胃潰瘍の看護|胃潰瘍の原因、症状、治療・薬と看護問題、看護過程(2017/05/10)
胃潰瘍とは胃の粘膜に潰瘍ができてしまう疾患で、胃の防御機能が低下したところにピロリ菌やNSAIDなどの要因が加わると発症しやすくなります。
胃潰瘍の基礎知識や原因、症状、治療・薬、看護問題や看護過程をまとめました。胃潰瘍の患者の看護をする時の参考にしてください。
1、胃潰瘍とは
胃潰瘍とは、胃の粘膜や組織が傷ついた状態のことです。
出典:胃潰瘍 | 東京日野市 森末クリニック公式ページ
胃の粘膜は強酸性の胃液が分泌されても傷つかないような防御機構によって守られています。この防御機構のバランスが崩れると、胃の粘膜は傷つき炎症を起こして、潰瘍ができてしまうのです。
胃潰瘍は潰瘍の深さによって、4つに分類されます。
・Ⅰ度=粘膜層のみが欠損
・Ⅱ度=粘膜下層まで達している
・Ⅲ度=固有筋層まで達している
・Ⅳ度=漿膜にまで達している
Ⅰ度の粘膜層のみの傷はびらんであり、Ⅱ~Ⅳ度が潰瘍と呼びます。Ⅳ度は潰瘍がさらに悪化すると、漿膜下層を突き破って、穿孔することもあります。
2、胃潰瘍の原因
胃潰瘍の原因は、ピロリ菌やNSAIDです。この2つの原因に加えて、胃の防御機構が弱まることで胃潰瘍は発症します。
■ヘリコバクター・ピロリ菌
胃潰瘍の患者の70~80%に、ヘリコバクター・ピロリ菌が生息していることがわかっています。ピロリ菌は胃の中の尿素からアンモニアを作って、自分の周りの胃酸を中和させることで、強酸性の中でも生存できるようにしていますが、このアンモニアが胃の粘膜を傷つけるのです。
ピロリ菌が出す毒素も胃の粘膜を傷つけますし、ピロリ菌が胃に生息することで、活性酸素が増ますが、この活性酸素も胃の粘膜は傷つける原因になります。
ピロリ菌に感染しているだけで、胃の粘膜は傷つきやすくなりますので、胃潰瘍の発症リスクが上がるのです。
■NSAID
非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)も胃潰瘍の原因の1つです。ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が陰性だった胃潰瘍患者の40~70%がこのNSAIDが原因と言われています。
NSAIDはプロスタグランジンの合成を抑えることで、炎症を抑制します。ただ、プロスタグランジンの量が低下すると、胃の粘膜の血流が低下しますので、胃の粘膜に異常が起こり、胃潰瘍を発症しやすくなると考えられています。
また、抗凝固剤である低用量アスピリンも胃潰瘍を発症するリスクが高い薬剤になります。
■胃の防御機能の低下
ピロリ菌の感染かNSAIDの服薬のどちらか一方の原因があり、さらに胃の防御機能が低下すると、さらに胃潰瘍の発症リスクは上がります。
通常は、胃の攻撃因子と防御因子のバランスが保たれているので、胃液が強酸性でも胃の粘膜が傷つくことはありません。
攻撃因子は胃酸です。胃酸は、消化酵素として消化を助けてくれる一方で、強酸性のために胃の粘膜を傷つけてしまいます。
一方で、胃の粘膜は粘膜を守る粘液を分泌したり、傷ついた粘膜細胞をすぐに修復することで、胃の粘膜を胃酸から守っているのです。これが、防御因子ですね。
健康な状態では、この攻撃因子と防御因子のバランスが保たれているので、胃の粘膜が傷つくことはありません。
でも、何らかの原因でこのバランスが崩れて、胃酸の分泌が多くなる、または粘膜を守る粘液が少なくなる、胃の粘膜の修復が遅れるなどで、攻撃因子>防御因子になってしまうと、胃の粘膜が傷ついて、胃潰瘍を発症してしまうのです。
胃の防御機能のバランスを崩す原因には、次のようなものがあります。
・ストレス
・飲酒
・喫煙
・過労
・香辛料
・熱い食べ物
特に、ストレスは胃潰瘍の発症リスクを上げるものです。ストレスを感じると、迷走神経が興奮しますので、胃酸の分泌量が増えます。さらに、内臓神経が興奮することで、胃の粘膜の血流が悪くなって、胃の粘膜を守る粘液の分泌量が低下します。
つまり、ストレスは胃の攻撃因子を増加させて、防御因子を低下させることで、胃潰瘍を発症しやすくしてしまうものなのです。
3、胃潰瘍の症状
胃潰瘍の症状には、胃痛や腹部膨満感、食欲不振、胸やけ、吐血、下血などがあります。
■胃痛
胃潰瘍が起こると、みぞおちや上腹部に鈍く持続的な痛みが生じます。これは胃潰瘍の炎症によるもので、食後に疼痛が悪化することが多いという特徴があります。
■腹部膨満感
胃潰瘍になると、胃酸の分泌量が減ったり、腸内ガスの産生が亢進することで、腹部膨満感を感じるようになります。
■食欲不振や胸やけ
胃潰瘍によって、胃酸の分泌量が多くなったり、胃酸が食道へ逆流すること、胃の動きが悪くなり、胃に長時間食物が残っていることなどが起こります。
これらの原因で、食欲不振や胸やけの症状が現れるのです。これに伴って、悪心や嘔吐などの症状が出ることもあります。
■吐血、下血
胃潰瘍が進行して、胃酸によって潰瘍の下部分にある動脈(潰瘍底動脈)が浸食されると、そこから出血を起こしますので、吐血や下血の症状が出てきます。
4、胃潰瘍の治療・薬
出典:胃潰瘍・十二指腸潰瘍 病気の基礎知識|アステラス製薬|なるほど病気ガイド
胃潰瘍の治療は、まずは胃からの出血があるかどうかで治療法が異なります。
■胃からの出血がある場合
胃からの出血がある胃潰瘍の場合は、内視鏡で止血を行い、それでも止血ができない場合は、外科的手術などで止血を行います。
■胃からの出血がない場合(止血治療後)
胃からの出血がない場合は、NSAIDを服薬していたら、NSAIDの服用を中止します。その後は、ピロリ菌の感染があれば、ピロリ菌除去の治療を行います。
ピロリ菌除去のためには、2種類の抗菌薬とプロトンポンプ阻害薬を7日間服薬します。
ピロリ菌感染が認められなかった場合は、潰瘍を治すための薬物療法を行います。通常は、胃酸の分泌を抑制したり、胃の防御機能を高めるH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬、抗コリン薬、プロスタグランジン製剤、防御因子増強薬などを用います。
5、胃潰瘍の看護問題
胃潰瘍の看護問題について考えてみましょう。
■胃潰瘍による疼痛や苦痛がある
胃潰瘍になると、疼痛や食欲不振、胸やけ、悪心、嘔吐、腹部膨満感などの症状が現れます。これらの症状があることで、患者は苦痛を感じますので、看護問題にあげて看護計画を立案し、ケアを行っていく必要があります。
もし、胃潰瘍で吐血や下血がある場合は、出血のリスクがあること、場合によっては、出血性ショックのリスクがあることなどを看護問題にあげなければいけません。
■胃潰瘍を発症させやすい生活習慣である
胃潰瘍はピロリ菌やNSAIDが直接的な原因ですが、それに加えてストレスや過労、食事などの生活習慣も深く関与しています。
今回の胃潰瘍は治療によって治癒したとしても、今までと同じような生活習慣を送っていたら、またすぐに再発する可能性がありますので、看護介入していく必要があります。
6、胃潰瘍の看護過程
胃潰瘍の患者の看護をする上で大切なことは、その患者の生活習慣を考慮することです。先ほども説明しましたが、胃潰瘍は生活習慣と密接な関係がありますので、再発を予防するためには、胃潰瘍の発症リスクを上げるような生活習慣を改善しなければいけません。
そのためには、まずは患者の情報収集を行いましょう。そして、患者と話し合いながら、生活習慣の中で何が胃潰瘍の発症リスクを上げていたのかを見極める必要があります。
それから、その生活習慣を改善するための看護計画を立案する必要があるのですが、どう改善していくかは、とても難しいポイントです。
たとえば、仕事で多大なストレスを感じていた患者の場合、ストレスを軽減するためには、仕事を辞めるように指導することは正しい看護ケアとは言えません。
仕事を辞めてしまったら、その患者は生活していけないからです。これは大げさな例になりますが、その患者の事情に配慮した上で、患者の生活習慣の改善に努めていく必要があります。
胃潰瘍の看護計画の一例をご紹介します。
看護目標 | ・胃潰瘍による疼痛や苦痛が軽減する
・胃潰瘍のリスク因子を理解し、再発予防のための自己管理ができるようになる |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・血液検査のデータ ・腹部症状(疼痛、腹部膨満感、悪心、食欲不振、胸やけ) ・嘔吐の有無 ・薬物療法後の症状の変化 ・日常生活習慣 ・ストレスの有無 |
TP(ケア項目) | ・医師の指示に基づく薬剤の投与
・安静の援助 ・環境調整 ・ストレス因子の除去 ・食事療法 ・検査や処置の介助 |
EP(教育項目) | ・生活上の注意点の説明
・食事療法の説明 ・服薬の必要性の説明 ・定期受診の必要性の説明 |
まとめ
胃潰瘍の基礎知識や原因、症状、治療・薬、看護問題や看護過程をまとめました。胃潰瘍は、再発しやすい病気ですので、生活習慣の改善を指導して、患者自身が再発防止に取り組めるように看護していきましょう。
愛知県名古屋市在住、看護師歴5年。愛知県内の総合病院(消化器外科)で日勤常勤として勤務する傍ら、ライター・ブロガーとしても活動中。写真を撮ることが趣味で、その腕前からアマチュア写真家としても活躍している。
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