上乗せ試験

上乗せ試験とは

一般に治験と呼ばれている臨床試験は対照群とプラセボ対照群に分けて試験が行われます。別名「アドオン試験」とも呼ばれています。臨床試験を行う際に、被験者には通常の治療薬による標準的な治療を行います。更に、そこに治験薬やプラセボ薬を追加して披見者の評価をしていきます。このように標準的な治療を既に受けている披見者に対して更に治験薬又はプラセボ薬を追加投与する方法を上乗せ試験と言います。標準治療を施すことで疾病に有効であると分かっているにも関わらず、臨床試験でプラセボ対照群になってしまった披見者に対する治療が蔑ろになってしまうことが倫理に問題視されていました。この倫理的問題を解決するために上乗せ試験が出来ました。

上乗せ試験のメリット

倫理的な問題の解決は勿論一つのメリットです。上乗せ試験は抗腫瘍薬や抗てんかん薬、抗心不全薬などの臨床試験で多く行われています。これらの疾病の治療は困難を極める場合も少なくありません。上乗せ試験では標準治療の効果が十分ではない場合にも、臨床的な疾病の改善のデータが得られるというメリットもあるのです。

上乗せ試験のデメリット

上乗せ試験が有効であるとされているのは、標準治療薬と臨床試験の対象である新薬の薬理作用が異なる場合のみだと考えられています。そのため、同様の薬理作用を持つ新薬の臨床試験の場合は、上乗せ試験を実施できない可能性もあります。

臨床試験の倫理性について

1964年に世界医師会が採択した宣言にヘルシンキ宣言というものがあります。フィンランドのヘルシンキという地域で採択されたため、この名前で呼ばれるようになりました。以降、何度か大きな改定を経て現在のヘルシンキ宣言となっています。ナチスで行われていた人体実験の反省から作成された「ニュルンベルク綱領」に基づき提唱されています。この宣言ではヒトを臨床研究の対象とした場合に医師が守るべき倫理規定が定められています。当時は医師に対しての規定でしたが、現在は医療に従事するすべての人が守るべき規定とされています。GCP(Good Clinical Practice:医薬品臨床試験の実施に関する基準)のガイドラインには「治験は、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則、GCP、および適用される規制要件に従って行われなければならない」と書かれています。日本では1990年からこのヘルシンキ宣言に基づいた臨床試験に関する基準が施行されました。ヒトを対象とする臨床試験での必須事項は以下の通りとなります。1.科学的、倫理的に適正な配慮を記載した試験実施計画書を作成すること。2.治験審査委員会で試験計画の科学的、倫理的な適正さが承認されること。3.被験者に事前に説明文書を用いて試験計画について十分に説明しし治験への参加について自由意思による同意を文書に得ること。現在の臨床試験はこのヘルシンキ宣言が常に背景にあります。披見者の利益を社会に対する寄与よりも優先すべきという考えの下、私たちは医療行為を行わなければなりません。