薬力学

薬力学(やくりきがく)とは

薬力学はその名の通り「薬の力」、つまり薬が生体にどのような影響を与えるのかについて研究する分野です。生体が薬をどのように扱うのかを研究する薬物動態学とは分野としてかなり近接しており、薬物相互作用も研究範囲とするなど共通点もあるため、混同されてしまう場合もあるようです。しかしながら、薬側からアプローチする薬力学と生体側からアプローチする薬物動態学の両方があってこそ解明される事象も多く、両者は異なる学問として成り立っています。また、薬物と受容体の関係性など生体のどの部分にどれだけ作用するかを研究するという観点でみれば、薬理学とも比較的近いと言えるでしょう。

抗菌薬の評価に用いられるPK/PD理論

臨床現場で最も薬力学の恩恵を感じる箇所といえばPK/PD理論でしょう。薬力学を「PD」、薬物動態学を「PK」とした「PK/PD理論」は薬物の濃度と効果の関連性を数値として評価できるため、特に抗菌薬の開発や治療において用いられています。この理論の開発によって、抗菌作用を得るためにはどの程度の血中濃度まで高める必要があるのか、あるいはその血中濃度をどれだけ持続させる必要があるのかを科学的に検討、証明することができるようになりました。そして、得られた結果から薬物の使用を必要最小限に抑えることで、副作用の発現頻度も軽減できるようになったのです。入院患者への抗菌薬投与ではしばしば、PK/PD理論を用いた個々のTDM計画が立てられています。

薬力学を学ぶと医薬品の添付文書が読める

薬力学を活かす、というと最先端の治療をイメージしてしまうかもしれません。しかし、どの薬局でも行われているような通常の調剤業務にも薬力学は活かされています。例えば、医療用医薬品の添付文書には、薬物動態や臨床成績、薬効薬理などといった項目で医薬品の研究結果が記されています。薬力学を学んでいない場合、添付文書からは「○○%で□□という副作用が出る可能性がある」など文章で明記された効果や危険性しか知ることはできません。しかし、薬力学的な基本的知識や考え方を学んでいれば文章で明記されていなくても、臨床試験や非臨床試験の結果などから投薬予定の患者に対してどの程度の効果と副作用が見込まれるのかを類推することができるようになります。つまり、「被験者全体としては□□という副作用は○○%のみしか発現しないが、Aさんの場合△△%程度も発現してしまう可能性があるためこの処方は危険だ」と考えることができるのです。添付文書のほかにインタビューフォームなども用いることで、さらに正確な予測が可能になるでしょう。この予測は、個々の医薬品に対してだけでなく2種類以上の薬を同時に使用する場合の相互作用についても適用できます。他科診療などによって同効薬が重複しないよう確認することは、薬剤師に求められる専門性のうち最も他職種が苦手とする項目です。したがって最先端の治療ではもちろん、一見重大でないと思われる1つの処方であっても、薬剤師の業務には必ずと言っていいほど薬力学は活かされているのです。