統合保育の歴史と現状|保育士の役割とメリット・デメリット(2017/03/10)
障害をもつ子ども、そしてもたない子どもを一緒に保育する試みを「統合保育」といいます。健常の子どもが幼い頃から障害に対して理解を深めるきっかけになること、そして障害者にとってあらゆる面での成長の助けとなることから、社会への浸透も深まり始めています。ただ、実際のところは賛否両論があり、まだ理解が足りていないという現状もあります。ここでは、その統合保育について詳しくご紹介します。
目次
1、統合保育とは
統合保育とは、障害児と健常児を区別したうえで、あえていっしょに活動を行うことです。いままで、障害をもつ子どもは養護学校に通うという認識が広がっていましたが、障害者に対する社会の柔軟な受け入れや障害への理解の深まりから、保育にもその考えが導入され始めています。
1-1、統合保育の歴史
日本では以前、重度の障害をもつ子どもは就学ができず、自宅や施設で過ごすことが一般的でした。しかし1979年に養護学校が義務化され、障害をもつ子どもも教育を受けられる環境が整えられました。ただ、そのことによって「障害者は専門機関へ」という分離的な意識が明確になってしまったことにもなります。このような教育社会に伴って、統合保育という一つの方法が生まれたと考えられます。
1-2、統合保育の現状
統合保育を実践している園は増加傾向にあるといえますが、その現状はまだ厳しい環境にあるのが実際のところのようです。石岡由紀氏による「統合保育の現状と課題」の中でも実際に、障害児保育の中心となっているのは通園施設などに代表される専門療育機関であり、今だに、障害を理由に、地域の幼稚園・保育所に入園することができないという現状が存在していたり、またその一方、幼稚園・保育所に入園しても適切な保育を受けることができない場合があることなどから、現在の「統合保育」は、まだ、十分に確立したものであるとはいえないのが現状である。(引用:統合保育の現状と課題-神戸市における障害児保育の変を中心にして|石岡由紀)とあります。統合保育がいまだ積極的に浸透されていかない理由として、保育士を加配しなければならないこと、専門知識をもつ職員の配置が必要な場合があることなど、障害児を受け入れるための環境を整えなければならないことにも大きな影響がありそうです。
1-3、統合保育に関する論文
まだ発展途上の段階である統合保育は、保育現場だけでなく障害児への教育を考える学生や専門機関の中でも課題の一つとなっていて、あらゆる観点からの論文で意見が飛び交っています。丸山美和子氏による「障害幼児の「特別なニーズ」に対するケアと統合保育」では、一人一人の障害児のニーズに応じた保育を展開するための条件整備も一定進みつつある。たとえば,障害児保育のために、正規職員の保育者が加配されることの役割は大きい。プレイルームの存在も障害児保育を進めるための重要な要素である。それによって障害児小集団保育実践も可能となっているからである。(引用:障害幼児の「特別なニーズ」に対するケアと統合保育|丸山美和子)とあり、統合保育が少しずつ受け入れられ大きな進展がみられていることを述べています。
それに対し、園山繁樹氏の「障害幼児の統合保育をめぐる課題」には、障害を持つことから多様な特別な保育ニーズが生じてくる。統合保育でそれらすべてに配慮することはもちろんであるがすべてのニーズに応じることができないことも多い。そのため専門療育機関との連携が必要であると強調されているが、その方法は末だ確立されていない。療育の専門家であっても保育に精通しているとは限らず、保育者であっても障害を持つ幼児の保育に精通しているとは限らない。保育者と療育専門家の共同研究が必要である。(引用:障害幼児の統合保育をめぐる課題-状況要因の分析-|園山繁樹)と、現状では療育と保育の統合体勢が整いきれていない現実的な保育現場の様子も伝えています。統合保育の前向きな成果が一部で確認されている一方、今後の新たな環境づくりへの研究や調整が急がれます。
2、統合保育のメリット・デメリット
統合保育を行うにあたり、保育を受ける障害児や健常児、そしてその子どもたちを保育する保育士にとってあらゆるメリットやデメリットが生じます。
2-1、統合保育のメリット
統合保育を行うことで、その環境にいる子どもたちにはたくさんのメリットがあります。まず、前にも述べたように健常児が障害児と日常的にかかわることで、障害に対する理解を深めること、障害者への差別的な意識をなくすことや助け合うことの大切さを実体験していくことができます。さらに、障害児からの視点でもメリットがあります。親や家族以外の大人や同年代の子どもとかかわり社会経験ができること、また周りの友達に影響を受け、心身の大きな成長や障害の改善が見込めます。さらに、障害児の親もつきっきりだった子育ての協力を得ることで不安や疎外感から解放される、働く時間が獲得でき経済面での問題が改善されるなどのメリットがあります。このようにメリットをみると、今後障害者が生活しやすい社会を築き上げていく社会にとって、統合保育はとても重要な役割を果たすことがわかります。
2-2、統合保育のデメリット
メリットに対し、残念ながらデメリットが存在するのも現実です。保育士の目が障害児へ向けられることが多くなり保育の質が下がること、一人孤立してしまう可能性があること、嫌がらせやいじめに遭いやすいこと、そして障害者に必要なスキルを学べないということ。また、保育士は障害者に対する知識がほとんどないことも見過ごせない点といえます。いずれも今後改善の余地はありますが、まだ統合保育が浸透しきれていない保育社会では難しいところです。
3、統合保育での保育士の役割
では、統合保育を行う園での保育士は、専門的な知識や技術がない中どのように保育を進めていけばよいのでしょう。障害と一言でいっても、その重度や種類、必要な援助も一人ひとり違います。ですから、自身が担任する障害をもつ子への理解や知識を深めていく必要性は避けられません。しかし、知識よりも大切なことは、「保育」をするという観点は障害をもっていてももたなくても変わらないということを忘れないこと。保育士としてできることからはじめてみることが大きな一歩になるのです。
横浜市で統合保育を行う「カンガルー統合保育園」で、ある保育士は、「障害があるから、障害がないからではなく、みんな出来ることがあって出来ないことがある、それを助け合うのが社会の姿であり、それを受け止めて支援や指導をしていくのが保育ではないだろうか。そしてその本来の形、統合保育をしているカンガルー統合保育園で働きたいと思ったのです。」と、クラスを受けもった経験をもとに話しています。
4、統合保育における障害児保育
統合保育とはいえ、一概に障害の有無にかかわらずいっしょに遊ばせるという保育では成り立ちません。しっかりとした障害児へのサポート、障害児保育が必要になります。身体的に障害があるこの場合、医療的なケアやリハビリ、食事の補助などを行います。車椅子で過ごすお子さんには、それなりの施設環境も必要になります。同じ行動は難しくとも、できる限り健常児とのかかわりをもつ時間も積極的に設けていきたいものです。自閉症などの発達障害がある子の場合は、逆に集団行動をストレスに感じる、または協調が難しいなどのケースがあります。精神的に安定できる環境づくりや配慮も必要になってくるでしょう。障害児保育において、子どものニーズを理解することは必要不可欠です。療育機関や医師などのアドバイスを参考にしながら保育を進めていきます。
4-1、統合保育とインクルージョンの違い
統合保育とインクルージョンは、よく同じものにされてしまいがちですが少し違った意味合いをもちます。英語で「インテグレージョン」といわれる統合保育は、同じ環境でできる限り障害児と健常児が寄り添った保育を行うという意味合いなのに対し、「インクルージョン」は包括を意味します。完全に保育を統一化、いわば同じ保育を行うこと目的とした保育です。障害者の権限を尊重するうえで、このような保育体制があることはとても重要なことであり、将来的に社会で適応していくことを目標とする障害者にとっても必要な環境です。しかし、その実現はかなり難しく、障害に対しての適切な対応が十分に行えなくなってしまうおそれも指摘されています。
5、統合保育を豊かにする本の活用を
統合保育は今現在もさまざまな研究が進められ、いかに障害児と健常児が支え合えるより良い保育環境をつくっていけるかが考えられています。実際、統合保育の場でも、施設の情報交換の機会を設ける、障害に関する講演や講習を行い保育士が学べる体制をつくるなどの取り組みも行われています。
そのような中で注目したいものが、統合保育をテーマとした書籍です。これまでにないほどたくさんの視点で本が出され、保育について学ぶ保育学生や統合保育の現場で活躍する保育士のサポートにも役立っています。統合保育の中で障害児と健常児がいっしょに楽しめる保育を目指すとき、どういった方法でどのような保育計画を立てていけばよいのか、保育士自身の中でこの課題を解決することはとても難しいことです。以下ではおすすめの本をいくつかご紹介します。
出典元:音楽療法・音あそび: 統合保育・教育現場に応用する/曲集&活動のしかた|下川英子
下川英子氏の音楽療法士の専門的な視点からどの子どもも楽しめる音遊びを提案している本の一つです。
出典元:保育者が知っておきたい発達が気になる子の感覚統合|木村順
木村順氏は、発達障害をもつ子どもへの実践的なアプローチの方法や保育計画の立て方などを具体的に挙げています。
このように、豊かな統合保育は、あらゆる工夫や専門知識のアドバイスから成り立つといっても過言ではありません。また、これから保育に携わる保育士学生や療育学生などの教育現場で活用されている統合保育の著書も一部ご紹介します。
出典元:統合保育で障害児は育つか: 発達保障の実践と制度を考える|茂木俊彦
茂木俊彦氏は著書にて統合保育の在り方や目的、課題などについて詳しく記していて、保育をしていくうえでどのような考え方や知識をもっておくべきかを概説しています
出典元:統合保育の方法論: 相互行動的アプローチ|園山繁樹
園山繁樹氏も同様に、統合保育について障害のあるなしに関わらず、子どもたちと保育者のお互いの行動の在り方について詳しく述べています。
まとめ
障害者への理解や体制が大きく遅れているといわれる日本において、統合保育の発展は、将来を担う子どもたちにとって大切なことです。障害をもつ子ももたない子も、同じような環境の下で楽しめる保育があたりまえになる日は近いかもしれませんね。
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