乳児保育の重要性と指導案|保育士の役割と課題、教科書やレポートの紹介(2017/03/21)
近年、「働くお母さん」が増えてきていることなどから、乳児保育の需要はどんどん増してきています。本来なら家庭で育児をしている乳児期を、代わりに保育者が代行するのでその責任と重要性はとても大きなものとなってきています。
乳児保育とは何か、その歴史をこれから振り返っていくと共に、乳児保育の目指すところについてもまとめていきたいと思います。乳児保育の重要性について学んでいく際に、参考にしてみてください。
目次
1、乳児保育(0歳・未満児)とは
乳児保育とは、0~2歳児を預かる保育のことを指します。乳児は法的には0歳児のことを示しているので、別名「ゼロ歳児保育」とも呼ばれています。近年の女性の社会進出などの背景からすぐに復職しなければならない方たちからの需要が年々増えてきています。
保育者の仕事としては、食事、排泄、着替えの世話など通常家庭で行うような乳児の世話の代行をします。0歳から2歳は人間として自分のことを自分で出来るようになっていく「保育の原点」ともいえる非常に重要な時期なので、乳児たちが安心して一日を過ごしていけるような環境作りを家庭と同様に保育園でも行っていくことが必要となってきます。
1-1、乳児保育(0歳・未満児)の歴史
日本の乳児保育の始まりは、明治23年に赤澤夫妻が設立した私塾静修学校(現:赤沢保育園)です。その後、日清戦争や日露戦争が始まり、工場内に託児施設が作られていきました。
そして、明治33年に華族女学校付属幼稚園に勤務していた野口幽香と森島美根によって貧困子女の為に双葉保育園が設立されました。戦争により保護を失った乳幼児の救済の為に、民間でも保育所作りが進んでいき、明治41年に政府内務省は民間の保育事業に感化救済事業として、補助金を出すようになりました。徐々に都市部を中心に保育所は増えていき、昭和初期には100所を超えるようになっていきました。
1-2、男性保育士の誕生
昭和23年に児童福祉法が制定され、それを受け正式に保育園は児童福祉施設と法的な施設であることが認められたのです。この頃はまだ保育士ではなく「保母」という名称で呼ばれ、その名の通り保母の資格を持つ殆どが女性でした。昭和60年に男女雇用機会均等法が制定され、ジェンダーフリーの考え方も浸透し始めたことにより、男性保母も増えていきました。(その際は俗称「保父」でしたが、正式書類には保母と記載されていました。)
平成11年に、男女雇用機会均等法が改正されたことをきっかけに、保育士が正式名称となりました。そして、平成15年の児童福祉法改正で保育士資格が国家資格となっていったのです。
1-3、乳児保育(0歳・未満児)の課題
核家族化が進む中で、家族の在り方が変わってきているとされています。また、自然環境が減りつつある中で、のびのびと屋外でめいっぱい遊ぶことも難しくなってきています。そういった背景から、地域での交流も減ってきて、家庭での育児機能が低下してきていることが懸念されます。
そんな子どもと親を地域が支援していく為にも、保育専門職としての知識・技術・経験を重ねていき、0歳から2歳という一生のうちで最も関わりが大切とされる時期を保護者と共に乳児の成長を支えていくことが求められています。その為にも、保育士の質の向上も重要となってくるので、研修などを通じて保育内容や指導方法、保育士の質向上などを図っていく必要があります。
また、現代は情報過多と言われるほど様々な情報に溢れ、どの情報を信じたらいいのか分からず、育児に自信が持てない保護者も増えてきています。そういった保護者の気持ちにも寄り添い、共に解決していけるようなサポート力も求められてきます。
2、乳児保育(0歳・未満児)の重要性
乳児保育で一番重要とされることは安心感を乳児たちに提供していくことです。女性の社会進出などに伴い、家庭での育児が難しい場合は、家庭で得られるはずの安心感を保育園で整えていくことが求められます。そうすることにより、子どもは情緒的に安定し、心身の発達へと繋がっていくのです。
また、日本保育協会の乳幼児期の「保育所保育の必要性」に関する研究によると、0歳からの子育てに必要な情報と関わり方を保護者に提供することで、親子の適切な関わりが確立し、子どもの健やかな成長を促し、本来の子育ての目的である「社会に貢献できる人間」を育み育てることができるとしています。
2-1、乳児保育(0歳・未満児)の指導案
乳児保育の指導案は、まず乳児保育のねらいである、安心できる保育環境の下、乳児が信頼出来る保育者と生活を送りながら、心身の発達を図っていくことを第一とします。園庭や近辺の公園に散歩に出るなど、四季の変化に触れてみることで、保育者と共に新たな発見や喜びを共有していけるようになるでしょう。何かを発見して保育者に声を掛けたり指差しで教えたなら、「飛行機飛んでるね」「お花キレイだね」など応答することにより愛着関係やコミュニケーション能力を育んでいくことが期待されます。
また、1歳や2歳になってくると友達への関心も出てくるので、0歳児と同様保育者との関わりを大切にしながら、友達と共に体験し共有するといった活動を取り入れていくといいでしょう。
2-2、乳児保育(0歳・未満児)のレポート
乳児保育の体験レポートで興味深いものがありました。臨床心理を学ぶ大学院生の乳児保育体験でのレポートです。
臨床心理士が子どもに対して行う心理療法はプレイセラピーなどがありますが、子どもが表現することを瞬間的に察知し理解していく必要があります。実際に乳児と接してみて、何も出来ない無力な存在であると思っていた乳児が、想像以上に意思を持ち伝える力があったことに驚きを感じました。逆に、何をしても泣き止まないなどの体験から、かわいいだけではなく大変だというマイナスイメージに変化した学生も半数いました。
しかし、それら全部を含めて一人の人間として乳児の個々を尊重する気持ちが生まれ、ありのままを受け止めていけるよう変わっていったという意見が過半数です。
2-3、乳児保育(0歳・未満児)~保育者の役割~
0~2歳児は一生のうちで最も心と身体が成長発達する重要な時期です。この時期に、安心できる環境があるかどうかで、健全な心を築いていけるかが決まります。1日の殆どを保育園で過ごす乳児たちにとっては、日常生活で与える影響は母親以上とも言われているので、母親に代わり保育者が乳児たちに安心感を与えていかなくてはいけません。
乳児にも様々な個性があるので、日頃からよく一人ひとりを観察してそれぞれのことをよく知り、今何を求めているかを見極め、可能な限り乳児の気持ちに寄り添えるようにしていくのが保育者の役割であると言えます。
3、乳児保育~手作りおもちゃと遊び~
乳児期は専用のおもちゃがなくても身の回りのものを自ら触って観察しながら楽しむことが出来ます。従って、身近にあるアイテムで、安全に配慮しながらおもちゃを作ってあげるのもオススメです。
出典:筆者私物
例えば、卵のパックにガシャポンのカプセルトイのプラケースを入れてビニールテープなどで閉じ、マラカスのように音を楽しむのも楽しいです。他にも、ペットボトルに水を入れてラメやビー玉、ビーズなどを入れ洗濯のりを少し入れるとゆったりと中のおもちゃが動く様子が楽しめて、乳児も喜びます。他にも乳児の為の手作りおもちゃの本も出版されているので、是非参考にしてみてください。
出典:0・1・2歳児のたのしい手作りおもちゃ(チャイルド本社 2015/11/27)
発達に合わせたかわいくて楽しい手作りおもちゃのアイディアが52通り紹介されています。表紙の写真からも伝わる通り、ファンシーな作品が多く優しい雰囲気のおもちゃが作成出来ます。
また、この遊びで子どもが育つポイントなども解説されているので、非常に使いやすい一冊です。
出典:PriPri0・1・2歳児の手作りおもちゃ: からだとこころを育てる(世界文化社 2011/10)
保育誌PriPriの別冊で出ている手作りおもちゃアイディア集です。年齢に合わせた発達段階のおもちゃを紹介しています。
布をはじめ、牛乳パック、ペットボトル、画用紙など身近なもので作れるのが人気です。付属の型紙をコピーすれば作れるので、工作が苦手でも安心して製作出来ます。
4、乳児保育(0歳・未満児)~担当制~
厚生労働省による保育所保育指針では、特定の保育士による愛情深い関わりが、基本的な信頼関係の形成に重要であることを認識し、担当制を取り入れることが乳児保育の理想であるとしています。子どもが示す様々な欲求に応え、身近にいる特定の保育士が適切かつ積極的に働きかけることにより、子どもと保育士との間に情緒的な絆が形成される。これは対人関係の第一歩であり、自分を受け入れ、人を愛し、信頼する力へと発展していくとされているので、乳児保育においては通常の家庭での育児で母親と赤ちゃんが日々の世話などから愛着関係を築いていくのと同様に、保育者と乳児も特定の保育士が関わることによって愛着関係を築いていくことが重要となってくるようです。
日本保育協会による保育所における低年齢児の保育に関する調査研究報告書をによると、保育園にいる時間が11時間を越える子も多くなっていて、職員の勤務体制からすると特定の保育者が関わるというのは不可能に近いけれど、「乳児保育の担当制を可能な限り実施している」という保育園がパーセンタイル的には一番多く、乳児保育の担当制を重視している保育園が増えてきているというのが伺えます。
5、乳児保育(0歳・未満児)~教科書・本~
ここでは乳児保育について書かれた本を紹介していきます。
出典:乳児保育の基本(フレーベル館 2007/12)
教育学・脳科学・発達行動学・小児科学などあらゆる角度から乳児保育を捉えた内容となっています。第一線の研究者や実践者がイラスト・写真・図版などを使用して分かりやすく説明しているので、乳児保育の基本を学びたい時の入門書とも言える一冊となっています。
出典:0・1・2歳児の担任になったら読む本 育ちの理解と指導計画(小学館 2014/2/25)
実際の園で使われているカリキュラムを基に監修の今井和子先生が精査したので信頼性がとても強い内容となっています。「自我の芽生え」、「だだこね」など、キーワードを挙げ、それに対する大人のかかわり方などを分かりやすくまとめています。
出典:乳児保育―一人ひとりが大切に育てられるために(エイデル研究所 2002/8)
子どもの発達に合わせた配慮と援助を分かりやすく写真と共に紹介しています。指導案を作成する時などにオススメと一冊です。
5-1、一人ひとりを大切に
「一人ひとりを大切にする保育」を目指している保育園が今、とても増えてきています。子ども一人ひとりと、特に相手が乳児である場合は尚の事、向き合って、ありのままの姿を受け止めて、共感して、信頼関係を築いていくことが大切とされます。個人によって成長の差もまだ大きい時期なので、そのことを踏まえて、一人ひとりの成長発達具合を知りながら、その子に適した声掛けや働きかけが適切に行われていくよう、きめ細かい対応が求められてくるのです。
そうすることによって、自分は大切にされる存在なのだということを知り、自己肯定感を築いていくことが出来ると考えられます。
6、乳児保育(0歳・未満児)~シラバス~
乳児保育のシラバスについては、乳児保育における保育の計画の論文を参考に見ていきます。
保育は、「生活があり、生活から遊びが生まれ、遊びから学ぶ」 ことの連続の毎日といえるので、遊びの質をいかに高めるかということが重要となってきます。また、乳児期・幼児期の生活と児童期の生活にある時間・空間の使い方の違い、特に生活の見通しの差は大きいと考えられるので、一日の流れが掴めるようなカリキュラムが必要となってきます。
このカリキュラムが、保育所保育指針 十一章による、保育所は、第 1章(総則)に示された保育の目標を達成するために、保育の基本となる「保育課程」を編成するとともに、これを具体化した「指導計画」を作成しなければならないという、「指導計画」に当たるとされます。指導計画は見通しを持って保育をする為の、保育者の「見通し」と「ねらい」を表したもので、年間カリキュラムから始まり、週案、日案と細かく設定していきます。
乳児保育の指導計画につきましては、「2-1、乳児保育の指導案」の項目を参照ください。
7、乳児保育(0歳・未満児)の研修
乳児保育の研修は様々なところで行われていて、日本保育協会や地域の保育会、社会福祉協議会、大学などでも研修が開催されていて、乳児保育に対する注目も大きくなってきていると言えます。
具体的な研修内容は、保育士として、乳児保育の意義や乳児の発達特性を理解し、保育所並びに個人の乳児保育の実践力を高めることなどをねらいに、子どもの発達理解を踏まえた保育の計画・記録のあり方を学習したり、保育園などでの事故防止などのスキルアップが期待できる内容となっています。
まとめ
「待機児童問題」が出てくるなど、今は女性の社会進出であったり、様々な就業体型、家庭環境などから、乳児保育の需要が増えてきています。0歳から2歳までの時期は、一生の中でも特に目覚しい発達を遂げる時期であり、またその時期に安定した保護者、もしくは保育者との関わりがあるかどうかで健全な心を築いていけるかが決まるとも言われているので、乳児保育を担当する責任の大きさを再認識しつつ、より質の良い保育内容、保育環境を乳児たちに提供していけるかが重要となってきます。
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