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看護におけるエンパワメントの定義(意味)と向上のポイント(2016/03/09)

公開日: : 最終更新日:2017/12/09 看護用語 東京都 全科共通 

エンパワメント看護

看護師の仕事はなにも、検査の介助や合併症の予防、生活援助などの直接的な看護だけではなく、患者の精神的な援助も重要な役割の一つです。

エンパワメントを向上させることができれば、患者の早期離床に大きく貢献でき、また退院後の安楽な生活に寄与できるため、エンパワメント向上に向けた取り組みを、積極的に行っていく必要があります。

 

1、エンパワメントとは

エンパワメントとは、人々に夢や希望、勇気を与え、その人が本来持っている力を湧き出させることを言います。看護におけるエンパワメントは、患者が持つ力(生きる力や健康促進への力)を看護師が湧き出させるよう援助することを言います。

従来では、看護師が主導権を握った援助が一般的でしたが、今では患者自身が自己の力で問題を解決していくという、いわゆる患者も医療に参加する立場にあるという考え方が主流となっています。

特に退院後の服薬や食事・運動制限などは患者本人に自主的に行うものであり、治療や健康増進におけるセルフマネジメントができない状態では、意欲の低下がみられると継続的に実施することができません。

そこで、看護師の目が離れた場合でも患者自身が自主的に、そして積極的に治療や健康増進を行っていけるよう、環境の整備や知識・技術の提供を通して患者が設定した目標を達成できるよう援助する、つまり患者が持つ本来の力を発揮できるよう、セルフマネジメント力が高まるよう援助していくことが、看護師が行うべきエンパワメント向上に向けた取り組みなのです。

 

2、エンパワメントの原則

患者のエンパワメント向上を支援するためには、まず原則を知っておく必要があります。これはエンパワメント実現に向けた過程で必ず不可欠な事項ですので、しっかり把握しておきましょう。

 

エンパワメントの原則

  • 目標を患者が選択すること
  • 行動の主導権・決定権は患者が持つこと
  • 問題点・解決策は患者自身で考えること
  • 新たな学びと、より力をつける機会として患者自身が失敗や成功を分析すること
  • 行動変容(※1)のために内的な強化因子を患者と看護師の両者で発見し増強すること
  • 問題解決の過程に患者の参加を促し、個人の責任を高めること
  • 問題解決の過程を支えるネットワークと資源を充実させること
  • 患者の幸福(身体的・精神的・社会的に良好な状態)に対する意欲を高めること

※1 行動変容とは、「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」から成る行動過程のこと。

 

このように、患者が主体となって実行できるよう、看護師は補佐的に援助を行います。

看護におけるエンパワメントは、患者本人が看護師に頼らず自分自身の力だけで健康促進・治療過程を実行していけるよう援助することが目的であるため、あくまで看護師は傾聴や共感、信頼関係の構築などにより、患者自身が問題点・解決策の考案、目標設定、継続的な実施に対する意欲向上などを補佐的に援助する必要があります。

 

3、エンパワメントの支援設計

上記の原則をもとに、患者が自主的かつ意欲的に行動できるよう、「問題の特定」「感情の明確化」「目標の設定」「計画の立案」「結果の評価」という5つの過程を遂行するための支援を行うことで、患者のエンパワメントの向上を図ることができます。

①問題の特定 行動を実施する上で、また継続的に行動する上での問題点を特定する。看護師は「傾聴」や「共感」の姿勢で良い聞き手となって、患者が抱える(抱えるであろう)問題を導き出し特定していく。
②感情の明確化 行動を実施する上で必要となるセルフマネジメント力を高めるために、何に対して否定的な感情を持っているのか、何に対して肯定的な感情を持っているのかを、患者自身が自己認識できるようコミュニケーションを通して導き出す。
③目標の設定 問題解決に向けた行動を円滑かつ継続的に行うためには目標の設定が重要である。目標は可能な範囲で設定し、容易なものから段階的に最終目標へと繋がるよう、短期目標・長期目標を設定する。看護師はあくまで患者自身の目標設定を補佐的に援助し、最終決定は患者に委ねること。
④計画の立案 行動の実施・問題解決のために、どのような過程を踏むのかについてのアクションプランを立てる。看護師はあくまで補佐的に援助し、計画の立案を勧めず、患者自身が計画の実施可能性や正当性を判断し立案できるよう援助すること。
⑤結果の評価 結果を評価することで次点の目標達成に向けた意欲向上を図ることができる。何が出来て何が出来なかったかを正しく自己評価できるよう、看護師が評価法を教授し、実践するよう促すこと。

 

4、信頼関係の構築

支援設計の過程を遂行するにあたり、最も重要となるのが患者と看護師間の信頼関係の構築です。信頼関係が築かれれば患者の意欲が高まり、看護師の目が離れた場合においても自主的に継続的に行動を実施することができます。いわゆる、“支援者が常に寄り添っている”という状況化に置くことが大切なのです。

そのためには、患者が医療従事者の指示に対して意欲的に遵守する「アドヒアランス」の向上を図ることがポイントで、患者が抱える身体的・精神的・社会的問題における疑心や不信感などを払拭するために、患者自身が行うべき服薬・食事・運動・休養などについて正確かつ詳細に説明することが不可欠です。

また、患者のアセスメントをしっかり行い、心理的状況などを正しく把握した上で、問題解決に向けた継続的な行動を補佐的に援助することが求められます。

これらを達成するためには、患者が看護師を信用・信頼しているかがポイントとなるため、まずはコミュニケーションや知識の提供などを通して信頼の獲得を図ってください。

看護コミュニケーションの目的と意義、信頼獲得のための術

 

まとめ

従来では、看護師が主導権を握り、患者の問題解決に関わるという関係性が一般的でしたが、今では患者自身が自己の力(潜在能力)を最大限に発揮できるよう補佐的に援助する、エンパワメントの考え方が主流となっており、自己の状況をコントロールできないことで起こる“無力感”が健康や病気からの回復に悪影響を及ぼすという研究結果が示され、これによりエンパワメントの考え方が広まりました。

エンパワメントは患者の治療や健康促進において非常に有効な考え方ですが、実際には向上させるのは容易ではありません。

しかしながら、信頼関係を構築できればより容易に向上させることができるため、まずはしっかりアセスメントを行うとともに、コミュニケーションや知識の提供を通して信頼獲得を図り、原則に従った上で、支援設計の5つの過程を患者が1つ1つ実施できるよう献身的な態度でゆっくり支援していきましょう。

山岸愛梨 看護師

東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。

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