変形性膝関節症を有する患者の看護、術前・術後のケアと注意点(2016/11/10)
立ち上がった時や歩き始めに膝に違和感や痛みを覚えても、それが長続きしないとさほど気にせず、特に中高年では歳のせいと思って諦めがちです。しかし初期症状を放置しておくと、痛みがひどくなったり関節が腫れ上がったりして膝の曲げ伸ばしが困難になることがあります。さらに階段の昇り降りが苦痛になり、正座が困難になって、日常生活に支障をきたすようになります。
これは変形性膝関節症と呼ばれますが、膝の違和感や痛みがすべて変形性膝関節症になるとは限りません。また変形性膝関節症と診断されても、ほとんどの場合は薬物療法や装具着用や運動・温熱療法などで症状を軽減することができます。これらで改善しない場合、最終段階として外科的療法に頼ることになります。ここでは手術が必要となった患者さんの看護に触れます。
1、変形性膝関節症とは
変形性膝関節症とは、特に中高年の女性に多くみられる症状で、膝関節の軟骨が様々な原因からすり減り、関節に炎症が起きたり軟骨下骨に変形を生じて、痛みなどが起きる病気です。炎症が起きると関節液が過剰に分泌され、いわゆる水が溜まる状態になります。
初期では違和感やだるさ、痛みなどの症状ですが、進行すると膝に負荷のかかる動作が苦痛になり、末期には安静時でも痛みが取れず、歩行が困難になり、膝の変形が目立つようになります。
関節軟骨の老化が原因であることが多いとされていますが、それ以外にも肥満や筋力の低下、遺伝子要因など、そして外傷(骨折、靭帯や半月板の損傷)や化膿性関節炎などの後遺症も挙げられています。又O脚や偏平足などや、足に合わない靴やハイヒールを履いたりするのも原因とされています。
高齢者になるほど罹患率が高くなり、男女比では1:4くらいとされています。特に女性は閉経と共に骨粗鬆症が進行し、骨がもろくなることが影響していて、高齢者の要介護の一因となっています。
2、変形性膝関節症の手術
手術には関節鏡(内視鏡)手術、高位脛骨骨切り術(骨を切って変形を矯正する)、人工膝関節置換術などがありますが、それぞれに対処する症状と、メリットとデメリットが有ります。
■関節鏡手術
関節鏡手術は、関節の変形がそれほど進んでおらず、痛みの原因が主に半月板の損傷や軟骨下骨の変形である場合に行います。内視鏡で節内を観察しながら、軟骨や半月板の変形や、軟骨下骨にできた骨棘や滑膜の異常を取り除くので、傷口も小さくて済み、手術後数日で歩けるようになります。条件が満たされればかなりの効果が有りますが、条件に合う患者は多くなく、又、効果の持続性が短い場合もあります。
■高位脛骨骨切り術
高位脛骨骨切り術は、O脚で関節破壊の程度が軽い場合、脛骨を切って金属で固定し、膝の内側にかかる負担を軽減する手術です。矯正した骨の部分がくっつくまで2~3か月かかり、長期の療養と入院が必要となり、回復には半年近くかかりますがほぼ完治し、重労働やスポーツができるまでになりますが、膝の変形が内側だけであまりひどくなく、40~60歳代で活動性が比較的高い人が対象となります。
■人工膝関節置換術
人工膝関節置換術は、膝全体が大きく変形し、痛みがひどく日常生活での歩行や立ち座りが困難になった場合に行う手術です。痛みを取り除く効果は高く、関節の状態が良くない人や高齢者でも受けられ、日常生活に支障をきたすことは無くなります。しかし正座などの膝を深く曲げ伸ばすことや、無理な運動などは制限されます。
人工関節置換術には、関節全体を人工関節に置き換える場合(人工膝関節全置換術:TKA)と、膝関節の内側又は外側にだけ人工関節を入れる場合(人工膝関節単顆置換術:UKA)が有り、関節の変形程度などによって決められます。術後の経過が早い上、痛みが比較的短期間でほぼ取れますが、人工関節にゆるみが出ると再手術となり、術後深部静脈血栓症のリスクが高いことなどのデメリットもあります。
2-1、術前の看護
手術前には、患者さんの不安が軽減されて手術に対する精神的準備ができるよう心がけます。又全身の状態を評価して、術後合併症などの予測ができるような身体的準備も大切です。
医師から詳しい説明を受けているはずですが、患者さんが理解できていない内容が有れば、納得して手術を受けられるよう、不安感を取り除くようにします。また食欲や睡眠状況などや、家庭でのサポートの可否なども確認し、患者さんに術後の状態が具体的に理解できるよう説明します。
術後の安静期間やその後の移動方法(車椅子や杖)の他にも排泄方法なども具体的に指導し、その重要性・必要性を理解してもらいます。患者さんによっては、痛みを我慢している場合もあるので、表情などから読み取ることも大切です。痛みや腫れがひどい場合は、鎮痛剤の使用だけでなく、膝関節を冷やすことも必要です。
2-2、術後の看護
術後は状態が変化しやすいので、バイタルを観察し、麻酔からの覚醒状態や輸液量を確認して、必要なら点滴速度を調整します。出血や創部痛が有るか、ドレーンの量やにおいなどの確認も必要です。
2-3、TKA施術後のリハビリと痛みの軽減
手術後にはリハビリが必要となりますが、特にTKAの場合は比較的長期の入院が必要となり、日常生活に早く戻れるように、リハビリをできるだけ早く始めることが非常に重要です。手術前から膝や股関節の筋力が低下していたり、膝の曲がりづらかったり、痛みで動作が制限されていたのは、手術したからすぐ良くなるわけではありません。これらは手術からの回復のリハビリと同時に、それぞれ改善していく必要があります。
患者さんの状態によって異なりますが、早ければ翌日には手術した方の足に全体重をかけられるようになりますが、歩く練習は術後数日で始めます。手術直後の膝は炎症を起こしています。又、傷口や腫れ、曲がっていた膝を真っ直ぐにしたことから来る筋肉の張りなどからの痛みが有りますので、必要なら薬品の投与だけでなくアイシングで痛みを軽減することから始めます。
アイシングは、リハビリの時間内だけでなく、ベッドの上にいる間も続けることも可能です。術後、麻酔から覚めたら、理学療法士や作業療法士の指導のもと、ベッドの上でできるリハビリから始めます。術後すぐに足を動かすことによって、血栓ができるのを防ぎます。
■関節可動域運動
膝の動きを良くし、可動域を広げ、筋肉を柔らかくしますが、この時CPM(持続的関節他動運動装置)で膝関節の動きを改善することもあります。これは理学療法士や作業療法士でなくとも看護師などが装着できるため、正規のリハビリ時間外でも使用できます。
■筋力増強運動
膝回りや股関節周りの筋力増強も大切ですが、変形性膝関節症にかかわる要因の一つとして挙げられている肥満がある場合などには、全身の筋力が低下していることが多いので、腹筋を含む体幹筋力を鍛えるのも大切です。
術後数日で歩く練習を始めますが、痛みの程度にあわせて調整します。退院後の日常生活で行う動作を確認し、実際に試してもらって、必要ならどう工夫すれば良いかを指導します。又、正座ができなくなるため、椅子中心の生活状況にするとか、階段に手すりを取り付けたり、トイレを和式から洋式にするなどの生活環境の変更も指導します。
3、看護において気を付けるべき点
術前の患者さんは、手術に対する不安だけでなく、その後の生活にも不安を抱えているものです。又、特に中高年の女性は我慢強いので、痛みを訴えようとしない場合もあります。
手術やリハビリ、その後の日常生活などに関して分からない点が無いか必ず確認して、必要なら追加説明をすることが大切です。又、本当に痛みが無いのかも、表情やしぐさから判断することが必要になる場合が有ります。
リハビリに対して意欲を示さない場合は、痛みが原因なのか、他に理由があるのかを確かめる必要もあります。逆に早く治したいために、無理なリハビリ運動をする場合にも、気を付けなければなりません。
車椅子や杖の使い方は、丁寧に教えてください。特に車椅子で、ブレーキを外したりフットレストの上げ下げをするのを忘れて移動すると、転倒する危険性が有ります。転倒して骨折でもしては、大変です。
リハビリは長期にわたって続ける必要が有り、帰宅後も重いものを持ったり、重労働をしてはいけないこと、又無理な姿勢をしないことなどにも注意を促します。
肥満のある人には、膝関節にかける荷重を少なくするため、体重を減らすように、又、安静にばかりしているのも逆効果なので、散歩など適宜な運動をするようにも勧めます。
まとめ
変形性膝関節症は手術で確実に治るものではなく、また手術のリスクも懸念されています。術後の看護・リハビリにおいても、さまざまな点に気をつける必要がありますので、患者さんが安楽に過ごせるよう、入院時はしっかりとサポートしていきましょう。
また、退院後は患者さん自身が率先して予防策に取り組むよう、退院前にはしっかりと指導し、再発防止に努めてください。
埼玉県在住。埼玉県内の大学病院(整形外科)で正看護師として5年勤務した後、結婚・出産を機に離職。現在は2児のママとして、育児をしながらライターとして活動している。趣味はヨガ。産後の体型維持のために始めたものの、今では体幹トレーニングなど、スポーツとしての楽しみを感じている。
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