杉並の保育園反対運動はエゴなのか?東京の人口問題から考える(2016/06/29)
杉並区の保育所政策とは
「保育園落ちたの私だ日本死ね!」
数か月前、個人のブログからはじまった待機児童問題はまたたく間に国会でも大きく取り上げられ、待機児童問題は一躍世間の注目するところとなった。
とくに多くの待機児童を抱える東京都の自治体では保育所、保育士不足が浮き彫りとなり、その一刻も早い対策が求められるようになったのである。
こうした中で注目を集めたのが杉並区のケースであった。
杉並区によれば平成28年の4月時点で杉並区の待機児童数は136人と、これは人口50万人以上の自治体としては優秀といえる。ところが現在の予測では平成29年度には待機児童の数はさらに増え、500人を超えるというのである。そのため杉並区の田中良区長は2017年までに「待機児童ゼロにする」と宣言。保育所づくりを加速させる方針を表明したことで大きな注目を集めた。
そもそもの原因は人口増加?
だが、ここで疑問なのは、なぜこれほど待機児童数が急激に増加しているのかということだ。
もともと杉並区は保育所の数が少なく、
実際に東京都の福祉保健局が昨年の7月に公表した「都内の保育サービスの状況について」を見ると、杉並区の保育サービス利用児童数は前年に比べて900人以上の大幅な増加となっている。これは東京都で最も待機児童数が多いとされる世田谷区に継ぐ高い数値だ。
このように杉並区は保育所の数を増やしながら、待機児童対策にはこれまでもかなり力を注いできたのがわかる。しかしそれを上回るペースで保育サービスを必要とする児童の数が増えているというわけだ。
杉並区はその理由を予想外の未就学児童の急増、働く女性の増加と説明しているが、いくら働きに出る女性の数が増えたにせよこの増加はやはり異常だろう。
そこで杉並区の人口の統計を見ると、杉並区の人口は平成26年6月の調査ではおよそ54万6000人とされていたのが、最新の28年6月時点では55万7500人と、わずか二年の間に一万人以上も増加していることがわかる。
年間51万人の人口増加=鳥取県の人口
杉並区ばかりではないが、近年の首都圏の人口増加のペースは急激という他はない。
2015年の国勢調査によれば東京圏とされる首都近郊の人口は5年間の間におよそ51万人も増加したという。
これは鳥取県の人口が58万人であることを考えれば、ほとんどひとつの県の人口がそのまま移動してきたのと同じである。
こうなると当然、保育サービスばかりではなく、介護や医療など様々な福祉サービスも不足するため、杉並区の定めた待機児童ゼロの目標などもこうした人口増加に対する地方行政なりの努力といえよう。
だがこうした中である問題が起きた。
公園や区民センターの中庭などに新たな保育所を作るという区の考えに住民側が反対運動を起こしたのである。これはネットでも話題となり。
「保育所不足で困っているこんなときに反対運動などけしからん、子育ての苦労を理解していない」とtwitterなどでは批判の声が殺到した。いわゆる炎上である。
だが、この反対運動が起きたうち、向井公園と井草地域区民センター中庭のある下井草地区などを見ると、住民は感情的に保育所がいらないといっているわけではなかった。
産経新聞が住民への説明会の様子を取材した記事を見ると、反対派からは「どうして井草地区にばかり作るのか」という声が大きく聞かれたことがわかる。
井草地区はもともと杉並区の中でも北部に位置し、地理的には練馬区に近い区の中では郊外である。そのため区とすれば地価も高く空いている土地の少ない中央線の沿線よりも建設がしやすいという本音もあるのだろう。
しかし下井草地区の人口はわずか1万5000人ほどであり、そこに次々と大規模な保育所ができるとなると周辺環境が一変する恐れがあるのは間違いない。
杉並区の行政への評価を見ると、保育所や介護施設の建設を推進する行政には肯定的な声が寄せられている一方で、この数年間の間に公園や児童館の入っている複合施設などが閉鎖される動きが相次いでることを嘆く声もある。
住民とすれば「保育所は確かに必要だが、このままでは地域住民の交流の場がなくなるのではないか」という不安もあるのかも知れない。
今は保育所を必要とする児童も、いずれ成長していけば児童館や公園を必要とするときがくるだろう。そのために住民同士が対立するのも不幸なことだろう。
保育所の設置は国ではなく地方自体の仕事だが、政治にはその背景にある人口の集中にどう対処するかというさらに大きな課題がありそうだ。
参考文献
杉並区 – すぎなみ保育緊急事態宣言
東京都 – 都内の保育サービスの状況について
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