園外保育のマニュアル|指導案の配慮点・意味とおたよりの作成方法(2017/04/05)
厚生労働省の定める保育所保育指針の第五章の中で
『保育中の事故防止のために、子どもの心身の状態等を踏まえつつ、保育所内外の安全点検に協力の下に安全指導を行うこと』
と記されているように、保育においては保育所内だけでなく、施設外での活動も前提となっていることがわかります。ただ、子どもたちを連れて施設外に出るということは、リスクも高くなるということです。そこでなぜ施設外での活動が必要なのか、配慮点は何かをしっかり捉えた上で、園外保育に臨みましょう。
1、園外保育とは何を指すのか
園外保育とは施設外での保育のことなので、行事として企画される遠足だけでなく、散歩などの日常的な活動も含みます。そのため、全く園外保育を実施していない保育園は少ないのではないでしょうか。ですが、日常活動に組み込まれている園外保育にも意義があることを忘れてはいけません。「なぜ行うのか」という点を意識し、有意義な園外保育にしてください。
1−1、園外保育の意味と指導案作成時の留意点
園外保育には、行事的なものと日常的なものがあるため、分けて考える必要があります。
■行事としての園外保育(遠足など)
『親と離れ友達や先生と一緒に見学し、本物に触れたり、見たりする中で、五感で、物事の真理を感じ取る』
(引用:ソニー幼児教育支援プログラム 保育実践事例)というねらいの元に科学館や水族館へ行く、あるいは
『日頃から地域やみんなのために一生懸命働く方へ「ありがとう」の気持ちを持とう』『消防の仕事に興味・関心を持とう』
(引用:みかづき幼稚園)というねらいから消防署の見学に行くなど、行事として組み込む際は、園外保育に意味を持たせやすいでしょう。日頃見たり聞いたりしているものの「本物」に触れられる点が、遠足などの大きな良さです。また、公共の施設や乗り物を活用する場合は、決まりやルールを守ることも意識できます。指導案を作成する際には、ねらいや活動設定の理由の他に、何時に何をするか、その際の持ち物は何か、という点を細かく検討しておきましょう。お弁当が必要な場合は事前に保護者へ伝えるといった下準備も必要となります。
■日常活動としての園外保育(散歩など)
保育所保育指針解説書の中で
『子どもは、散歩などの機会に地域の人と挨拶を交わしたり、地域の高齢者施設などを訪れたりする中で、人への関心を深め、人は周囲の人と関 わり、支え合いながら生きていることに気付いていきます。』『散歩に出かけて自然と触れ合 う機会を作ったりして、身近な動植物や自然事象に子どもが接する機会を多く持つようにしていくことが大切です』
と記されているように、散歩の持つ意味は大きいです。遠出をする場合と異なり、日常的に散歩をする中では「地域」を意識することができますし、動植物や自然など、身近なものを捉え直す機会とすることもできます。
散歩においての指導案を作成する際には、年齢に応じて安全指導も組み込みたいところです。急に走ったり道路に飛び出したりしない、信号を見る、横断歩道は手を挙げて渡るなど、保育者が気をつけるだけでなく、子どもたちにいかに安全指導を行うか、という点も日常活動の中で意識しましょう。
1−2、園外保育のマニュアル作成
森氏(1らの調査によると、園外保育のマニュアル化について『ほとんどの項目で、手順として定まっているが明文化されていないという園が多かった』という結果が出ているようです。地震や落雷など緊急時の対応だけでなく、世田谷区立保育園園外保育安全マニュアルのように、園外保育の目的や定義に始まり、交通手段や引率体制の基準、実施基準や実施手順などのきめ細かいマニュアルがあると、保育者が準備しやすいだけでなく、保護者も安心できるでしょう。特に散歩など近場での園外保育の場合は、マニュアルを確認することで、園外ならではの緊張感を持った保育へとつなげることができるのではないでしょうか。
(出典:園外保育における安全確保体制に関する研究)
1−3、園外保育時の配慮点
園外保育時は安全管理を始めとして、配慮すべき箇所が多くあります。場所選定の時点から気を配り、安全な園外保育となるようにしましょう。
■事前準備
まず、園外保育時のねらいに合わせて、適切な距離の場所を選定します。距離だけでなく、保育者の目は行き届くか、混雑度はどうか、という視点でのチェックも行い、行き先を決めてください。行き先を決めたら、必ず下見に行きましょう。ルートに危険はないか、お弁当を食べるスペースをどこにするか、トイレはあるのか等、確認すべき項目はいくつもあります。団体で行く場合は事前に申し込みが必要な施設もあるので、問い合わせておくと安心です。また、遠足の場合は事前に保護者へお知らせをしておくことも大切です。子どもを預けている保護者にとって、「自分の子どもが今どこにいるか分からない」というのはとても不安です。あらかじめ「この日は○○へ行き、こういうスケジュールで活動し、園に戻ってくるのは▲▲時頃です」といった内容を伝えておきましょう。
■移動中
歩ける子の場合は、保育者あるいは友だち同士で手をつないで歩くようにします。この時保育者は車道側を歩くようにして、急な飛び出しなどに備えてください。長い道のりの場合は、途中で休憩を挟むなどの工夫も必要になります。夏場は熱中病対策として、こまめな水分補給をさせたり、帽子をかぶらせたりしましょう。歩けない子の場合は、無理に歩かせず、バギーに乗せて連れて行くなどの工夫をしてください。
また、地域との関わり方も大切です。道で行き交った地域の方に保育者が挨拶をする、公共交通機関のマナーをきちんと守る、という指導は、社会性を育むことにもつながります。
■目的地到着後
まずは点呼をとり、全員いることを確認しましょう。それからトイレに行く時は保育者に声をかけて一緒に行く、危険な場所や保育者の見えないところには行かない、など目的地でのルールを確認します。固定遊具の安全性や危険物が落ちていないかどうかのチェックも怠らないようにしてください。自由時間は、保育者の配置に気をつけましょう。全体を見渡せる場所と危険な区域には必ず一人ずつ付くようにします。あとは子どもたちの動きに応じて、保育者も臨機応変に動いていきます。様子を見て声かけをし、子どもたちがより多くの刺激や感動を得られるようにしてあげてください。
2、園外保育に関するおたより
日常的な散歩の場合は必須ではありませんが、遠足などの場合は保護者に安心してもらうため、園外保育前におたよりを発行します。どういうところで活動し、何時に帰ってくるかというスケジュールに加え、必要な持ち物があれば合わせて記載します。
また、園外保育後にも子どもたちの様子を記したおたよりを発行すると良いでしょう。子どもたちの話だけだと、どういう活動をしたのかよくわからない保護者もいるはずです。家での会話のきっかけ作りにもつながるでしょう。できれば写真なども入れて、より見やすくわかりやすいおたよりとなるようにしてください。ただ、写真を使用する際は事前に個人情報の利用許可をとっておく必要があるので気をつけましょう。紙媒体のおたよりも良いですし、写真などをたくさん使う場合はホームページやブログを活用するのも良いですね。ぶどうの木幼稚園、石嶺保育園など多くの園で活動報告がされているので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
まとめ
園外保育は、事前準備や安全管理など、保育者にとっては大きな負担となる活動です。けれど、子どもたちにとってはとても楽しみな活動の1つですし、園内での保育に比べてたくさんの刺激や感動を味わうことのできる貴重な機会となります。ぜひ安全で実りある園外保育を実施してください。
参考文献
(1園外保育における安全確保体制に関する研究(森俊之|2013)
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