異年齢保育|ねらいや活動、実践例を踏まえた指導計画や月案の立て方(2017/03/31)
異年齢保育とは、さまざまな保育環境の場面で導入されている保育方法の一つです。異年齢児と一緒に行われる保育は、子どもの成長にも大きな影響を与えます。異年齢保育とは一体どのようなものなのでしょう。また、実際の保育現場ではどのように進められているのかを、年長、中、少クラスによる異年齢保育を例にこちらでご紹介します。
目次
1、異年齢保育とは
異年齢保育とは、年齢の異なる子どもを混合させて保育を行う保育方法のことです。ほかにも、縦割り保育、混合保育といわれることもあります。この保育方法は、実施する園によってさまざまな目的があります。菅田貴子氏の「異年齢保育の教育的意義と保育者の援助に関する研究」には、次のような目的があげられています。
異年齢保育を実施する目的としては、次の3点が挙げられる。それらは第一に、少子化による子どもたちの社会性や仲間関係の形成にマイナスの影響があるという心配によるもの、第二に少子化により特に過疎地ではやむを得ず導入するもの、第三に少子化の問題とは関係なく、多様な仲間関係の形成や自我の発達にプラスの影響を期待するものである。
少子化などの問題により、異年齢保育を選択せざるを得ない園も中にはあるようです。しかし、異年齢保育を行うことによって、子どもの成長過程で重要になる子ども同士のかかわりをもつきっかけになることから、多くの園でもその必要性が注目されています。
1-1、異年齢保育のねらい・活動の意義
異年齢保育を行うねらいとして、同じく菅田貴子氏の「異年齢保育の教育的意義と保育者の援助に関する研究」では、次のように述べています。
異年齢保育の教育的意義として三点挙げられている。それらは第一に、子ども同士のタテ・ヨコの豊かなかかわりができること、第二に個々の子どもの拠点となる場所や居場所がひろがること、第三に保育者にとって3年をワンサイクルとしてクラス編成することでクラスが安定することである。
クラスごとの活動だけでは、異年齢児とのかかわりを身近にもつことはなかなか難しいといえるでしょう。そこで、異年齢保育の機会を設け一緒に過ごし活動することで、年下の子にとって年上の子は目標の象徴となり、年上の子は年下の子にやさしく接することを意識します。子ども一人ひとりが社会性や協調性を育み成長していくことが「ねらい」の大部分であり、異年齢保育の活動意義なのではないでしょうか。
1-2、異年齢保育の「年間計画・指導案・指導計画・概要」
保育を行うにあたり、まず必要になるのが「保育計画」です。異年齢保育でも同様、その保育のねらいや活動内容、保育士の援助すべきことなどをあらかじめ計画しておくことはとても重要になります。子どもの年齢や年上年下の関係性によって、その視点は全く違ってくるもの。そのことをしっかりと捉えたうえで、どのように異年齢保育を進めていくべきかを年間計画、月案、指導案の順で考えていきましょう。
ねらいを軸に、異年齢の子どもたちとどのように遊びを進めていくか、また保育士はどのように働きかけをするかをシュミレーションし、書き留めていきます。異年齢保育の指導案を作成する際は、それぞれの年齢の子どもの視点で考えることが重要なポイントになります。
指導案・指導計画の基本的な書き方については、指導計画の書き方|1歳児と2歳児の保育を例に養護や食育を解説を参考にしてみてください。
2、異年齢保育でのゲームや遊びについて
保育の中で、ゲーム遊びをすることは、異年齢とのかかわりを深めるきっかけの一つとなります。ただ、どの年齢の子どもも楽しめるようにするには、保育士の工夫が必要になります。ここで、いくつか確認してみましょう。
2-1、異年齢保育における製作活動
異年齢保育では、みんなで製作活動を楽しむことができます。年齢が違っても、同じ作業を一緒に行うことで一体感が生まれますよね。もちろん、子どもたちの中には年齢によってできること、できないことの力の差が出てきてしまいます。低年齢児は保育士がフォローする、または年上の子たちに援助をお願いするなどしながら活動を進めていきましょう。製作内容として、作ったあとに遊べるおもちゃなどがおすすめです。凧揚げのたこや紙飛行機、またはお店やさんごっこで使う品物を作っても遊びが広がり発展します。
2-2、異年齢保育における室内ゲーム
室内ゲームにも、異年齢の子どもが混じり合って楽しめるものがたくさんあります。異年齢保育のはじめに行うと、子ども同士が打ち解けていくきっかけになるかもしれません。ゲームは、ルールを理解しやすい簡単なものを応用していきましょう。たとえば、ハンカチ落としゲーム。ルールはそのままで、年長児と年少児が1ペアとなって楽しみます。年長児が手をつなぎ年少児をサポートすることで、年齢の枠を超えてゲームを楽しむことができます。小泉栄美氏、野中 弘敏氏、中野隆司氏による「縦割り保育で子どもたちが経験していること」のかけっこの事例を見ると、
自分たちよりも小さい年少児の子と,どうしたら一緒に楽しくかけっこをすることができるのかという目的に合わせて,方法を考えることができている年長児の姿が観察できる。一見,自分たちの楽しい時間を邪魔されたくない気持ちが優先されるのではないかと思われるが,自分たちの楽しさだけで満足するのではなく,かけっこの楽しさを年少児とも共有し合うことができている。
とあります。自分のことだけでなく、みんなが楽しめる方法を考えられる思いやりは、ゲームや遊びを通して年少児にも受け継いで欲しい一面です。
2-3、異年齢保育「ふれあい遊び」
ふれあい遊びは、子ども同士の距離を縮めるきっかけになり、また保育中の空いた時間に活用できるのでいくつか準備しておくと便利です。おすすめは「まるくなれ輪になれ」です。異年齢クラス全体で輪を作ります。手を離さず輪を保ちながら1か所の穴をとおっていき、また大きな輪に戻ります。手を取り合いながらこの連携プレイを楽しみ、子どもたちみんなで盛り上がりましょう。
2-4、異年齢保育エピソードからみる自由遊び「実践例」
異年齢保育でも、普段と同じように自由遊びの時間を設けるケースが多いようです。その中で、年長児と年少児の間にどのようなやりとりがあり、保育士はどのような働きかけを行っているのかを、小泉栄美氏、野中 弘敏氏、中野隆司氏の「縦割り保育で子どもたちが経験していること」でみてみましょう。
粘土・お絵かきの時間,年長児が全色のクレヨンを使いカラフルに線を描いている。その年長児の書いている画用紙をみた年少児のK 君(4歳)は,同じように全色のクレヨンを使って画用紙一面にカラフルに線を描く。さらに周りにいた数人の年少児も K 君や年長児の真似をしながら同じように描く。
このように、自由遊びの中でも自然と年長児は年少児の模範となっているようです。ただし、年長児のように上手くいかず葛藤する子やかかわりを嫌がる子も中にはいるはずです。保育士は、その様子を悟って働きかけをしていくことが大切です。
3、異年齢保育のメリット・デメリット
異年齢保育には、メリットもあればデメリットもみられます。保育士そのことを理解したうえでいかに保育を進めていくかによって、異年齢保育の価値が変わってきてしまうのです。
3-1、異年齢保育での配慮が必要な子ども
最近の保育現場では、配慮が必要な子どもがクラスにいてもあたりまえの状況になりつつあります。実際、河野純子氏の「幼稚園保育園に在籍する特珊な支援を必要とする子どもたちの現状と支援に関する調査研究」にも、
障害児および「気になる子」は、約7割~8割の園に在籍していた。近年.とりわけ特別支援の対象としてあげられる広汎性発達障害の子どもたちは、障害児の約4割を占めていた。
とあります。気になる子への対応は、異年齢保育でも重要になります。特に自閉の傾向がある子の場合、急な環境の変化に不安を感じやすいため、注意してかかわってあげなければなりません。安心してかかわれる保育士をそばにおく、あらかじめ次の行動を伝えておくなどの対策を考えておきましょう。
3-2、異年齢保育での乳児とのかかわり
異年齢保育は幼児が対象になるだけではありません。0~2歳までの異年齢クラスや乳児と幼児を一緒に保育するケースもあります。そのような環境は、子どもの気持ちにさまざまな影響を与えます。庵幸代氏の「異年齢交流から見えてくるもの~3歳未満児と3歳以上児~」にもこのようにあります。
子ども達にとっても赤ちゃん(0歳児)というのは特別な存在である。本能的に“守ってあげたい”と意識が働くのかそれを感じやすい“見た目”があるのか無条件に“優しくしてあげたい”と関わろうとする。 子ども達なりに“ケガさせないように”や“喜ばせてあげたい”と様々に考えて関わることが、その子ども自身の大きな心の成長と繋がることに保育士は喜びを感じる。
保育環境によって子どもたちにこのような気持ちが芽生えることは、大きなメリットといえるかもしれませんね。ただし、活動内容によっては環境を区切って危険のないよう心がけることも保育士は忘れずにいましょう。
3-3、異年齢保育の「月案」で考えるべきこと
異年齢保育をスムーズに進行していくために、「保育計画」の存在は欠かせません。年間指導計画をはじめ、月案週案と少しずつ具体的な内容におとしこんでいきましょう。特に注意したいのが「保育士の援助」の点です。異年齢保育という特殊な環境の場合、子どもたちにどのような働きかけをしていけばよいのか想像しにくい部分もあることでしょう。ここで、3、4、5歳児の異年齢保育を行っている「花見ひかり保育園」の「保育士の援助」を覗いてみましょう。
保育士が気をつけていること
【援助・配慮】
一人ひとりの健康状態を把握し、気持ちよく生活できるように、また、夏の遊びが楽しめるように家庭との連絡を取り合う
集団の中でなかなか自分を表現できない子に、大人とのかかわりや遊びの中で少しずつ表現できるようにする
異年齢保育になると、同年齢保育とは違った配慮が必要になります。個々の子どもに対する気遣いを忘れずに計画を立てていきましょう。
4、異年齢保育における設定保育の在り方
設定保育でも、異年齢保育では保育士が考えるべき点が異なってきます。同年齢クラスのときは発達段階が近い子どもが集まるため、保育内容を統一しやすいのに対し、異年齢保育では違った年齢の子どもが集まるため、設定する活動の内容を工夫する必要が出てきます。活動の時間配分においても、年少児に合わせて余裕をもち、必要以上の準備をしておくことが大切です。運動遊びやゲーム、製作や楽器遊びなど、設定保育は日々の子どもたちの状況や様子をみて、臨機応変に見直しをしながら計画をしていきましょう。
5、異年齢保育のおける絵本や論文
保育の中で、毎日のように絵本の読み聞かせを行っているクラスも多いのではないでしょうか。しかし、異年齢保育ではその年齢の差やクラスの好みの定着によって求められる絵本の内容が異なってしまうこともあるのです。小泉栄美氏、野中弘敏氏、中野隆司氏の論文「縦割り保育で子どもたちが経験していること」の例をみても、その難しさをあげていました。
年少児は,読み聞かせの時間にアンパンマンの紙芝居がでるととても喜ぶ反面,年長児はアンパンマンが嫌いだという子が多く「アンパンマン嫌だ,恐竜の紙芝居がよいー」という声が飛び交う。また反対に,恐竜,怪獣の紙芝居が出ると年少児は「見たくない」「怖い」と目をふさいでしまう。
もちろん、全ての子どもが楽しめる絵本をみつけられれば最善です。しかし、このようなすれ違いは、異年齢保育で育むべき社会性や協調性を学ぶよい機会でもあります。保育士は、「今日は年少組さんの絵本、明日は年長組さんの絵本にしましょう」などと働きかけ、子どもに譲ることや相手に合わせることも伝えていきましょう。同論文でも、
お互いが好きなものを一緒に楽しめる心,優しい気持ちをクラス全員がもって読み聞かせの時間がどの学年の子どもにとっても楽しく充実した時間となるよう配慮した言葉がけをしている。
とあります。異年齢保育では、普段あたりまえに行われていた些細なことも、異年齢の子と過ごすことで工夫や配慮が必要になってくるのです。
まとめ
同年齢クラスの保育ではみられない子どもの様子や成長がある異年齢保育。保育士にとっては、配慮や工夫が必要になるため負担も多いですが、子ども同士の豊かなかかわりを目指して保育を進めていきましょう。
参考文献
異年齢保育の教育的意義と保育者の援助に関する研究(菅田貴子|2008/10)
縦割り保育で子どもたちが経験していること(小泉栄美、野中弘敏、中野隆司|2012)
幼稚園保育園に在籍する特珊な支援を必要とする子どもたちの現状と支援に関する調査研究(河野順子|2008)
異年齢交流から見えてくるもの~3歳未満児と3歳以上児~(庵 幸世|2016/03)
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