立ち直る力を持った子どもたちを育てる!2つの自尊感情とレジリエンス(2015/11/17)
教育現場など子どもたちを取り巻く環境の中で「自己肯定感」「自尊心」「自尊感情」「レジリエンス」などの言葉をよく目にするようになりました。子どもたちの日々の成長と切っても切れない関係のこれらの言葉、ちょっと意識するだけで日常的な子どもたちとの関わりが、成長の為の大事なステップへと繋がっていきます。
子どもたちが将来、自分で問題に立ち向かっていくための大切な軸となる自尊感情、そしてそれに支えられているレジリエンス(逆境力)、その形成には乳幼児期の大人との関わりが大きく影響されるといわれています。
今回はそんな自尊感情の形成のために毎日の保育のなかでできるちょっとした工夫のポイントについてご紹介します。
目次
1.2つの自尊感情
臨床心理士の近藤卓氏によると「自尊感情」には2つのものがあり、それぞれ「基本的自尊感情」と「社会的自尊感情」と呼ばれています。
1-1 基本的自尊感情とは
「生まれてきてよかった」「自分には価値がある」「このままでいい」「自分は自分」と思える感情です。他者との比較ではなく、絶対的かつ無条件的で、根源的で永続性のある感情です。
1-2 社会的自尊感情とは
「できることがある」「役に立つ」「社会の中で自分の存在には価値がある」「人より優れている」と思える感情で、他者と比較して得られるもの。相対的、条件的、表面的で際限がなく、一過性の感情です。
1-3 それぞれの自尊感情
基本的自尊感情は自分の中に根付いているもので、周りからの影響を受けることなく維持され続けるものであることに対して、社会的自尊感情は日常生活のなかで褒められたり評価されたりすることで大きくなり、逆に社会的に認められなくなったり、褒めてくれる人がいなくなったりしたらしぼんでしまうものだと言われています。
自尊感情が低いまま大人になってしまうと、周りの人と上手に距離を保って関わりを持つことが難しくなったり、トラブルに直面したときに周囲の人を適切に頼ることができず一人で抱え込んでしまうなどの問題を起こしやすくなってしまいます。
2.「立ち直る」子どもたちを支える、レジリエンス
レジリエンス、という言葉も、自尊感情と同じように近年子どもたちを取り巻く環境の中で目にするようになった言葉です。「逆境力」とも言われるこの言葉、強いストレスを受けたときにもし心が折れてしまっても自力で立ち直ることができる力のことです。
生まれ持った特性ではなく、環境やいろいろなものに影響を受けながら変動していくものだと考えられています。
2-1 レジリエンスを支えるたくさんの要素
レジリエンス=立ち直る力は、根気強さ・熱意・ユーモア・おおらかさ・柔軟性・周囲の愛情・あいまいさに耐える・チームワーク・正義感・創造性・経済的安定・勇敢さ・思慮深さ・リーダーシップ・忍耐力・誠実さ・謙虚さ・親切心・希望・好奇心・楽観性・感情のコントロール・自己効力感…などたくさんの要素が働きかけあって形成されており、その中でも大きな柱とされているのが自尊感情です。それぞれの力が相互に働きかけあって子どもたちの立ち直る力として育まれていきます。
日常生活のなかでストレスを感じているのは大人だけではありません。園や学校でも子どもたちは日々困難に直面し、大小さまざまなストレスにさらされて生活しています。そんな中、つらい経験をしたときにネガティブな感情に押しつぶされてしまうことなく柔軟に対応したり、ポジティブにものごとをとらえ、孤立することなく周囲を上手に頼りながら前向きに逆境を乗り越えていく力は子どもたちの貴重な財産になります。
2-2 立ち直る力を太く支えている、自尊感情
学校でのいじめや不登校が社会的な問題となっている今、乳幼児期に子どもたちがその土台を適切に育めるかは、学童期以降に困難に直面したときに自力で乗り越えていけるかの大きな分岐点となります。自尊感情を乳幼児期にしっかりと自分の中に根付かせている豊かな心を持った子どもたちは、入学してトラブルに直面したときに周りの大人たちを上手に頼りながら問題に立ち向かい、失敗しても自分で立ち直ることができるようになる、その、社会の中で生きていくための大事な力を支えていくのが自尊感情です。
3.日常の中で育むための3つのポイント
2つの自尊感情や立ち直る力は子どもが生まれつき持っているものではありません。親や周りの大人たちとの密接なかかわりあいのなかで育まれていくもの、日常の些細な工夫や配慮という栄養を与えてあげることで子どもたちのなかでどんどん育っていきます。
3-1 体験を共有する
自尊感情の基礎を育てるためにまず必要となるのが、体験を共有することだと言われています。体験といっても目新しいことを改めてスタートさせる必要はなく、日常的な体験を「一緒に」することが重要だと考えられています。
たとえば、一緒に絵本を読むこと、同じ物を食べること。同じテレビ番組を見たり、散歩をしたり。家庭でも保育の中でも、日常的に行われているありきたりのことを「周りの人と一緒に」経験すること。絵本を読んでおもしろいと思った気持ち、花の匂いをかいで「ちょっとクサい」と思った気持ち、そんな、日常の中で湧いてくる色々な感情を大人たちに否定されることなく一緒にその時間を過ごすことで子どもたちは「これでいいんだ」「こう思っていいんだ」「自分はこれでいいんだ」という小さな経験を積み重ねていくことができます。その、小さな「これでいい」の積み重ねが、「自分は自分でいいんだ」「自分のことが好きだ」という基本的自尊感情の土台を作る材料となっていきます。
3-2 大きな結果ではなく小さな結果の積み重ねに目を向ける
共有体験を積み重ねることで得られる基本的自尊感情に対して、社会的自尊感情は周囲から認められることで育まれていくと考えられています。この周りから与えられる栄養は「ほめる」というキーワードで語られることがありますが、子どもたちの成果をどんどんほめてあげればいいわけではありません。
周囲の大人がわかりやすい結果にばかり目を向けてしまうと、子どもたちは「結果を出せないとダメだ」と考えるようになってしまいます。小さな子どもたちはわかりやすい結果につい注目しがちです。いちばんになった、だれより早かった、と気にしやすい子どもたちですが、そこだけに注目してしまうと目に見える結果を出せない子どもたちは自信を失い、取り組む意欲も失ってしまいます。
子どもたちをよく観察していると、本人も気づいていないような小さな頑張りがそこにあることはよくあります。靴を履くのが昨日よりちょっと早かった、お片づけの工夫ができていた、ごあいさつの声が昨日より大きかった、そんな、昨日の自分よりちょっとよくできていたこと、ちょっと頑張っていたところ、そこに目を向け、がんばりを言葉にしてあげることで子どもたちは「できた」という経験を積み重ね、自分の自信へと繋げていくことができます。
大きな跳び箱を用意して飛べた子だけほめるのではなく、その子にあった高さの跳び箱を用意して、がんばって取り組んだ、小さくても飛べた、という経験の積み重ね、そしてそれを周りが認めてくれることで心の土台がどんどん育っていきます。
3-3 「見る」ことで伝える
子どもたちの感情や小さな頑張りを「それでいいんだよ」「がんばってるね」と認めたりほめたりすること、つい言葉に出して言わないとと色々と考えてしまうかもしれません。でも、大事なのは言葉だけではありません。
慌ただしい日常のなかでつい忘れがちになってしまうのが「見る」ことの効果です。
子どもたちが何かに取り組んでいるとき、顔を上げチラッとこちらを見ることがあります。しんどさや不安やめんどくささと一生懸命戦う子どもたちにとって、その一瞬で得たいもの、それは「大人の目」です。
チラッとこちらを見た子どもと目を合わせ、何を言うでもなく心の中で「それでいいんだよ」と思っているとまた子どもたちは自分の作業に戻っていきます。目が合うことで「大丈夫だよ」「このままでいいんだよ」という大人からのメッセージを受け取ったこどもたちは「自分は大丈夫だ」と今の自分を肯定的にとらえ、自信を持って作業に取り組むことができます。
たくさんの言葉をかけなくても、大人がしっかりと見つめることとだけで子どもたちは自分たちの今を「これでいいんだ」と前向きにとらえ、自分のなかの心の土台をしっかりと築いていくことができる、その力をこどもたちはみんなそれぞれ持っています。
4.おわりに
自尊感情という1つの柱を、乳幼児期にしっかりと育んでおくこと。日常のなかの細やかな活動の一つ一つを大事に一緒に過ごし、感情や行動を肯定的にとらえて心の土台を育てるお手伝いをしてあげること。
そうやって心の中に強い土台を築いた子どもたちは、逆境に立ち向かう力を身につけ、さまざまな環境からのストレスに耐え、もし心が折れてしまっても自分で立ち直ることができる。
しっかりとしたレジリエンスを身につけた学童へと育つための大事な柱、自尊感情。それは、乳幼児期に子どもたちと密接に関わる大人たちが子どもに与えて上げられる最大のプレゼントかもしれません。
http://matome.naver.jp/odai/2141196789013086601 http://www.kknews.co.jp/kenko/kodomokokoro/110319_4a.html
4児の母。育児や教育、PTA関連など子どもを取り巻く様々な問題や家族のありかたについてTwitterやブログで発信している。共著に『#アホ男子母死亡かるた』
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