粉末吸入剤

粉末吸入剤の種類

現在の医療において、吸入剤は気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患には欠かせない存在となっています。これは吸入という過程を経ることで、薬剤を直接患部である気道に運ぶことができるためです。吸入剤としてよく用いられるのは、「粉末吸入剤(ドライパウダー)」と「加圧噴霧式定量吸入剤(エアゾール)」です。「粉末吸入剤」は、薬剤が粉末状になっており、これを自分の吸気によって吸い込むものです。粉末状の薬剤が乳糖などのキャリアと二次粒子を形成することで、薬剤が器具に付着・残留しにくく、また吸入しやすくなっています。自分のタイミングで吸入できるという点もメリットの一つです。一方、「エアゾール」は気化した液化ガスや圧縮ガスの圧力により、薬剤を霧状にして容器外に放出させるものです。薬剤が霧状になっているため、吸う力が弱くても済み、発作時など呼吸機能が低下している場合でも吸入できるのがメリットです。

正しい吸入法

まず、吸入器を垂直に持ち呼吸を整えます。次に十分に息を吐いてから、隙間がないように吸入器をくわえ、勢いよく吸います。この時、舌を下げて喉の奥を広げるようにすると、気管支まで届きやすくなります。吸った後は5~10秒息止めをするように指導しましょう。これは薬剤が微小なため、呼気によって再び空気中に出ていってしまうためです。この息止めを行うことで、薬剤の肺内沈着率を増加させることができます。そして最後に、鼻からゆっくりと息を吐きます。これが一連の吸入法です。このような吸入の指導は、初回の患者さんにはもちろんですが、毎日使用している患者さんにも定期的に指導することも重要です。このとき、「正しい吸入法を行っていますか?」と尋ねるのではなく、「普段どのように吸入していますか?」と尋ねて直接患者に説明させることで、より問題点が浮かびやすくなってきます。

吸入後の注意点

粉末吸入剤を用いて吸入した後は、必ず「喉の奥までうがい」をするよう指導しなければなりません。呼吸器疾患でよく用いられる薬剤成分としては、副腎皮質ステロイド(免疫抑制薬)とβ2刺激薬(気管支拡張薬)があげられますが、これらが口腔内に付着した状態のままだと、副作用が生じる危険性があるのです。副腎皮質ステロイドの場合、口腔内の免疫が低下するため、普段は繁殖しないようなカビ(真菌)が繁殖するという、「口腔内カンジダ」になる危険性があります。また、声帯に付着すると局所的なステロイド筋症がおこり、これによって嗄声(させい)が生じることもあります。β2刺激薬については、口腔内から吸収されてしまう恐れがあり、これにより動悸や手の震えなど様々な全身作用が生じてしまいます。加えて口腔内から吸収された場合、肝初回通過効果を受けなくなるため全身の血流により移行しやすくなってしまいます。以上の点から、吸入後のうがいは必要不可欠ですが、小児や高齢者はうがいをすることが難しいこともあります。そういった場合は、食前に吸入してもらうように指導しましょう。吸入後に食事をしてしまえば、飲食物によって口腔内に付着した薬剤がとれるためです。