入浴の看護|入浴の目的と目標、看護計画・手順においての注意点(2017/02/06)
入浴は、多くの人にとって幼少のころから身についた習慣で、清潔を保つという物理的な作用と、「リフレッシュする」などの精神的な作用も大きく、生活の中の楽しみの一つになっています。ただ、入浴を看護の一環として見た場合は、特に呼吸器と循環器系に大きな影響を及ぼす活動のため、「楽しみ」という感覚では取り組めません。ここでは、入浴の効果や目的、実際に看護に当たる際の注意点と手順、また、患者の清潔を保つための入浴以外の看護、援助についても少し説明します。
目次
1、看護における入浴の目的と効果
入浴をはじめとした清潔援助の一番の目的は、体の清潔を保つことです。清潔が保たれれば病原性、非病原性の細菌数が減少し、感染のリスクを軽減できます。
しかし、清潔を保つこと以外にも次のような多くの効果が期待され、それらも目的に加えることができます。
1-1、代謝の促進
入浴する事で、体の物質代謝を促進するいくつかの作用が期待できます。まず、湯につかると体の静水圧が上昇します。また、湯の温熱効果で体が温まります。さらに「洗う」「拭く」という行為にはマッサージ効果があります。それらにより血液の循環が促され、細胞への栄養、酸素供給が活発になるため、物質代謝が活発になるのです。リンパ流も促進されるため、静脈血流促進との相乗効果で、むくみの軽減にも効果があります。
1-2、浮力が関節運動を生み出す
湯につかると浮力により体が軽くなるため、関節運動がしやすくなります。筋萎縮や関節拘縮の防止、運動機能の維持と向上につながります。関節を動かす筋力がない患者なども他動的な関節運動がしやすくなります。
1-3、睡眠促進効果
皮膚血管拡張により深部体温が下がり、そのことが睡眠を深く、睡眠時間を長くすることにつながると言われています。
1-4、心理・社会的効果
体を清潔に保つことで爽快感がもたらされ、活動意欲が高まるなど社会的な効果も期待されます。
2、入浴看護の実態
次は、入浴看護の注意点と、さらに実際の入浴方法を、時系列に添って説明します。ここでの入浴には、入浴とシャワー浴を含めます。
2-1、注意点
入浴・シャワー浴で注意が必要なのは、呼吸器、循環器系への影響です。入浴とシャワー浴を比べた場合では、シャワー浴の方が「静水圧による新肺への影響が少ない」「エネルギーの消耗を抑えられる」などのメリットがあります。
入浴動作のそれぞれに際して起きる呼吸器、循環器系の変化と、その要因を列記します。
(1)脱衣=血圧が上昇します。脱衣所の気温は一般に低く、体が急激に冷やされて交感神経が優位になるためです。
(2)かけ湯=かけ湯を省略すると血圧が上昇します。急激な温度変化で交感神経が優位になるためです。
(3)浴槽につかること
■適温の場合
血圧が下がります。温熱作用が副交感神経を刺激するのと、末梢血管が拡張するためです。適温は38~40度程度とされます。
■高温の場合
血圧が上がります。温熱作用が交感神経を刺激するのと、末梢神経が収縮するためです。
■浴槽につかること全般1
循環血液量が減ります。発汗のためです。
■浴槽につかること全般2
血圧が上がります。静水圧には血圧を上げる力があります。特に水深の深い場所にある下肢に高い静水圧がかかります。心配出量も上がります。循環動態が不安定な人や高血圧の人は、半身浴にして負担を軽減するなどの工夫が必要です。
■浴槽につかること全般3
静水圧により、呼吸数が増えます。腹部と胸郭の圧迫によるものです。
(4)浴槽から出ること=心肺出量が低下し、血圧も下がります。目眩が起きたり、失神したりする事もあります。静水圧が急激に消失するためです。
(5)着衣=血圧が上がります。脱衣所の気温は一般に低いためです。拭きとりが不十分なため体温が下がる事もあります。
出典:健常高齢者の入浴前指標を用いた入浴中循環変動の予測(四国大学紀要)
また、次の場合は入浴・シャワー浴を避ける必要があります。
・ 発熱
・ 呼吸困難
・ 心疾患急性期
・ 200mmHg異常の高血圧
・ 出血性疾患
・ 重症貧血
・ 脳卒中直後
・ 化学療法などによる極端な体力低下状態
・ 易感染状態にある場合
清潔に保つ必要がありながらも浴槽につかれない場合や、エネルギー消耗が懸念される場合は、シャワー浴とします。
2-2、プライバシーについて
入浴看護では、患者のプライバシーに対する注意も大切です。ドアやカーテンをしめて行うことは最低限必要です。目的部位以外をタオルなどで覆うことも必要に応じて行います。
2-3、実際の方法
入浴看護の実際の方法について、事前に確認すべきこと、使用物品、活動の具体的内容などを、時系列に添って説明します。
(1)評価
■病態の事前評価
「2-1」の(1)~(5)で挙げた注意点、「2-2」の禁忌についてしっかりと事前確認します。患者の病態に応じたリスクを予測し、できる限り回避する方法を選択する必要があります。
■入浴の動作にまつわる評価
入浴の動作についてどのような援助が必要か、事前に確認する必要があります。主な項目は次の通りです。
・ 浴室までの移動
・ 浴槽への出入り
・ 浴槽内での姿勢保持
・ 身体洗浄の際の姿勢保持
・ 関節可動域
必要に応じて補助具を使用します。全面介助が必要な場合は特殊浴槽を使います。
・皮膚状態の評価
適切な洗浄剤を選ぶために皮膚の状態を評価します。前回の入浴との間隔、においや発汗から皮膚の汚染を評価します。
(2)使用物品の用意
主な使用物品は次の通りです。
石鹸などの皮膚洗浄剤、タオル、バスタオル、着替え、保湿剤
必要に応じて、滑り止めマット、シャワーチェアー、バスボード、浴槽用手すりなども用意します。
出典:幸和製作所 シャワーチェア
出典:安心介護 バスボード
(3)患者への説明
必要性と効果、実際の方法、患者に求められることなどを、事前に丁寧に説明する必要があります。
(4)実施方法
実際の入浴看護の方法を時勢列に添って説明します。
・室温調整
脱衣室と浴室の温度は22~24度とします。特に冬は、脱衣室と浴室の温度差が大きくなりがちなため注意します。シャワー浴の場合は、温水が当たっていない部分は冷えることを考慮した温度設定が必要です。
・移動
患者の状態や施設のスペースなどを考慮して、独歩、介助歩行、車いす、ベッド、ストレッチャーなどの方法からベストなものを選択します。浴室内でのシャワーチェアーへの移動方法なども検討します。
また、浴室内では、床に敷く滑り止めマット、手すり、浴槽をまたぐ際の補助になるバスボードなどを積極的に利用します。
・脱衣
臥位、座位のままでの脱衣など患者の都合を優先して行います。
・移乗
シャワーチェアーや特殊浴槽への移乗が必要な場合もあります。自力移乗が難しい場合は、移動用マットなどを使用します。
・浴槽に入る前
シャワーチェアーなどに腰をかけ、安定した状態を保ちながら、足先から湯をかけます。湯の温度に少しずつ慣れる行程で、急激な温度変化による交感神経への刺激を低減するものです。
・入浴する
必要に応じて手すりやバスボードを用います。静水圧による心負荷を避けたい場合は、浴槽台を使用したり、湯量を少なくしたりして対応します。
・洗浄する
皮膚の状態や洗浄剤の特徴を考慮して、洗浄剤を選びます。よく泡立ててから洗浄します。皮膚と皮膚が接する部分は、洗い残しがないように伸展させて洗浄します。
・拭きとる
浴室を出たら速やかに行います。皮膚が接する部分は、拭き残しがないよう注意します。拭き残しがあると、気化熱で体温が低下します。
・着衣
清潔な衣服を用意します。
・スキンケア
乳液やクリームなどを用いて、皮膚をマッサージしながら保湿します。
・水分補給
水、茶、スポーツドリンクなどで水分を補給します。入浴後は、温熱作用による発汗と不感蒸泄の増加で水分が喪失するためです。
2-4、実施中と後の評価と記録
評価と記録を残すことは、治療を含めた以後の作業を効率化する意味でも重要です。主な項目を列記します。
・ 患者のプライバシーに対する配慮は十分だったか
・ 保温は十分だったか
・ 皮膚の状態を含めた清潔状態を改善できたか
・ 患者の気分は改善したか
・ 入浴前後のバイタルサインに変化はないか
3、その他の清潔援助について
入浴・シャワー浴は清潔援助活動の一つとされ、関連活動は、ほかにも多数あります。それらの特徴についてまとめます。
・ 全身清拭
全身清拭は、温タオルで体を拭いて汚れを取り除くことです。呼吸器、循環器への影響が少ないため、それらに障害のある患者に対して行われます。
・ 洗髪
頭皮の汚れを除去することです。清潔を保つことと、爽快感を得てもらうこと、外観を保つことが目的です。
入浴・シャワー浴と併せて行うことが困難な患者向けに、独立して行う方法が確率されています。ケリーパッド、洗髪車、洗髪台などの器具を使ったり、清拭で行ったりする方法もあります。
・ 手浴
指先から手首までをお湯につけて洗うことです。ベッドサイドで行います。手は汚れが付着しやすい部位です。さまざまな理由で、自力でできない場合に援助します。
・ 足浴とフットケア
足先、足首、ふくらはぎ周辺までをお湯につけて洗う事です。ベッドサイドで行います。フットケアは足の爪切りやマッサージを指します。
・ 陰部洗浄
なんらかの理由、入浴時や排泄時に陰部の洗浄を行えない患者向けに、それらを援助する事です。トイレとベッド上で行う方法があります。
・ 洗面
なんらかの理由で、自力で洗面を行えない患者向けに、それらを援助する事です。浴室、洗面所、ベッド上で行う方法があります。
・ 眼・耳・鼻の清潔
外の世界からの刺激を仲介する眼、耳、鼻の清潔と感度を保つためのものです。なんらかの理由で、自力で行えない患者向けに、全身清拭の際や、朝夕に定期的に行います。
・ 整容
整髪、ひげそりほかの身だしなみ全般に対する援助を指します。なんらかの理由で、自力で行えない患者向けに行います。
・ 口腔ケア
歯磨きなど口腔内の汚れを除去することです。なんらかの理由で、自力で行えない患者向けに行います。
まとめ
入浴・シャワーをはじめとした清潔の援助は、治療目的であり、人間らしさを保つためのものでもあります。本来であれば、自分自身で楽しみという要素を含めながら行える行為です。看護する側には、危険を回避しつつ、患者の人としての尊厳をきちんと守るよう意識して取り組んでもらいたいです。
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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