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看護研究(論文)のテーマの決定法と効果的な書き方(2015/12/16)

公開日: : 最終更新日:2021/11/25 お役立ち 東京都 全科共通 

看護研究

どのように看護研究を進めたらいいのか、どのように論文を書けば良いのかなど、初めての方は特に試行錯誤を繰り返すことでしょう。特に論文の執筆においては、学術的な形式に沿って読者にとって分かりやすい研究内容を示さなければいけないため、非常に難しく多くの時間を必要とします。

ここでは、悩める医療関係者のために、看護研究の論文の形式や書き方のポイントなど、包括的に詳しく解説していますので、ぜひ参考になさってください。

 

1、看護研究とは

看護研究は、看護学における研究・発表のための活動であり、調査・実験を経て、科学的根拠に基づいた研究成果を医療関係者ならびに一般人に公表し、より良い看護実践のための知識・理論の習得や、看護全体における質の向上を図るなどの目的で実施されています。

看護の分野において多大な功績をあげたイギリスの看護教育学者、フローレンス・ナイチンゲールが中心となって1800年代に看護研究の重要性を説き、現在までさまざまな研究がなされてきましたが、医療技術の発展が著しい昨今、看護研究の重要性はますます高まっています。

なお、看護研究の具体的な目的は以下の挙げる4項目です。中でも、実践に際する看護の質の向上が最も期待される目的と言えるでしょう。

≪目的≫

・より良い看護実践のための知識や理論を手に入れること。

・研究によって得られた知識や理論を、看護実践に活かし、看護の質を高める。

・専門職としての看護師の資質の向上を図る。

・看護を学問として確立させ、看護学に社会性を持たせる。

 

2、看護研究の構成

研究結果の構成は、投稿する学術誌によって異なることが多いものの、基本的には「テーマ」「序論」「方法」「結果」「考察」「要約」「文献」という骨組みの中で記載していきます。また、以下のように、それぞれの骨組みに対して、多くの項目があり、これらが一体となって論文が完成します。

テーマ(タイトル)

・誰にどんな目的で何を明らかにしたのか

序論

・背景:対象者の特徴、現状、社会情勢

・動機:なぜ研究をしようと思ったのか

・意義:研究する理由、研究のメリット

・文献検討:先行研究がどこまで進んで、どこがまだか

・研究目的:研究疑問に合わせて何を明らかにするか

方法

・対象者:対象者の条件、事例紹介

・データ収集:データの収集方法、項目の作成方法

・分析方法:データをまとめた具体的な分析方法

・研究期間:データを収集した期間

・倫理的配慮:対象者の権利擁護、実施した安全確保の対策

結果

・対象者:性別や年齢など基本属性、対象者数

・分析の結果:図や表をもとにした分かりやすい分析結果

考察

・結果までの内容の概略を示す

・結果の解釈や私的・個人的な意見

・先行文献との比較

・結果からみる今後の課題

要約

・研究で明らかになったことを簡潔にまとめる

文献

・本文で引用した文献のリスト

 

3、看護研究の書き方

上記の構成をもとにして、どのように書けばよいのか、項目ごとにポイントや注意点などをご紹介します。看護研究は、医療関係者はもちろん一般の人にも分かるよう、内容を明確にし、特に研究の中心となる「方法」と「結果」は充実した内容でなければいけません。

 

≪全体の注意点≫

・研究が科学的根拠に基づいていること。

内容が薄い、または根拠に欠ける研究は論外です。必ず、根拠に基づいた研究内容でなければいけません。

・用語を統一し使用すること。

類似用語、たとえば「看護ケア」とすれば「ケア」「看護援助」「看護支援」など、類似用語を用いず、「看護ケア」と統一して記述してください。

・構成が遵守されていること。

独自性を考慮するため、すべてを遵守する必要はありませんが、“ある程度”構成を守って執筆する必要があります。

 

3-1、テーマ(タイトル)

テーマは看護研究における柱であり、読まれるかどうかが、ここで決まると言っても過言ではありません。それゆえ、以下のようなポイントを抑えてテーマを決定する必要があります。

・内容を的確に示すこと

・重要なキーワードを含めること

・なるべく簡潔であること

・読者の興味をそそること

なお、テーマを決定する際に、「~について」「~に関する研究」という表現は論文においてあまり相応しくありません。それゆえ、「~が心身に及ぼす効果」「~に関連する要因」「~と~との比較」「~の重要性の認識」など、内容に沿った的確かつ具体性を持った末文にし、研究において重要なるキーワードを必ず入れるようにしてください。

 

≪テーマの例≫

統合失調症患者のセルフスティグマが自尊感情に与える影響

・地域の虚弱高齢者における純音聴力ときこえの自己評価の関係

精神科における患者・看護師関係形成に向けた介入尺度の開発

・塩を用いた足浴が睡眠脳波および体温・自律神経活動に及ぼす影響

尿失禁を有する高齢者の尿意の訴えに基づいた排尿援助の効果

・“否認”という無意識の患者心理理解における看護師の思考過程の分析

・使用後紙おむつの臭気に対する発酵資材の消臭効果の検討

・精神看護学実習における「学び」の内容分析と看護過程の有効性

 

3-2、序論

序論では、一般的に「はじめ」と項目立て、研究の背景や動機、意義、目的など、実施した研究の重要性や仮説を示します。序論は、読者が読み進めるかを決定する重要な項目であるため、魅力的な内容になるよう心がけて書いていきましょう。

項目 注意点/ポイント
背景 ・文章を論理的に構成すること

・背景となる事項を目標や論点に関連づけること

動機 ・研究者本人の問題意識を明確にすること

・仮説となる事項を明確に示し、目的に関連づけること

意義 ・専門外の者が読んでも研究の意義が伝わる内容であること

・この研究を行うことの重要性を説得的に述べること

・研究する理由やメリットを明確に述べること

文献検討 ・文献検索の方法(データベース名・キーワード・年代など)や結果を簡潔にまとめること

・関連分野の主要な先行文献を引用すること

・先行文献を適切に要約すること

・これまでに何が分かっていて、何が分かっていないのかを明確に述べること

研究目的 ・この研究が、どのような新しい知見を加えるか明確に述べること

・目的・仮説が論理的に飛躍・矛盾なく提示すること

・研究の実行範囲を具体的に絞り込むこと

・誰を対象に、何を、どのように調べれば良いかが読み取れる内容にすること

序論を魅力的な内容にするために最も重要となるのが「動機」と「研究目的」です。読者がまず目を通すのが当2項であり、“なぜこの研究が必要なのか”、“どのような効果が期待できるのか”を明確に示すことが大切です。

 

3-3、方法

方法では、対象者、データ収集方法、分析方法、研究機関、倫理的配慮などを記述しますが、科学的根拠に基づいていない場合や、実施した内容が乏しい場合は論外です。必ず、根拠に基づいた十分なデータをとった後に、執筆に移らなければいけません。

項目 注意点/ポイント
対象者 ・研究対象となるものを明確に定義すること

・対象者の選定を研究目的に合致させること

・対象者数の算定根拠を明確に示すこと

データ収集方法 ・質的・量的研究などデザインの名称を明記すること

・その研究デザインを研究目的に合致させること

・収集するデータの内容(測定項目など)を明記すること

・そのデータを収集することを研究目的に合致させること

・質問紙の様式など、必要な資料を添付すること

分析方法

 

・収集されたデータの量や性質に即した分析方法を用いること

・分析方法が仮説の可否を検討する上で適切であること

・研究の妥当性(有効度・正確度)や再現性を具体的に評価すること

研究機関

 

・データを誰がどこでどのように収集したかを明記すること

・選定した研究機関を研究目的と合致させること

・データ収集の開始・終了時期、その期間の長さを適切に記述すること

倫理的配慮

 

・どのような倫理的問題が想定されるかを正しく記述すること

・倫理的問題の発生を回避するための適切な方策を述べること

・万が一、倫理的問題が発生した場合に講ずるべき対処法を述べること

・同意書の様式など、必要な資料を添付すること

方法で最も重要となるのが「データ収集方法」と「分析方法」です。当項目を執筆する際、研究者本人は具体的なデータを収集し分析しているため、まとまりが悪く読解が困難であっても理解できますが、読者は初見であるため、必ず読者にとって分かりやすくなくてはいけません。

なお、「データ収集方法」には、質問紙法、面接法、観察法、実験法などがあり、「分析方法」には、量的分析、質的分析などがあります。

 

≪データ収集方法≫

・質問紙法

対象者の心の状態や変化を、アンケートによって直接捉える方法。費用が安価で容易に実践できるものの、調査時における対象者の心の問題や考え方が反映されるため、時として“本音”を聞き出せないというデメリットが存在します。また、的確なデータ収集のためには膨大な数の対象者が必要になります。

・面接法

質問を通して対象者の心の内面を調べる方法。回収率が高く回答漏れが少ないため質の高いデータを収集できるものの、時間や費用コストがかかったり、対象者の確認ができるため、対象者にとってマイナスとなる質問に対して“本音”を聞き出せないといったデメリットがあります。

・観察法

対象者の行動(発言、態度・表情・姿勢、目に見える動作など)を観察・記録する方法。対象者に負荷がかからず、コストが安い割に膨大なデータを収集することができますが、観察内容の解釈に個人差があるため、正確性に欠ける可能性があります。

・実験法

AはBにどのような効果をもたらすのか、AによってBが起こるのではないか、といった因果関係の仮説を検証するための方法。正確性が高く、先行研究の蓄積を促進できるため、実験法は多くの研究で実施されています。ただし、検証の状況設定が明確でなければ、正確性に欠ける、または実践に応用できないデータになってしまうため、入念な準備が必要です。それに伴い時間や費用コストがかかります。

 

≪分析方法≫

・量的分析

数字で表した統計データを分析する方法。量的分析には、名義尺度(男女・血液型など)、順序尺度(悪化・不変・改善などの判定)、間隔尺度(温度、湿度、知能指数などの数値差)、比例尺度(身長・体重、血圧などの数値差、数値比)があります。

・質的分析

書き言葉、話し言葉、写真、絵、ビデオ、音楽など数量によって客観的に評価することが難しいデータを分析する方法。通常、仮説の検証ではなく仮説の生成を目的として行われ、主観的な意味内容に焦点を当てて分析します。

 

3-4、結果

項目 注意点/ポイント
研究結果 ・対象者の基本属性(性別や年齢)、対象者数を明記すること

・データ分析の結果を図や表を用いて(あれば)分かりやすく記述すること

・実際に回収できたデータ数とデータとして使用できる数(有効回答数)を示すこと

・統計解析結果(検定値、統計的確率など)を細かく明示すること

結果は論文での柱となる項目であるため、研究から分かったことを具体的に示さなければいけません。図や表などを用いる場合は、それらのみで構成するのではなく、文章でしっかりと示し、また、主観的ではなく客観的なデータを提示してください。

 

3-5、考察

項目 注意点/ポイント
研究の考察 ・仮説の立証や論点にどう決着をつけたかを議論すること

・研究目的に対する結果と仮説を踏まえ、効果や今後の対策を記述すること

・先行研究の成果もふまえて結果を解釈すること

論文の上で最もミスを犯してしまいがちなのが「考察」です。「結果」と「考察」の区別がつかず、結果で示さなければいけない内容が「考察」にも記述されているというのがミスの一例です。たとえば、「結果」に量的な集計結果が図表で載せてあり、「考察」に図表にのりきれなかった自由回答を紹介している場合です。

「考察」は、“考えて察る(しる・みる)”というように、結果から分かったことを(結果の範囲内で)、“主観的”な視点で論じ、結果から生じた問題点をもとに今後の課題を提示します。なお、「考察」で重要となる事項は以下の3つです。

・結果の解釈

仮説(予想)どおりの結果になったか、なぜそのような結果になったと考えられるか、などを記述します。過度な推測や断言は推奨されず、また、結果で記述していないことを当項で触れてはいけません。

・結果がもたらす貢献度

当項では、結果が理論や実践の改善にどのように役立つのか、または研究の限界を記述します。単に「~は~に有効である」というように薄い内容にならないよう、臨床現場において“実践的”かつ“具体的”な内容を心掛けてください。

・結果から生じた問題点と今後の課題

仮説(予想)と同様の結果とならなかった理由は何か、欠点は何か、といった問題点や、それらを踏まえた今後の課題を提示します。なお、研究方法の限界についても述べておきましょう。

 

3-6、要約

項目 注意点/ポイント
研究の要約 ・研究内容を包括的かつ端的に述べること

・研究目的と目標を簡潔に説明すること

・方法、結果(箇条書き)、結論、意義を簡潔に記述すること

読者にとって「要約」は「序論」の次に目を通すところであり、ここで読む価値があるか判断します。それゆえ、報告の全編を滞りなく端的かつ分かりやすく記述することが大切です。

理想的な「要約」は、「序論」で提起した問題を一言で解決することです。長々と記述せず、端的にまとめましょう。

 

3-7、文献

項目 注意点/ポイント
参照文献 ・第三者が文献にあたるのに必要な情報を漏れなく記述すること

・(学術雑誌を特定する場合)投稿規程に定められた形式に合致させること

当項での注意点は、参照した文献をすべて示すことのみです。それゆえ、記述に際してそれほど心配することはないでしょう。先行研究などを参照して、形式に沿った形で記述してください。

 

4、執筆に際するポイント

執筆にあたって特に重要となるポイントは3つあります。これら3つのポイントは必ず抑えておきましょう。

 

①魅力的な内容に

執筆に際して、特に気をつけなければいけないのが、“魅力的な”内容であるかということです。確かに、論文の構成を守ることも大切ですが、それよりも、読者にとって読みやすく、臨床において“実践的な”内容であることが重要視されます。

 

②読む順番を理解する

読者の多くは、「序論」→「要約」→「方法または結果」→「結果または方法」→「考察」→「文献」という順番であり、必ずしも上から下に読み進めるというわけではない、ということを覚えておきましょう。それゆえ、まずは「序論」と「要約」の項目を具体的かつ明確に記述することを心掛けてください。

 

③さまざまな論文を多読する

参照する先行研究はもちろん、領域外の論文も数多く目を通しておきましょう。そうすることで、適切な構成が分かったり、魅力的な文の書き方が分かってきます。多読なくして質の高い論文を書くことは不可能と言っても過言ではないため、行き詰っている方は時間を割いてでも、さまざまな論文を読んで、書き方を学びましょう。

 

5、先行研究の文献検索

文献を検索せずに研究に着手するのは「研究倫理」に反すると言われています。というのも、すでに同様の研究が実施されている可能性があり、同様の研究を行うことで研究対象者に無用な負担をかけてしまうことになりかねないからです。

それゆえ、研究に着手する前に、かならず同様の研究がなされていないか文献を検索する必要があります。

なお、先行研究の検索には、

①日本看護研究学会

日本看護協会

CiNii

④MedicalFinder

などを活用しましょう。

 

6、日本看護研究学会

最後に、論文と関わりの深い日本看護研究学会を簡単にご紹介します。日本看護研究学会は、看護学の教育、研究および進歩発展に寄与することを目的に設立され、具体的には以下に挙げる様々な事業の目的を達成するために運営されています。

 

≪目的≫

①学術集会の開催

②学会誌の発行

③学術講演会の開催

④奨学会事業

⑤学会賞・奨励賞事業

⑥研究倫理に関する啓発事業

⑦国際活動推進事業

⑧公開講座等の社会貢献事業

⑨関係学術団体との連絡、提携

⑩その他本法人の目的を達成するために必要な事業

 

≪会費≫

・入会金:3000円

・年会費:8000円

 

≪入会するメリット≫

・学術集会の参加費用が割安になる

・研究発表や論文投稿が可能

・学術の動向がわかる

・メール配信により本会の情報を受け取れる

 

入会に際して、評議会の推薦が必要です。それゆえ、誰でも入会できるわけではありませんが、入会することにより、上記のような様々なメリットがあるため、看護研究者はもちろん、学術に関して興味のある方や、さらなる知識の習得を望んでいる方は、入会することをお勧めします。

 

まとめ

看護研究の論文制作は、初めての方にとっては非常に困難なものです。しかしながら、多くの論文を読むことで、自然と書き方やポイントなどが分かってきます。論文を読む時間が長ければ長いほど、質の高い論文を制作することができ、さらに自身の知識習得にも繋がります。

看護研究は、今後の医療技術の発展を担う、重要な役割を持っており、多くの医療関係者が参考にするものであるため、質の高い論文を制作するために、まずは時間を費やし、書き方のポイントや注意点を完璧に理解した上で、完成へ向けて取り組んでください。また、見直しや校正も入念に行いましょう。

山岸愛梨 看護師

東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。

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