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破傷風の看護|症状やトキソイドの重要性、看護の5つのポイント(2021/01/03)

公開日: : 看護用語 東京都 全科共通 

日本人はみんな子どもの頃に予防接種を受けているから、破傷風に感染する可能性はないと思っていませんか?

破傷風は致死率が高く恐ろしい感染症であり、適切な予防・処置が行われなければ、子どもの頃に予防接種を受けていたとしても、感染・発症することもあります。

破傷風の基礎知識や症状、破傷風トキソイドについて、破傷風の看護のポイントをまとめましたので、実際の看護に役立ててください。

 

1、破傷風とは

破傷風とは、破傷風菌が原因で発症する感染症のことです。

偏性嫌気性菌である破傷風菌は、芽胞の状態で土壌の中に広く存在しています。そして、創傷部位から破傷風菌は体内に侵入して発芽・増殖し、破傷風毒素という神経毒素を産生して、強直性痙攣などの症状を引き起こします。

引用:どんな症状があるの?日常生活に潜む破傷風|抗破傷風人免疫グロブリン(テタノブリン・テタノブリンIH)の投与を受ける患者様とご家族の方へ

近年、日本では年間120名前後の破傷風の患者が報告されていて、集中治療を行っても、全身性破傷風の致死率は10~20%と高くなっています。1また、破傷風で死亡する患者の多くは、60歳以上の高齢者です。

 

2、破傷風の症状

破傷風は3~21日間(通常1~2週間)の潜伏期間を経て発症します。破傷風の症状は次の4期に分けることができます。

 

2-1、破傷風の症状の第1期~第4期

■第1期

第1期は次のような症状が現れます。

・外傷部位の硬直感

・全身の違和感

・肩こりや首の張り

・咽頭痛

・頭痛

・寝汗

・歯ぎしり

・口が開けにくくなる

第1期は1~2日持続しますが、口が開けにくくなるため、通常の食事が困難になることがあります。

 

■第2期

第2期の症状はこちらです。

・開口障害が強くなる

・痙笑(破傷風顔貌)

構音障害

・歩行障害

第2期になると、顔面筋の緊張や硬直が強くなります。さらに、顔面筋の痙攣が始まると、苦笑するような引きつり笑いのような表情になってしまいます。この表情を痙笑や破傷風顔貌と呼びます。

 

■第3期

第3期は次のような症状が現れます。

・全身けいれん

・頸部硬直

・発作的な強直性痙攣(後弓反張)

・バビンスキーなどの病的反射

・腱反射の更新

・クローヌス

・交感神経過緊張

第3期の全身性の痙攣は、騒音や光などの感覚的な刺激によって誘発されることが特徴です。

交感神経の過緊張により、血圧の変動や不整脈、体温の上昇、発汗過多、排尿・排便障害などの症状が現れます。

この第3期は最も危険な時期です。2~3週間持続することが多いですが、第3期に呼吸不全心不全を起こし、死亡するケースも少なくありません。

 

■第4期

第4期は回復期です。

第4期になると、全身性の痙攣は見られませんが、局所での筋の緊張・硬直、腱反射の亢進は残っていて、徐々に軽快していきます。

この第4期は2~3週間続きます。

 

2-2、破傷風の重症度

破傷風の重症度は、軽症・中等症・重症の3つに分類されます。

・軽症=第3期に至らず、第2期でとどまり回復する

・中等症=第3期に至るが、オンセットタイムは48時間以上

・重症=第3期に至り、オンセットタイムが48時間以内

第1期から第3期の全身けいれんが現れるまでの時期を「Onset time(オンセットタイム)」と呼びます。このオンセットタイムが48時間以内だと、予後が不良になります。つまり、破傷風は発症からの進行スピードが速いと、死亡率が高いということです。

 

3、破傷風トキソイドの重要性

破傷風は予防できる感染症です。破傷風ワクチンである破傷風トキソイドを正しく接種することで、ほぼ100%破傷風を予防することができます。

ただ、破傷風トキソイドは小児期に正しく予防接種をしていても、約10年で破傷風抗毒素抗体価は発症防御レベルを下回るとされています。

破傷風のリスクがあるケガをした場合、破傷風予防のために破傷風トキソイドを打つことが多いです。破傷風トキソイドを打つかどうかは、過去のワクチン接種回数と最終接種からの経過年数、さらに創の状態で決まります。

引用:破傷風ワクチン接種に関する日米の違い|Web医事新報|日本医事新報社

受傷後に破傷風トキソイドを接種することで、破傷風は予防することができます。破傷風の発症リスクが高い汚染された創で、過去に破傷風トキソイドをきちんと接種していない(もしくは不明)という場合のみ、抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG)を投与することになります。

 

4、破傷風の5つの看護のポイント

破傷風は、現在でも年間120名前後が発症している病気です。

発症すると、致死率が高い感染症ですので、正しい看護ができるようにしておきましょう。

 

■患者の情報収集

まずは、患者の情報収集です。

その患者はどのような経緯で、どのような場所で、どのように受傷したのかによって、破傷風の発症リスクは異なります。

また、今までの破傷風トキソイドのワクチン接種の既往も、治療のためには非常に重要な情報です。

患者の意識がクリアで、きちんと話せる状態であれば、患者自身に確認しましょう。

それが不可能であれば、受傷時に一緒にいた人に受傷経緯を確認し、さらにワクチン接種歴は家族に確認しましょう。

子どもの頃のワクチン接種の有無・回数は母子手帳などワクチンの接種記録を確認してもらうと確実です。また、子供の頃の定期接種以外に、大人になってから追加接種はしたことがあるか、追加接種をしたなら何年前かも確認してください。

 

■症状の観察

破傷風の患者の看護をする時には、症状の観察も重要です。

既に、症状が出た状態で来院している患者には、いつ頃からどのような症状が出てきたのかを詳しく聞き取りしましょう。

発症時期がわかると、オンセットタイムまでどのくらいなのかがわかります。つまり重症度の推測・判定に役立ちます。

また、開口障害や頸部硬直の程度、構音障害や歩行障害の程度などを確認し、異常の早期発見に努める必要があります。

 

環境整備

第3期に移行すると、全身性の強直性痙攣が現れるようになります。

破傷風の強直性痙攣は、光や音などの感覚性の刺激で誘発されることが多いです。

そのため、看護師は痙攣が誘発リスクを少しでも減らすために、環境整備をしましょう。

・カーテンや暗幕で病室内の光刺激を遮断する

・騒音を最小限にする

・患者への処置は手早く最短で行い、皮膚への刺激を少なくする

これらのことに注意して、痙攣を誘発しないように環境整備を行いましょう。

また、痙攣が起こった時に、患者の安全を守るための環境整備も重要です。

ベッドからの転落を防止したり、四肢や頭部をベッドに打ち付けたりしないようにベッド柵を高くしたり、ベッド柵をクッションで保護したりなどの工夫が必要です。

環境整備は「環境整備|目標設定・観察をもとにした看護ケアの実践と手順」を参考にしてください。

 

■急変時への対応準備

破傷風の第3期は、急変して呼吸不全や心不全で死亡するリスクがあります。

看護師はいつ急変しても適切な対処ができるように、準備を整えておきましょう。

常に、急変時のシミュレーションをすると共に、急変時に必要な物品を確認しておいたり、救急カートを用意しておくと、万が一の急変にも冷静にスピーディーに対応することができます。

急変時の看護については、『「急変時の対応」に必要な看護師の知識や観察力とは』で詳しく説明しています。

 

■傾聴と適切な情報提供

破傷風は怖い感染症であるというイメージを持っている人は少なくありません。

そのため、破傷風と診断されると、不安が大きくなり、精神的に不安定になることが多いです。

看護師は破傷風の患者や家族の不安を傾聴し、適切な情報提供を行うようにしましょう。

事実に基づいた適切な情報提供をすることで、患者や家族は冷静に事実を受け入れやすくなり、不安を軽減することができます。

何か処置をする時には1つ1つ丁寧に説明することはもちろん、何か疑問や不安があったら、いつでもどんなことでも良いから、看護師に声をかけてほしいと伝えておきましょう。

 

まとめ

破傷風の基礎知識や症状、破傷風トキソイドの重要性、5つの看護のポイントをまとめました。破傷風は予防接種をすることで予防できる感染症です。それでも、10年で予防効果は薄れて発症することがあり、現在でも年間100名以上が破傷風を発症しています。

破傷風の患者に適切な看護ができるように、正しい知識を身につけておきましょう。

 

<参考文献>

1)破傷風|日本旅行医学会

破傷風とは|国立感染症研究所

治療法|佐賀大学医学部 病因病態科学講座生体防御学分野

破傷風とは?日常生活に潜む破傷風|抗破傷風人免疫グロブリン(テタノブリン・テタノブリンIH)の投与を受ける患者様とご家族の方へ|一般社団法人 日本血液製剤機構(JB)

山岸愛梨 看護師

東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。

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