自然保育|のっぱらを例に自然保育学会の目指す保育を東京で紹介(2017/03/07)
北欧のデンマークやドイツが発祥とされる「森のようちえん」が徐々に日本にも浸透し、2005年くらいから自然保育を掲げる保育園などが増えてきているといいます。そこで、自然保育とは何かを改めて説明していくと共に、自然保育の現場の様子もまとめていきたいと思います。自然保育について考える際に、是非参考にしてみてください。
1、自然保育とは
子どもの頃の豊かな体験がその後の人生に大きな影響を与えるということを、子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の方向性(引用元:文部科学省)の中でも触れられています。文部科学省は、人の一生において、幼児期は、生涯にわたる人間形成の基礎が培われる極めて重要な時期であるとし、幼児は、生活や遊びといった直接的・具体的な体験を通して、情緒的・知的な発達、あるいは社会性を涵養し、人間として、社会の一員として、より良く生きるための基礎を獲得していくとしています。
また、幼児教育の意義及び役割として、「幼児期の発達の特性に照らした教育とは、受験などを念頭に置き、専ら知識のみを獲得することを先取りするような、いわゆる早期教育とは本質的に異なる」としています。こうした文部科学省の提唱する幼児教育と近いのが自然保育なのではないかと考えます。
1-1、自然保育の具体例
自然保育とは、信州やまほいくの郷のホームページを参考にすると、屋外での遊びや運動を中心に様々な体験を深め、知力と体力も同時に高めることができるとされる新しいスタイルの保育・幼児教育のことを指します。
具体的にどのような保育活動をしているのかというと、とにかく自然の中で過ごすことに重点を置き、雨の日も雪の日も屋外で自然と触れ合いながら生活をします。そうしたことで気象にも負けない逞しい心と身体が育まれていきます。時には危険な目に遭うこともあるけれど、そうしたことから自ら失敗を教訓に学んでいく糧となっていくのです。もちろん本当に危険なことは保育者が充分な配慮を行いますが、保育者が手を出し過ぎない「見守る保育」も自然保育の特徴の1つとなっています。保育者と共に山や森を歩き四季の自然に触れ、農業体験や調理体験も積極的に行う中で「食育」も実体験を伴いながら学んでいくことが出来るとされています。
信州は全国4位の広大な県土の78%が森林ということもあり、こうした自然保育に力を入れていて、信州が自然保育と認定した、信州型自然保育認定団体数は2017年2月現在115団体にも昇っています。
出典:i-nac 国際自然環境アウトドア専門学校
また保育士や幼稚園教諭のカリキュラムに加えて、自然の中での子どもの成長や学びを引き出す指導力を身につけていくこども自然保育学科というのも出来てきています。春夏秋冬の自然を知りアウトドアの経験をたくさん積んでいくことによって、自然保育を行っている保育園で活躍していける保育士へと成長していけるのです。
2、自然保育~「のっぱら」の例~
飯田市にある森のようちえん自然保育のっぱらを紹介していきます。自然保育のっぱらは、2歳児から5歳児を対象とした認可外保育所です。
2-1、のっぱらの目指す保育
自然保育のっぱらの保育目標は、「子どもを真ん中に子どもを信じて待つ保育」としています。自然保育の特徴でもあるように、子どもが主体となり自ら考えて行動していけるよう生きていく力を育んでいくことをねらいとしています。
また、自然と触れ合うことで命の大切さであったり、様々な天候や条件で自分の力だけではどうすることも出来ない自然の雄大な力を身を持って体験し、自然の中で生きていける安全能力を培っていけることも自然保育のっぱらのねらいです。
具体的な保育活動は、野外活動が中心で四季に基づいた内容に取り組んで行きます。春は田植え、夏は川遊びやキャンプ、秋は稲刈りや登山、冬は醤油仕込み、味噌作り、雪遊びなどがあります。
出典:自然保育のっぱら
写真のように、みんなで五平餅作りを行うこともあります。食育を国民に広めていく為に農林漁業体験の推進(引用元:農林水産省)で、国民の食生活が自然の恩恵の上に成り立っていることや食に関わる人々の様々な活動に支えられていること等に理解を深める方法として、農林漁業体験を推奨しています。田植えなどを実際に行ってみたり、それを収穫し五平餅作りをするなど全て自分たちの手で体験してみるという貴重な経験が農林水産省の推奨通り、何よりの食育となっていくのではないでしょうか。
3、東京での自然保育
関東というと自然環境に限りがあるイメージがありますが、それでも関東でも自然保育に取り組む保育園が増えつつあります。
そのうちの1つである、町田市にあるしぜんのくに保育園を紹介していきます。食育に特に力を注いでおりメディアでも多数取り上げられ、保育園から生まれたアイディアを詰め込んだレシピ本も出版しています。
出典:ものがたりレシピ (幻冬舎 2007)
こちらは、シンデレラをモチーフにしたシンデレラカレーなど、独自のセンスと解釈で物語に出てくるキャラクターなどをメニューに取り入れたレシピが掲載されています。中には絵本も多数紹介されていて、保育園での生活だけでなく、在宅で過ごす幼児などでも楽しめる1冊となっています。
3-1、広大な園庭
そして、このしぜんのくに保育園の1番の特色は、園庭が1000坪も所有しているところです。東京・町田駅からわずか20分しか離れていない距離でのこの敷地と自然環境には驚かざるを得ません。
出典:日経DUAL 1000坪の里山を駆け回り鹿と遊ぶ東京の認可園
その里山でもある広大な園庭には鹿やクジャク、キツネ、羊も生活をしています。しぜんのくに保育園では「食育活動」「芸術活動」「自然体験」を3つの柱として掲げ、子どもたち自身に今日は何をするかを決めてもらう自主性を大切に育てていっています。
具体的な北活動は、「建築のお部屋」「美術のお部屋」「演劇のお部屋」「研究のお部屋」「音楽のお部屋」の5つのゾーンに分けるコーナー保育を取り入れています。しぜんのくに保育園では保育士が「先生」となるのではなく、子どこたちをサポート、アドバイスする助言者という立ち位置となります。
出典:しぜんのくに保育園
このようにコーナー保育の部屋も木製家具を中心に落着いた雰囲気で取り組めるよう意識されています。
出典:日経DUAL 1000坪の里山を駆け回り鹿と遊ぶ東京の認可園
芸術活動は、生活発表の会を2010年から「こども美術館」として改めて、作品を飾るだけでなく製作過程や何故それを作成しようとしたかというエピソードも一緒に写真のようにパネル展示もしています。それらを耕作展示という表現で紹介しています。
虫歯予防に取り組む虫歯予防dayや読書週間など、自然活動と共に園内での活動でも学べることも多くバランスのいい保育園ではないかと思います。
4、自然保育学会
2015年10月31日に、長野県長野市の長野短期大学の上原貴夫教授が発起人となり、日本自然保育学会が設立されました。自然保育に特化した学会は全国初となります。
日本自然保育学会とは、同ホームページによると自然保育に関心を持つ保育実践者、研究者、保護者や、「自然保育」を推進する各種団体や自治体など、多様な立場の関係者の人々が交流し、それぞれの知見を蓄積していく知のプラットフォームのことを指し、「自然保育」の意義を明らかにするために「実践」と「学術」の両面からアプローチしていきます。また、「自然保育」に携わる人材育成のための研修プログラムの開発も目指しています。
4-1、具体的な活動内容
自然保育に集い、学び、語らうというテーマの下、大会も行っていて、プログラムには課題研究として学生企画シンポジウムもあり「自然保育を問う~自然保育をとらえ、実践し、何を育むのか~」というテーマなどを掲げ、子どもが置かれる環境の変化から子どもたちを育てる為に、保育者は何をしていくべきなのかを考えていきます。
まだ設立されたばかりで、これからの活動が期待されるところですが、長野県で設立された「信州型自然保育認定制度」を更に盛り上げ自然保育の普及に力を入れていくとされます。
まとめ
文部科学省が幼児期は生涯における人間形成に対して極めて重要な時期で、早期教育を詰め込むよりも生活や遊びの直接的な体験から学んでいくべきだとする教育理論を具現化したようなものが自然保育ではないでしょうか。
雨や雪の日も1日の殆どを森林などの野外活動で過ごすことにより、自然の中で逞しく生活していく知恵や力が身についていくとされます。また、保育者が手や口を出すのではなく自分で考えて行動していくことを主体とすることにより、自分の考えが尊重されるという経験を積み自己肯定感も高めていけることが期待されます。そのような自然と密着した保育体制の「自然保育」に今、注目が集まっています。