インフォームドコンセント7つのポイントと看護師の役割(2019/07/22)
1、インフォームドコンセント とは
インフォームドコンセントは、直訳すると「説明と同意」ですが、言い換えると「今はこのような状態であって、これからこのような治療をする予定ですよ」という病院側からの病状説明を患者・家族が受け、その治療方針に納得して同意を示すことです。
患者・家族には「知る権利」があり、医療従事者側には「説明する義務」があります。しかし、難しい医療用語や専門的な内容になればなるほど、一般人が理解するのは難しくなります。誤解している医療従事者も少なからずいるのですが、一方的に医療者側が病状を説明して書類にサインをもらっても、本来インフォームドコンセントを行ったことにはなりません。説明とは、受け取る側が内容を理解して、初めて説明したことになるのです。
また、これから自分達はこのような治療を行う予定なのか、他の選択肢の存在も含めて伝えた上で承諾を得なくては、同意を得たことになりません。治療方法を一つしか説明されなければ、一般人である患者・家族はそれに従うしかありません。ですから、複数の治療方法が存在するときには、それぞれのメリット・デメリット、他の医療機関への転院の必要性なども含めて説明する必要があります。
ではここで、インフォームドコンセントで病院側に求められる説明をまとめてみましょう。
<最低でもこれだけは説明しておきたい!7つのポイント>
①現在の病状
②今後の見通し ③どのような治療方法があるのか ④各治療方法のメリット、リスク ⑤その中で、これから自分達が行おうとしている治療方針は何か ⑥治療費の概算 ⑦最低でも必要な入院期間 |
これらは、あらかじめ医師が説明すべき内容を書面に用意しておくケースもあれば、複写式の用紙にその場で手書きをして手渡すケースもあります。説明したあとは、本人もしくは家族に署名をしてもらい、同じものを病院側と家族側で保管します。
大切なことは、インフォームドコンセントはただ一方的に病状と治療方針を説明し、患者・家族から同意書を受け取ることが目的ではないということ。今でこそインフォームドコンセントは患者・家族のためとなりつつありますが、過去に日本の医療現場で行われてきた「承諾書」というのは、現代とは違った意味がありました。北里大学の客員教授である唄孝一氏は、昭和の時代に手術や治療に対する承諾書を交わす意味は、下の2つだったと述べています。
①治療費や手術費用の支払いを承諾するもの
②どんなことが起こっても医者は責任をとりませんということをあらかじめ患者にわからせておくもの
事実、昔の手術の承諾書には「いかなることが生じても一切責任を負うまじく候」といった文言が入っていたと唄孝一氏は述べています。これは、どんな過失があっても医者の責任を問わないことを約束させるもので、インフォームドコンセントやセカンドオピニオンといった概念のなかった過去には、患者に選択の余地はありませんでした。現代でも治療費の承諾は必要ですが、インフォームドコンセントは治療方針を自分で決めるという「人権」に重きをおくものです。
医療従事者は、インフォームドコンセントは医師や病院側の義務を果たしたという自己防衛ではなく、患者・家族がどんな治療を受けるか自分達が主体で決める基本的人権が根底にあることを理解していなくてはなりません。
実際の医療現場では、なかなか医師がその都度丁寧な説明ができないこともあります。高齢者や認知症・精神疾患患者や救急対応時など、十分な説明と同意を得ることができないケースや、治療後に事後承諾となってしまうことも珍しくありません。しかし、どんなときでも患者・家族に選択を促すためにおこなうのがインフォームドコンセントの本来の姿であることは、覚えておかなくてはなりませんね。
2、インフォームドコンセント 看護師の役割
結論を先に述べてしまうと、インフォームドコンセントの場における看護師の役割は、「患者・家族が医師の説明を十分に理解した上で、治療方法を自己決定する過程をサポートすること」にあります。そのためにも、可能な限り看護師も同席するようにしたいもの。なぜなら、インフォームドコンセントはソーシャルワーカーやケアマネージャー・リハビリなどコメディカルを交え、説明ではなくてベストな治療方針を話し合うことも必要になるからです。
それらコメディカルとの橋渡しや、インフォームドコンセントの場に誰を収集するべきかといったメンバーの選定や連絡調整・場所の確保も、看護師の重要な役割となります。
<インフォームド・コンセントは、誰が参加するもの?>
・患者
・家族(代理人や成年後見人を含む) ・医師 ・看護師 ・リハビリ(PT/OT/ST) ・ソーシャルワーカー ・ケアマネージャー ・医事課 ・施設職員 ・医療連携室 など |
看護師は、後日患者・家族が治療においてどのようにとらえているかフォローするように心がけましょう。説明や理解が十分でないと判断した場合には、再度話し合いの場を設けたり補足説明を医師に依頼したり、間に入って看護師が説明することもあります。また、その場では医師を目の前にしているため素直に同意してサインをしてしまったけれど、あとから考えて考えが変わることや、他の親族から別の治療方法や転院などを勧められるといったケースもよくあります。
検討の末、もし別の医療機関での治療が必要となった場合には、医療連携室や転院先の医療機関との連絡調整、医師・看護師・リハビリなどそれぞれの診断書やサマリーの用意、移動手段の確保など様々な調整が必要となります。
3、インフォームドコンセント 看護記録
インフォームドコンセントは人権だけではなく、法的にも非常に重要です。患者・家族が説明された内容を十分に理解していないことがありますし、治療に伴うリスクや他の選択肢の説明を受けていなかった場合には治療結果いかんで、訴訟問題となることもあります。
患者・家族からの不信感は治療の結果ではなく、そのプロセスに原因が潜んでいることが多いものです。その都度病状や治療による効果や反応を患者・家族に説明していること、誠意を持った対応をしていたかで、同じ治療結果であってもその後の関係性が大きく変わります。インフォームドコンセントで説明した内容は、時として法的な問題がからむこともあります。その場合、言った・言わないではなく、説明内容や家族から同意を得たことを証明するものが必要になります。
しかし、医師がその場で説明内容や患者からの反応を事細かに記載することは、現実的に困難。そのため、同席している看護師がその内容を記録することで、医療従事者側・患者側のどちらに対しても、公平な記録を残すことができるのです。
また、看護師が記録を残すことは、同席していない他の看護師やコメディカルも情報を共有することができるようになります。忙しい業務の間に話し合いの場に参加することは、現実的には難しいこともあります。しかし、看護師が同席することによって医療従事者全体が情報を共有できるようにすることで患者・家族の意思決定を促すことにつながるため、看護師の記録は非常に重要な意味を持っているのです。
高齢社会に突入した日本では、患者のみならず患者・家族の高齢化も進んでいます。医療が進歩して専門性が強くなる中で、難しい医師の説明をしっかりと理解して自ら治療方針を選択できるようにサポートすることが、看護師には一層求められますね。
参考文献
・インフォームドコンセントと倫理(日本看護協会)
・「インフォームド・コンセントの現状と課題」(医療安全推進者ネットワーク|唄孝一)
東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。
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