汚染されたものに触れ、その手で口を触る
また、分娩時には母子感染を起こすことがあり、母子感染を起こした新生児は肝炎・肝壊死・髄膜脳炎・心筋炎などの重度の播種性新生児感染症を発症するリスクがあります。
3、エンテロウイルスの症状と原因ウイルス
エンテロウイルスは感染力は非常に強いですが、感染すれば全員が発症するわけではありません。
エンテロウイルスが腸管や周辺組織にとどまった場合は、無症状のまま不顕性感染で終わります。感染が進むと、様々な症状が現れるようになります。
エンテロウイルスには67種類ありますので、エンテロウイルスの種類によって、どのような症状が現れるかは異なります。
3-1、ポリオ(急性灰白髄炎)
エンテロウイルスはポリオ(急性灰白髄炎)の原因ウイルスです。
ポリオの症状は微熱や倦怠感、頭痛、咽頭痛、嘔吐などですが、麻痺型ポリオの場合は、片則性下肢麻痺など筋力低下・麻痺の後遺症が残ることがあります。
3-2、手足口病
手足口病はエンテロウイルスの中でもコクサッキーウイルスA群16型、エンテロウイルス71型が主な原因ウイルスであり、ほかにもコクサッキーウイルスA群4~5型、9~10型も原因ウイルスになることがあります。
手足口病は病名のとおり、手掌、手背、手指、足底、足背、口の中に水疱疹の症状が見られる疾患です。手足の発疹には痛みはありませんが、口腔内の発疹は痛みがあり、嚥下が困難になることもあります。また、発熱も手足口病ではよく見られる症状です。
手足口病は軽症の場合が多いですが、エンテロウイルス71型が原因の場合、脳幹脳炎や急性弛緩性脊髄炎、ギランバレー症候群を併発することがあります。
3-3、ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナはエンテロウイルスのコクサッキーウイルスA群2型、4~6型、10型が原因ウイルスになる疾患です。
ヘルパンギーナは、口腔内に直径1~2mmの灰色丘疹・小水疱が発生することが主な症状になります。そのほか、発熱や咽頭痛、頭痛、食欲不振などの症状も現れます。
一般的には軽症で経過しますが、まれに熱性けいれんを起こすことがあります。
3-4、無菌性髄膜炎
エンテロウイルスは無菌性髄膜炎を起こすことがあります。無菌性髄膜炎の原因となるのは、エコーウイルス4型、6型、9型、13型、18型、30型、33型、コクサッキーウイルスB群2型、4~5型などです。
無菌性髄膜炎は、発熱・嘔吐、頭痛が主な症状で、髄膜刺激症状が見られますが、基本的には経過は良好です。エンテロウイルスによる無菌性髄膜炎は、まれに発疹の症状が現れることがあります。
3-5、エンテロウイルスD68感染症
エンテロウイルスD68感染症はエンテロウイルスD68(EV-D68)が原因で起こる疾患です。
エンテロウイルスD68感染症の症状は発熱や咳、鼻汁などの風邪のような症状から、喘息のような発作、さらに呼吸困難・肺炎などの重篤な症状を含む呼吸器症状が現れます。
このエンテロウイルスD68感染症は2014年にアメリカで大流行し、重症呼吸器疾患での入院症例が増加しました。それと同じ時期に急性弛緩性麻痺や脊髄炎の症例も増加しました。
弛緩性麻痺の一部の患者からエンテロウイルスD68が検出されたため、エンテロウイルスD68感染症は急性弛緩性麻痺と関連性があるのではないかと推測されています。
3-6、出血性結膜炎
エンテロウイルスは出血性結膜炎を引き起こすことがあります。
出血性結膜炎の原因ウイルスは、エンテロウイルス70型とコクサッキーウイルスA群24型です。
出血性結膜炎は、眼瞼浮腫や強い眼痛や結膜の充血、眼脂、流涙、羞明などの症状が現れます。結膜下出血や角膜炎等を起こすこともあります。
通常は1~2週間で治癒しますが、まれに麻痺を伴うポリオのような症状が現れることもあります。
3-7、非特異性発熱
エンテロウイルスは一般的な夏風邪の原因ウイルスにもなります。
手足口病やヘルパンギーナのような特徴的な症状がなくても、発熱や咳、鼻水、咽頭痛などの風邪の症状を引き起こすことがあります。
3-8、流行性胸膜痛(流行性胸痛症)
エンテロウイルスの中のコクサッキーウイルスB群は、流行性胸膜痛(流行性胸痛症)
の原因ウイルスになります。
流行性胸膜痛の発熱や頭痛、咽頭痛、倦怠感に伴い、胸膜性の胸痛の症状が現れます。
一般的に症状は数日で治まりますが、再発を繰り返すことがあります。また、流行性胸膜痛は心筋心膜炎を合併することがあります。
4、エンテロウイルスの治療方法
エンテロウイルスによる感染症は一般的に予後が良く、治療方法は対症療法が基本になります。
新生児の重症症例にはエンテロウイルスに対する中和活性を持つ免疫グロブリンを投与し、ウイルス血症を抑制する治療方法がありますが、その治療方法はまだしっかりと効果があるというエビデンスは得られていません。
まとめ
エンテロウイルスの概要や感染経路、疾患別の症状・原因ウイルス、治療方法を解説してきました。
エンテロウイルスは基本的には予後は良好ですが、まれに重症化することがありますので、注意深く経過を観察する必要があります。
参考文献
・細矢光亮「小児のエンテロウイルス感染症」環境感染誌 Vol. 32 no. 6, 2017
・エンテロウイルス感染症(手足口病など)|佐久市立国保浅間総合病院
1983年生まれ。宮城県石巻市出身。正看護師歴10年。看護短大を経て、仙台市立病院の小児科で勤務。その後、小児科での経験を生かし、保育園看護師として同市内の保育園に就職。現在は1児のママとして、育児の傍らWEBライター・ブロガーとして活動している。
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