食事介助の看護|各患者に適した介助法と事故防止のための注意点(2016/10/17)
入院患者に病状に応じた適切な食事を提供することは、疾患の治癒の促進を図ったり、健康回復に貢献したりすることから、治療のひとつと考えられています。
また、患者の食事の仕方には多くの健康情報が隠されているので、看護師は患者の健康情報を取得するためにも、健康促進のためにも、食事介助を行う時には患者の入念な観察が必要不可欠です。
病院食のエキスパートは管理栄養士になりますが、看護師もその知識を有していないと食事介助によってかえって健康被害を引き起こしかねないため、営業学に基づいた安全・安楽な食事介助を目指してください。
目次
1、食事介助とは
疾病や高齢など、さまざまな要因に伴って、自分の力でうまく食事ができないという方がいらっしゃいます。私たちは生きていくために栄養をとる必要がありますが、うまく食事ができない方は、必要な栄養を十分に摂ることができません。
栄養を十分に摂ることができなければ、疾病に打ち勝つことはもちろん、健康的な生活を送ることもできないため、そういった方に対しては寄り添いながら食事の介助を行う必要があります。
日々の忙しい看護業務において食事介助は流れ作業になりがちですが、食事中は患者がリラックスしているときでもあるので、食事介助は患者との信頼関係を築く好機になります。
また、十分な栄養素をいかに摂取できるかは、介助者である看護師にかかっていると言っても過言ではありませんので、患者の情報を詳細に把握し、各患者に合った介助法を実践しなければいけません。
1-1、食事態勢の準備
食事の前にはまず、患者の排泄を済ませておくことが大切です。複数人部屋の場合、1人の患者が食事中に尿意や便意を催すと、本人だけでなくほかの入院患者の食事環境も損なわれます。そのため、排便コントロールと食事介助はワンセットで考えておく必要があります。
次に患者の意識状態を観察し、望ましい体位をセッティングします。食事介助が必要な患者は、手が不自由なだけでなく全身が弱っていることが多い傾向にあります。
全身の調子は食べ方に大きく影響するので、「咀嚼が苦手」「飲み込みが悪い」「味覚障害」といったどの器官がどのように弱っているのかという情報は、事前に把握しておく必要があります。
1-2、食べさせる際の注意点
食事介助が必要になっている患者は、咀嚼と飲み込みがとてもゆっくりになっています。看護師は患者の食べるペースを把握して、食材を口に運びます。また「ひと口サイズ」は患者によって異なり、食べる快適性に大きく影響することも覚えておいてください。
口の中に食材や水分の溜め込みがないかの確認はひと口ずつ行う必要がありますが、だからといって患者にひと口食べ終えたごとに口を大きく開けてもらうわけにもいきません。そこで看護師が自分の視線の位置を工夫して、スムーズな確認を心掛けてください。
水分を与えるタイミングも重要です。特に高齢患者の場合、患者の要求を待っていては必要な水分量を与えられないことがあります。さらに1日の水分補給量が1500mlに設定されている患者は、食事のときに多く飲んでもらう必要があります。「食べた物を胃に送るために、ここで水を飲みませんか」などと小まめに促しましょう。
1-3、観察項目
患者の情報を詳細に把握していなければ、上手く介助を行うことができず、時として患者にとって“楽しくない食事”になることもあります。また、誤嚥を引き起こすこともありますので、必ず以下の情報を詳細に把握しておいてください。
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こうした観察項目は後できちんと記録しておかなければなりません。さらに、食事介助の終了後も、摂取量または食べ残した量、食べ残した食材、食事に要した時間も観察記録に記載しておいてください。
食事介助時の観察では、1食1食ごとの様子に加えて、1週間単位や1カ月単位での「連続した摂取状況」の把握も求められます。栄養状態や全身状態の観察は、そうした長期的な視野が必要になります。
1-4、正しい食習慣を指導する
多くの生活習慣病の原因に「食生活の悪化」が挙がっていますので、看護師は絶えず「患者の日頃の食習慣は正しいだろうか?」という疑問を持っておく必要があります。特に朝食を食べない人は多いため、入院によって久しぶりに朝食を食べるという患者は珍しくありません。こうした患者には、退院後も3食を規則正しく食べる習慣を身に付けるよう指導しましょう。
2、入院治療における食事の意義
食事介助を的確に行うためには、入院治療における食事の位置付けについてしっかり理解しておく必要があります。「入院中の食事」の中には経管栄養による食事も含まれますが、ここでは経口摂取について取り上げます。
口と喉を使って食べることは患者に「食べる喜び」を実感させることができ、それは「生きる喜び」につながります。食事介助には栄養学的なアプローチに加えて、こうした精神的なアプローチも重要となります。
2-1、食べさせない食事、凶器となる食事介助
食事はエネルギーを得るための行動と考えられがちですが、入院治療では絶食というあえてエネルギー摂取量をゼロにする「食事」もあります。つまり看護業務では「食べさせない食事介助」も存在し、これは患者に我慢を強いることになります。
また経口摂取は口のほかに喉という臓器を使うため、食事介助をする看護師は患者の嚥下機能の確認が欠かせません。特に高齢者の嚥下機能は日々変化し、ときには食事ごとに変わります。
嚥下機能の低下を見過ごしたまま不適切な食事介護を続けて、その結果、誤嚥性肺炎を引き起こした場合、食事介助が患者を悪化させたことになってしまいます。入院中に誤嚥性肺炎を発症し死亡する事故も珍しくはありませんので、「食事介助が凶器となりうる」ということをしっかりと覚えておいてください。
2-2、3種類の食事形態の特徴をよく理解した食事介助を
病院食には、「常食」「軟菜食」「流動食」の3つの形態があります。「常食」は特殊な食事療法を必要としない患者向けのメニューで、使用する食材や調理法は健康な人が日頃の生活で食べているものと変わりません。
「軟菜食」における主菜のコメは、全粥、七分粥、五分粥、三分粥などで提供され、副菜も火をよく通して軟らかくなっています。患者の消化管への負担を小さくする狙いがあり、主に消化器の機能が低下している患者や嚥下障害を持つ患者に対して提供されます。「流動食」は重湯やスープのことで、固形物が入っていない食事です。
看護師がこの3種類の食事形態に特に注意しなければならないのは、消化器系の手術を行った患者です。看護計画では「入院○日目はこの食事形態」ということが「決まっている」病院も少なくありませんが、その「決まり」はあくまで「目安」にすぎません。看護師は日々の食事介助時の観察から的確な食事形態を考え、医師や管理栄養士にアセスメントする必要があります。
3、治療食
治療食はそのほかの病院食よりメニュー管理が厳しくなっています。看護師はそれぞれの治療食の意義を把握しておく必要があります。治療食の名称とその狙いをまとめました。
低残渣食 | 消化しやすい食材や調理法で作られた食事で胃や腸の病気の患者向けです。 |
糖尿病食
脂質異常食 |
糖尿病や脂質異常症は、特定の血中成分が異常値に達している病気ですので、こうした患者の治療食では特定の栄養素を控えてあります。 |
肥満症食 | 肥満症の治療で出される食事で、エネルギーは1日3食の総計で400kcal程度に抑えられています。 |
先天性代謝異常食 | アミノ酸代謝異常症や有機酸代謝異常症など、各種の先天性代謝異常患者向けの食事で、メニュー管理は特に厳格になります。 |
アレルゲン除去食 | 食物アレルギー反応を持つ患者向けの食事で、特定のアレルゲンを含みません。アレルギー反応の有無を調べる狙いがあります。 |
低菌食 | 白血球が低下している患者には、感染リスクを回避したメニューが提供されます。 |
まとめ
豪華な食事を提供する病院が最近増えています。かつては「病院食はまずい」といわれていた時代がありましたが、多くの医療機関が病院食の改善に取り組んでいます。
こうした傾向の背景には、食事の改善が治療効果に影響を与えているという多くのエビデンスがあり、看護研究のテーマになることも少なくありません。
食事介助の効果的な方法は、患者によって大きく異なりますので、患者の情報を詳細に把握した上で、各患者に合った介助法を実践していってください。
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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