アセチルコリンエステラーゼとは?働きや阻害薬の作用も解説!(2021/05/06)
日本の高齢化が急速に進行することに伴い、認知症患者、特にアルツハイマー型認知症の患者が増えています。アルツハイマー型認知症の治療に用いられる薬剤が、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬です。
アセチルコリンエステラーゼはアルツハイマー病の治療を理解する上では非常に重要なものになります。
アセチルコリンエステラーゼの基礎知識や働き、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬について説明していきます。
目次
1、アセチルコリンエステラーゼとは
アセチルコリンエステラーゼ(Acetylcholinesterase=AChE)は、神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する働きを持つ酵素です。真正コリンエステラーゼと呼ばれることもあります。
厳密には、コリンエステラーゼには「アセチルコリンエステラーゼ」と「ブチリルコリンエステラーゼ(偽コリンエステラーゼ=BuChE)」の2種類がありますが、コリンエステラーゼ=アセチルコリンエステラーゼの意味で使われることも少なくありません。
アセチルコリンエステラーゼは、神経細胞と筋肉細胞の間にあるシナプスや赤血球等に含まれています。
副交感神経が興奮すると、アセチルコリンエステラーゼはアセチルコリンをコリンと酢酸に分解します。
そして、アセチルコリンエステラーゼ自体はアセチル化(有機化合物の中にアセチル基(-COCH3)が導入されること)して、活性を失います。しかし、わずか数ミリ秒後には脱アセチル化が起こって、再び活性を取り戻します。
このアセチルコリンエステラーゼは、非常に素早い反応速度を持っていることが特徴で、1分子当たり約80マイクロ秒でアセチルコリンを分解します。体内にあるたくさんの酵素の中でも、この反応速度は最速の部類になります。
2、アセチルコリンエステラーゼの働き
アセチルコリンエステラーゼの働きは、アセチルコリンをコリンと酢酸に分解することです。このアセチルコリンエステラーゼの働きをもう少し詳しく説明していきます。
2-1、アセチルコリンとは
アセチルコリンエステラーゼに分解されるアセチルコリンは、神経伝達物質です。
アセチルコリンは、副交感神経や運動神経の末端から分泌され、骨格筋や内臓平滑筋に存在します。そして、筋肉の収縮の促進したり、副交感神経を刺激して心拍数の低下・唾液の分泌などを促進する働きがあります。
また、中枢神経系でもアセチルコリンは神経伝達物質として働いています。特に、脳の前脳基底部にあるコリン作動性神経は、感覚・認知・運動・記憶・学習などに関係しています。
脳内のアセチルコリンが減少すると、アルツハイマー病や自律神経失調症の原因になることが分かっています。逆にアセチルコリンがドーパミンに比べて相対的に増加すると、パーキンソン病の症状が強くなります。
2-2、アセチルコリンエステラーゼの働きは神経伝達物質の整理整頓
アセチルコリンは神経伝達物質です。アセチルコリンは神経からの信号を伝え終わると、アセチルコリンエステラーゼによってコリンと酢酸に分解されます。
もし、アセチルコリンが役割を終わった後も、その場に存在し続けたら、後から信号を伝達するためにやってきたアセチルコリンとごちゃごちゃになってしまいます。
だから、役割が終わったアセチルコリンをアセチルコリンエステラーゼが素早く分解して、必要なものと用済みなものを整理整頓しているのです。
3、アセチルコリンエステラーゼの阻害薬
神経伝達物質であるアセチルコリンが減少することは、アルツハイマー病につながります。ということは、脳内のアセチルコリンを減らさなければ、アルツハイマー病の治療になります。
アセチルコリンを減らさないためには、アセチルコリン自体を増やすよりも、それを分解するアセチルコリンエステラーゼの働きを阻害する必要があります。
なぜなら、アセチルコリンエステラーゼは分解後に一度不活性化しても、わずか数ミリ秒で再び活性化するので、アセチルコリンを増やしてもどんどん分解されてしまうのです。
それなら、アセチルコリンエステラーゼの働きを阻害した方が、アセチルコリンを効果的に増やすことができます。
そのメカニズムを用いてアルツハイマー病の治療薬として開発されたのが、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬です。
引用:認知症に使うお薬について(認知症特集)~佐藤病院(精神科・内科)栃木県矢板市
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、アルツハイマー病の治療のほか、次のような疾患の治療薬としても用いられます。
・重症筋無力症
・緑内障
・レビー小体型認知症
・パーキンソン病
・抗コリン薬中毒の解毒剤
3-1、アルツハイマー病でのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬
現在、アルツハイマー病の治療に使われているアセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、以下の3つがあります。
・ドネペジル(商品名:アリセプト)
・ガランタミン(商品名:レミニール)
・リバスチグミン(商品名:リバスタッチパッチ、イクセロンパッチ)
この3つのアルツハイマー病でのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の特徴を一覧表で見てみましょう。
ドネペジル | ガランタミン | リバスチグミン | |
商品名 | アリセプト | レミニール | リバスタッチパッチ
イクセロンパッチ |
適応 | 軽度~高度 | 軽度~中等度 | 軽度~中等度 |
用法 | 1日1回 | 1日2回 | 1日1回 |
薬剤の形状 | 錠剤、OD錠、ゼリー、細粒 | 錠剤、OD錠、内用液 | パッチ剤 |
副作用 | 消化器症状 | 消化器症状 | 消化器症状
皮膚症状 |
作用機序 | アセチルコリンエステラーゼ阻害 | アセチルコリンエステラーゼ阻害
ブチリルコリンエステラーゼ阻害 |
アセチルコリンエステラーゼ阻害
ニコチン受容体増強作用 |
それぞれ、適応・用法・薬剤の形状が違うことが分かります。ドネペジル(アリセプト)は一番幅広く使えるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬ですが、だからと言って、一番良いアルツハイマー病治療薬というわけではありません。
この3種のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の効果を比較した実験があります。1)
それによると、中等症のアルツハイマー病患者にドネペジルとリバスチグミンを2年間使った実験では、リバスチグミンの方が日常生活動作・全般機能の改善が見られました。
ドネペジルとガランタミンの52週に及ぶ比較実験では、ガランタミンの方が認知機能維持効果が高いことが分かっています。しかし、ドネペジルとガランタミンを比較した別の実験では、ドネペジルの方が高い効果を示したものもあります。
そのため、3種のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の中でどれが一番優れているのかは断言できず、その患者さんの症状・状況を見て、最も適切なものを選択しなければいけません。
まとめ
アセチルコリンエステラーゼの働きや阻害薬などを説明してきました。アセチルコリンエステラーゼは重要な役割を果たす酵素ですが、アルツハイマー病などではアセチルコリンエステラーゼの働きを阻害することで、症状の進行を抑えることが可能です。
ガランタミンとリバスチグミンは2011年に日本で承認された比較的新しい薬剤ですが、今後も新しいアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が開発されて、アルツハイマー病の治療が進むことを期待します。
参考文献
1)北村伸「4.アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」日本生物学的精神医学会誌 22 巻 4 号
・アセチルコリン、アミノ酸・ペプチド系神経伝達物質|名城大学薬学部
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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