調剤過誤

調剤過誤と調剤事故

調剤事故とは、調剤に関する事が原因となり患者さんに実際の健康被害が発生した状況を指します。調剤事故は医療事故の1つにあたります。調剤事故であるかどうかを検討する際、事故の発生の原因に薬剤師の過失があったかどうかは関係がありません。例えば、薬剤師の勤務していない院内処方での調剤のミスで、患者さんに健康被害が生じた場合でもそれは調剤事故であるということができます。一方で調剤過誤とは、薬剤師の過失があった事によって、患者さんの健康被害が引き起こされてしまったような調剤事故を指しています。薬剤師の過失とは、薬を調整し揃えるといった実際の調薬の業務だけに留まりません。服薬指導が不十分であったために患者さまが誤解し、服薬方法を間違えて健康被害がおこってしまった場合でも、それは薬剤師の過失にあたります。そのため、このようなケースの場合は調剤過誤であると言えます。

ハインリヒの法則とヒヤリ・ハット

このような調剤過誤を未然に防ぐ為には、ヒヤリ・ハットの事例の記録や収集、また薬局内や医療チーム内での共有や蓄積が有効です。ヒヤリ・ハットとは、すんでのところで事故を回避した、あるいは結果としては患者さんの健康被害が生じなかったような事例を指す言葉です。文字通り、医療事故に繋がったかもしれないと「ひやりとした、はっとした」事例を表しています。ヒヤリ・ハット事例の集積と分析が医療安全の確率に有効である、という考え方のベースとなっているのはハインリヒの法則です。米国で損害保険会社の調査部に所属し、労働災害などの統計学的な調査をまとめたウィリアム・ハインリヒの論文が元になっています。ウィリアム・ハインリヒの統計によると、1件の深刻な事故がおこってしまう場合、事故がおこるまでにはその現場ではで29件の小さな事故がおこっていました。また、さらに29件の小さな事故だけではなく、300件もの大量のヒヤリとするようなアクシデントが発生していました。さらにウィリアム・ハインリヒは同じ環境に多くの安全ではない行動や状況が存在していた事を指摘し、このようなさまざまなレベルの災害の98%は予防する事が可能であったと結論づけています。このヒヤリ・ハットと重大な事故との比率がハインリヒの法則であり、小さなアクシデントの芽であるヒヤリ・ハット事例の発生を予防する事ができれば、結果として重大な事故の発生の可能性を大幅に下げる事に繋がると考えられています。

調剤でのヒヤリ・ハット

日本薬剤師会では2001年にアンケートによって4040件のヒヤリ・ハット事例の収集を行いました。それによると、最も多く報告された事例は「同一医薬品の規格の間違い」で21.4%、次いで「錠剤やカプセル剤の計数の間違い」で21%、3位となったのは「異なる薬剤を調剤するミス」で18,6%となりました。これらのヒヤリ・ハットは統計上多発しており、実際に同様のヒヤリ・ハット事例のない薬局であっても注意深く、ミスを防ぐための物理的、人的な工夫が必要であると共に、ミスが起こった場合であっても、患者さんに薬が渡る前にそれに気が付く事ができるようなチェック体制が必要であると言えます。